予算400ドルで建てた、キュートでキッチュなツリーハウス「 Treehouse in Brooklyn」
幼稚園やショッピングセンターの遊び場、車のディーラーなどで見かけるプラスチックのカラフルなおうちはいつでも子供たちで大盛況。小さなおうちはうす暗く窮屈で、でも不思議な安心感で満たされている。ブルックリンのアパートの裏庭に建つこの小さなツリーハウスからもそんな子供時代のノスタルジーが感じられます。
遡ること2010年、夏のインターン先が決まらず思い悩んでいたニューヨーク州ブルックリンのAlexandra Meynさん。インテリアデザインの修士号とアリゾナ大学のMBAを習得した才媛にとって、就職先が決まらない現実はとても辛いものでした。思い悩む彼女を見かねたのか、友人たちは気分転換も兼ねてAlexandraさんのアパートの裏庭にツリーハウスを建ててみようと彼女に提案します。
ツリーハウスを作ることで実践的なデザインスキルが身につくと考えたAlexandraさんも、ツリーハウスについて早速ネットで調べ始めました。そして書籍で基本的な作り方を学んだ後、仲間たちとはじめてのツリーハウス作りに着手します。
実はこれまでに紹介してきたタイニーハウス同様、このツリーハウスにかけられるお金もとても少ない物でした。その金額、たったの400ドル。そのためドアや窓はゴミとして捨てられていた物を再利用し、床板やペンキなどはリサイクルショップなどで安価な物を手に入れました。
安全性を優先したため当初のイメージよりがっちりした見た目になったのが少々不満というAlexandraさん。しかし枝の上ではなくしっかりした土台の上に小屋をのせ、大きな桑の木を抱きかかえるような格好にしたことで、結果として竜巻や猛吹雪にもびくともしない丈夫なツリーハウスが完成しました。
鉄のはしごを上って拾い物のフレンチドアを開けると、いかにも女性らしいカラフルなドールハウス的空間が広がります。壁の一部にはファッション雑誌がコラージュされ、窓下に貼られたピンクのオシャレな壁紙はよく見るとコウモリやハエジゴクの絵柄。空間のポイントとなる赤のコーヒーテーブルやメキシコで購入した祭壇など、約3.7㎡の室内はインテリア上級者に見られるキッチュなミックステイストで彩られています。
子どもの頃「空飛ぶ絨毯」と教えられた真紅のカーペットの上で、アメリカの古き良き時代のレコードを聴きながら過ごすこの空間は、Alexandraさんにとって辛い現実を束の間忘れさせてくれるサンクチュアリ(聖域)なのかもしれません。
さてこのツリーハウスにはこんな後日談もありました。Alexandraさんのツリーハウスを紹介する記事がニューヨークタイムズに掲載されると、瞬く間にネットユーザーたちの評判となり、グーグルでは600以上の関連記事が上がる事態となりました。
この現象に一番驚いたのは他ならぬAlexandraさん。都会の一画にひっそりと建てられた小さなツリーハウスに対する元子供たちの熱狂は、彼女を圧倒させると同時に大きな感動を与えました。またネットでの評判がきっかけになり、フリーランスのデザインの仕事も幾つか舞い込むこととなりました。
あの時仕事が見つからないと嘆いてばかりいたらこんな奇跡は起こらなかったでしょう。仕事がないなら自分で作ろう、常に前を向いて行こうと決めたAlexandraさんの心意気こそ多くの人の心を揺さぶった小さなツリーハウスの魅力に他なりません。
(文=伊藤愛)