【特集コラム】第1回:少し未来の暮らしがある街、ポートランドってどんな場所?

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皆さんは、アメリカオレゴン州ポートランドと聞くと、何を思い浮かべるでしょうか。ZINEやクラフトビールなどのDIY文化、大規模なシェア工房、町で見かけられる小商い的な屋台など、近年は雑誌でも特集されることが多いポートランド。新たなライフスタイルの発信地として注目している人も多いのではないでしょうか?
ポートランドはニューヨークやロサンゼルスのように、大都市でもなく観光都市というわけでもありません。それでも、ポートランドが多くの人に注目されるのには訳があります。
アメリカ在住の私の感覚では、ポートランドと聞くと、「西海岸にある自然に囲まれた中都市」というイメージが強いと感じます。実際に住んでいる人達の声はというと、「大きすぎず小さすぎないところ」が良いという声をよく聞きます。北にあるシアトルまで車で3時間、そのまま北上すればカナダまで行けることが、他の州より地理的に恵まれていると言えるでしょう。

多くの人達が、便利な大都市からポートランドに移住しているのも事実です。その理由は、大都市のようにごみごみしていないことと、それに何より「人と人とのつながり」を大切にするポートランドの環境に惚れ込む人がたくさんいるからです。

大都会の喧騒を避け、緑豊かなポートランドに引っ越して来た人達は、「大都市と比べて物価が安い」「徒歩圏内にローカルショップがある」「緑が多い」「公園などがたくさんあるので散歩なども気軽にできる」「ファーマーズマーケットなどで自然派食品が気軽に買える」などの言葉で、ポートランドの魅力を口にします。
人と人との結びつきから心豊かな暮らしを与えてくれるポートランドは、アメリカでも住みやすい街だと注目されています。

私の住むアメリカでは、数年前までは、住みたい街の1つにポートランドの名前を聞くこと多かったと記憶しています。
しかし、最近ではそのトレンドが様変わりし、ユタ州とテキサス州の街が数カ所、上位に上がっています。しかしながら、今もなお、ポートランドには他の町にはない個性があります。

ポートランドは、DIY精神が突出した街です。木材を使用したDIYだけではなくクラフト系のDIYも盛んで、その他にはクラフトビールやカフェなど、食についての創造活動も大都市に負けない魅力を持っています。未来住まい方会議では、そんなポートランドが発信する「豊かな暮らし作り」のヒントについて迫っていきたいと思います。

Portland 01.02Via: travelportland.com

ポートランドの地理

大自然に恵まれたポートランドは、アメリカ西海岸、オレゴン州の北西に位置します。カスケード山脈にあるフッド山をはじめとする山々や、ウィラメット川やコロンビア川などが存在するため、周囲にはたくさんの自然公園が存在します。そのお陰で、ハイキングやボートでの川下りなどのアウトドアのアクティビティも盛んです。

ポートランドは、緯度が札幌市と同じで姉妹都市でもありますが、札幌市よりは夏が長く、冬の年間最低気温も氷点下を下回ることが少ないようです。その代わり、太平洋から湿った空気が吹くため、10月〜5月頃はシトシトとした雨の日が続きます。

面白いことに、ポートランドは「ポート (港)」と名前についていますが、海岸からは127kmほど離れている町です。しかし、ポートランド周辺にある川を伝って太平洋まで出られるため、1800年頃には木材や農作物を輸出する中間地点として大変重宝されました。その後は蒸気機関車が発達したため、この輸出産業はますます発達していったということです。

1930年頃からは、ポートランド都市部で高度先端技術産業が盛んになりました。近年では半導体テクノロジー産業が発展し、そういった理由から、サンフランシスコのベイエリア南部が「シリコンバレー」と呼ばれるように、森の豊かなポートランドは「シリコンフォレスト」と呼ばれています。

Portland 01.03Via: travelportland.com

ポートランドの人口は約60万人で、在住者の平均年齢が36歳。東京の平均年齢が約44歳だということを考えると、ポートランドは比較的若い人達が住む街だと言えるでしょう。
DIYやアーティストによるクラフト文化が盛んなことなど、新しい文化が生まれる背景は、平均年齢が若いこととも関係しているのでしょう。

テクノロジーを中心に様々なトレンドを紹介するwebメディア「vocativ.com」によると、ポートランドは「35歳以下に人気のある都市」の10位に選ばれ、理由として、他の都市に比べて雇用の増加や給料の良さが挙げられました。その他にも、レストランやカフェが充実していて、生活費も他の大都市よりは比較的安く済むのも、35歳以下の人達には魅力だと述べています。
更に、公共交通機関が発達しているうえに自転車での移動が楽、それに余暇を楽しめる施設が近場にたくさんある点が、ポートランドが35歳以下に人気のある理由とも述べられています。

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ジェネレーションYが求める「充実した生活」とは?

これがなぜ、他の世代ではなく35歳以下に限定なのかというと、「Millennials (ジェネレーションY)」と呼ばれる世代が鍵になるからです。Millennialsというのは、若干メディアによって年代が前後しますが、1980年から2000年に生まれた人たちのことです。
アメリカでは一般的に、この世代の人達はその上の年代と違って車を持たない生活を好み、充実した生活を望む傾向があります。彼らの言う「充実した生活」というのは、高収入でも仕事漬けの生活ではなく、仕事も大事だけれど自分の時間も大切にしたいという生き方のことです。
そのような生活を送りたいと言う願いは、このMillennialsの世代だけではなく、未来住まい方会議読者の多くにも言えることではないでしょうか。このようなライフスタイルに合ったポートランドを通して、充実した生活を送るための豊かな暮らし方のヒントが見つかるかもしれません。

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ポートランドがポートランドである理由「ポートランドを風変わりにし続けよう」

若い世代が支えるポートランドには変わったモットーがあります。それは、「Keep Portland Weird (ポートランドを風変わりにし続けよう)」というものです。風変わり (weird)というと、ちょっと悪い意味に聞こえるかもしれませんが、これは「風変わり」=「他とは違った」、または「uniqueness (唯一性)」のことだと言えます。このモットーから、「ポートランドは他とは違う特別な存在なんだ」という、ポートランダー(ポートランドに住む人達)のプライドが垣間見える気がします。

Portland 01.11Via: travelportland.com

Portland 01.12Via: travelportland.com

ポートランド、なにがそんなに面白いのか?その暮らしとは。

第1回目の今回は、ポートランドという街についてお話しました。
第2回目は、アメリカのDIYの実態を紐解きながら、ポートランドでのDIY事情をご紹介します。大型DIY店が存在するアメリカでは、DIYをする人も多いのですが、ポートランドに存在する、家から出る古い材料のリサイクルを目的とした施設”The Rebuilding Center”とDIYを独自の方法で支援する”ADX”にフォーカスしていきます。その2つの施設から、ポートランドではどのようにDIYに取り組んでいるのかを見ていきましょう。

Portland 01.07Via: flickr.com

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第3回目は、ポートランドのクラフト文化とその活動についてです。ポートランドでは、日本ではまだ馴染みのない「Zine文化 (日本で言う自費出版のようなもの)」やクラフト関連のイベントが盛んです。そこから、ポートランドではどのようなクラフト文化があるのか、その活動にはどのようなものがあるのか、をご紹介したいと思います。

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最終回の第4回目は、ポートランドの食のDIYです。食のDIYとも言えるクラフトビールを中心に、ポートランドとクラフトビールのつながりについてお話します。また、第2の食のDIYとも言えるであろう、ポートランド内外でも注目を集めるクラフトスピリッツについてもご紹介します。

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オリジナリティー溢れ、他の街とは違った存在というポートランド。大きすぎず小さすぎないこの街から見える、豊かな暮らしとは何でしょうか。次回から、ポートランドのDIY精神を通してその秘密を見ていきましょう。

Via:
travelportland.com
census.gov
vocativ.com
oregonencyclopedia.org
city-data.com
flickr.com
heatherkaismith.com
livablecities.org
backgroundchecks.org