自然と寄り添うと原始の形に回帰するトンガリお屋根の「Woodland home」

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かつてネイティブアメリカンが暮らしていた円錐型のティピーテントを彷彿とさせるこの建物。避暑地として有名な栃木県那須町の林の中に建てられたこの家が、今回ご紹介する「Woodland home」だ。

「Woodland home」は、日本人建築家、中村拓志氏が手がけた作品だ。中村氏は今までに東急プラザ表参道原宿、銀座中央通りのランバンのブティックなどの設計やナイキのアメリカ本社直営のデザインオフィスのインテリアデザインなどを手掛けてきた、マスコミからも注目を浴びる建築家だ。中村氏は「建築設計をコミュニケーションデザインと考え、人が自然や建築と関わり、愛着を感じること」を建築のモットーとしている。

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自然と建築との調和を大切にした建築家の彼が手がけたこの家は、地域の現生種にこだわったオーガニックな農園づくりを趣味としている夫婦に依頼されて設計されたものだ。自然を愛するこのご夫婦には林の木々をなるべく切らずに家を建てたいという希望があった。

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林の中に家を建てるとなると、どうしても土地を広く使うことができない。必然的に建物自体が狭くなり、林の枝葉がつくる影が原因で室内はどうしても薄暗くなりがちだ。そのようないくつかの課題を解決すべく、直射日光を確保するために高い天井とトップサイドライトを設けることにした。
周りの木々の邪魔にならないよう、木の幹から放射状に延びる枝葉と反比例した形を追求すると円錐型の建物に行き着いた。その結果、立方体と比べて3分の1の容積で済むため、空調のランニングコストを大幅に抑えることができた。

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中村氏は林をそのまま活かすために、なだらかな傾斜のある地面に沿って縫い合せるように、とんがり屋根の円錐型の建物を用途別に大小の部屋を組み合わせて建築した。昆虫や湿気や雪などの侵入を防ぐため、各部屋の外部からの間口は地面より少し高く設置された。

室内は深みのあるウッディ―なフローリングに高い天井や壁面は明るい白色に塗られている。天井は最も高いところで8mの高さがあり、壁面は天井に近づくにつれて狭くなり、天井部分の大きさは2.6㎡ほどの面積となっている。

「なるべく不要なスペースを減らしたかったんです。例えば、壁の傾斜のために壁のそばに立つことはできません。だから壁面の近くはベッドや椅子などの背の低い家具を置くスペースとしてとらえました。」と中村氏は話す。

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天井近くに設置された小さな三角窓から入る日光は、白い壁面と天井に反射され室内を明るく照らす。壁面の独特な形状から作られる美しい陰影が室内に独特な雰囲気を作りだしている。また夏季はにこの窓から涼しい風が入り心地よい空気が室内をめぐる。
冬期には頂部にたまった暖気を吸って床下から吹き出す換気システムで温かい空気が部屋を循環するような仕組みになっている。各室には床暖房と空調が取り付けられており、さらにリビングには暖炉が設けられているので1年を通して快適な生活を送ることができる。

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各部屋は小さな三角錐の空間でつなげられ、それが一般的な家の廊下のような役割を果たしている。それぞれの部屋は傾斜に沿って微妙に高さや視点が異なる。それにより視点がずれ、プライバシーが保たれる仕組みとなっている。

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よりプライベートな空間はガラスドアで仕切られている。このガラスドアには、家の近くで自生するアケビ、ビオラ、アネモネ、ゼラニウムとラークスパーなどの繊細な花々が、2枚のガラスでできた薄いシートの間に挟んだ樹脂フィルムに押し花のように閉じ込められていて、生活者の目を楽しませてくれる。花は紫外線で処理をされ、いつまでも色あせず鮮やかな色のままだ。

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建築事務所はこう付け加えた。「私たちの考えは図鑑で見る自然ではなく、本物の自然の恵みをリアルに反映させる新しい方法を見つけることでした。」

想像してみよう。この家を中心に、林の木々と戯れ、自然の音に耳を澄まし、自然の中に暮らす。時間はゆっくりと流れ、この原始的な形の家の中の空気も同様に住む人の暮らし方をゆったりとしたものに変えていくだろう。この家の家族はきっと暖炉の火を眺めながら長い夜を、一家団欒で穏やかに過ごすのだろう。実に贅沢な時間を味わっているのではないだろうか。

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Via:
dezeen.com
nakam.info