亡き父の思い出と共に、ホワイトハウスへ招かれた女の子の小さな家「La Petite Maison」
自立したい、自分だけの居場所が欲しい!その一念から、釘一本も打ったことのない12歳の女の子が学校の課題として始めたタイニーハウス作り。それは当初予想もつかなかった展開を経て、TED Talkでの堂々たるスピーチや、大統領のお膝元、ホワイトハウスへの招聘へとつながって行きます。
2012年、当時12歳のSicily Kolbeck さんは、ジョージア州アトランタで母親のSuzannah Kolbeck さんが運営する非営利のプライベートスクールに通っていました。来学期の自主課題について思いあぐねていた所、未来住まい方会議でも度々ご紹介してきたタイニーハウスビルダーのDerek “Deek” Diedricksen氏などの動画からインスピレーションを受け、タイニーハウスの作成を次の課題にすることを決めます。
このプロジェクトではSicilyさんがクライアント、建築家、ビルダー、資金調達係りの四役を務め、母親のSuzannahさんがプロジェクトマネーシャーを、そして船乗りで建具師でもある父親のDaneさんは仕事柄豊富な工具を携え現場で作業の手助けを担当。一見絶妙なコンビネーションのようですが、せっかちなDaneさんにとって、娘が電動工具を扱う様子を黙って見ているのは耐え難かったようです。
同じく娘のSicilyさんも、自分の家作りが父親の手によって奪われるようでイライラしていました。2013年の1月、タイニーハウスを作り始めた最初の数週間はそんな波乱含みのスタートでしたが、父と娘は徐々に共同作業のコツをつかんでいったようです。
同時期にSicilyさんが始めたIndiegogo(世界的なクラウドファンディングサイト)での建築資金の一部調達も、蓋を開ければおよそ三週間で1,660ドル(※約19.7万円)と、当初の設定金額よりも多くの資金が集まりました。このままスムーズにこのプロジェクトは進んでいくと誰もが思ったその矢先、ある悲劇がSicilyさんを襲います。
それは時に反目し合いながらも、「親友の一人」とまで慕っていた父親のDaneさんを突然の交通事故で亡くしてしまったこと。その時を境に、彼女はこのプロジェクトに対する興味を失ってしまったようでした。
Daneさんと一緒に土台のトレーラーに載せたデッキ……。その近くに立つことすら在りし日の父親の姿が思い出されてできない。Daneさんの亡き後、Sicilyさんも母親のSuzannahさんも、ただぼんやりと家の窓から作業の止まったトレーラーを眺める日が続きました。
二人を慰めに訪れる友人たちや親戚の数がまばらになる頃になっても、最愛の人を失った母と娘の深い哀しみは癒えることがありません。以前にも増して泣くことが多くなった娘と学校の運営に自信を無くした母親の二人は、少しの休息が必要と5週間のロードトリップに旅立ちます。
母が運転し、娘がナビを務める。これまでは父が運転し、母が道案内していたのが、今では娘が以前の母の役を務め、母と娘はお互いになくてはならない存在に変わっていました。父親を失ったことで何かにつけて決断できなくなっていたSicilyさんも、この件で「決断しないで生きていくことはもうできないのだ」と気付いたといいます。
こうして長旅から帰宅後、家の外に積まれた資材を目の前にして、二人は再びタイニーハウスと向き合う決意を固めたのです。
しかしその時、これまで家族のみで作業をしていた頃とは明らかに何かが変化していました。それはこのプロジェクトがもう家族だけのプロジェクトではなくなっていたということ。Kolbeck家の古くからの友人だというハウスビルダーのLuke Bairさんを筆頭に、善意のボランティアや友人たちの応援、ちょっとした質問にも打てば響くように沢山のクリエイティブなアドバイスをくれるFacebookのタイニーハウスグループ、地域のホームセンターのスタッフやリタイアした元職人の男性など、Sicilyさんのタイニーハウスを取り巻く支援の輪は大きく広がっていきました。
窓の取り付けも玄人はだしに上達したSicilyさんでしたが、唯一手間取ったのがロフトに取り付けた一枚のゆがんだ窓。それは父が生前彼の船から取っておいた古い窓でした。あえて取り付けの難しいアンティークをロフトの窓に選んだSicilyさん。「どうして自分はこんなことをしてるのか分かったわ。私でもできるんだってパパに見せるためよ。私は有能だから、ドリルを使えないってもうパパが怒らなくてもいいのよって。」
2013年の冬、ニューオーリンズで開かれたTED Youth conferenceに登壇したSicilyさんは、クラウドファンディングの動画で見せた無邪気な12歳の表情とは違い、大切な人の死を乗り越え、その最愛の人と始めたプロジェクトで得た経験のせいか、すこし緊張しながらも堂々としたスピーチを大勢の観客の前で披露します。
このスピーチの後に完成されたSicilyさんのタイニーハウスは広さ約12㎡。入口の横の狭いスペースはおしゃれな一人掛けのチェアーが置かれた読書コーナー兼団らんの間。入口正面にはオーブンやコンロ、シンク、冷蔵庫を完備した小さなキッチンが見えます。
キッチンカウンターは折り畳み式になっており、テーブルや作業台として使用。真っ白にペイントされた室内に、キッチンの壁の一面だけがステインで塗られ、ティーンエイジャーの部屋とは思えないほどシックにまとめられています。キッチンの右手には玄関方向に窓を取ったバスタブのある明るいバスルーム。寝室のロフトにはこれからカーテンをつける予定だという服の収納用ボックスを階段にして上がります。このおこもり感満載のロフトではお友達とのガールズトークにも花が咲くことでしょう。
そしてついに2014年の6月にはホワイトハウスで開催されたMaker Faire(ものつくりの祭典) に彼女の小さな家と共に招待されたSicilyさん。用意された特別席で大統領のスピーチを聞いている最愛の妻と娘、ホワイトハウスのポーチに展示された娘のタイニーハウスを見て、天国のDeanさんも鼻高々に微笑んでいたに違いありません。
Sicilyさんがこのプロジェクトを通して伝えたかったことは、より少ない消費で暮らすことが可能なことや、誰でも自分の家を自分の手で作ることができるということだけではないようです。「酸っぱいレモンみたいに避けたい物を渡された時、私はなんとかそこからレモネードを作って、さらにレモンケーキまで作ることができたのよ。だから私はそれを食べることができた。すごく美味しかったわ。」
Via:
edition.cnn.com
tinymaison.blogspot.jp
suzannahkolbeck.com
inhabitots.com
huffingtonpost.com