第21回:美しい島で、自由に働く|女子的リアル離島暮らし
『未来住まい方会議 by YADOKARI』をご覧の皆さま、こんにちは。
小説家の三谷晶子です。加計呂麻島はようやく梅雨が明け、夏真っ盛り。
日差しが柔らかくなる夕方ごろに、海に出るのが毎日の楽しみです。
私が住む加計呂麻島は、鹿児島県奄美群島の中のひとつ。
その奄美群島の一番大きな市、奄美市が7月1日に「フリーランスが最も働きやすい島化計画」という何とも素敵なフレーズの政策を発表しました。同時に日本最大級のクラウドソーシングサービスを運営するランサーズ株式会社との連携協定を締結しました。
詳しくはこちらのプレスリリースをご覧ください。
http://www.lancers.co.jp/news/pr/9661/
6年前から、始まっていた計画
この試みのきっかけは6年前に遡ります。
日本の地方や離島はどこも同じですが、人口が減り、都市部から距離が離れているとどうしても仕事がありません。
しかし、インターネットが発達した今ならば、場所を選ばず仕事ができる人々がいる。
その発想から、奄美市は情報通信関係の仕事を作ることに力を入れるようになりました。
そして、6年前、奄美市内のWebサイトの作成やプログラムの開発などを手掛ける小規模の企業9社が連合し、奄美情報通信共同組合を立ち上げることに。
小規模の企業単体では受注が難しい大きな仕事も、企業同士がタッグを組めば受注が可能。また、家賃などの固定コストが都市部に比べて安いので、都市部の企業より単価が抑えられる。
そして、インターネット回線さえあれば、離島でも仕事ができる。
廃校になった元工業高校の校舎を借り、仕事をする場所も確保して、奄美市は情報通信産業をどのように島での暮らしに位置付けていくかを模索し、整えていきました。
企業の次は個人へと。志を一致させた協力関係
中小企業が仕事をする形ができた次は、個人で仕事をしている人々の活動の場を整備するべきだ。
そう考えた奄美市は、ランサーズ株式会社に連携協力の話を持ち込みました。
ランサーズも『時間と場所にとらわれない新しい働き方』を模索している企業。仕事面での東京一極集中を是正し、仕事の再分配が行われる仕組みを広げていこうとしています。
奄美市の「個人で仕事をしている人々の活動の場を整えたい」というビジョンとランサーズのビジョンが一致していることを確認。
そこで、今回の提携が決まったのです。
今回の提携は、奄美市がランサーズに費用を支払っているわけではありません。
地方自治体と大企業の提携ということで誤解されていることもあるようですが、現実は、同じ志を持つもの同士が協力しあい、課題を解決していこうというシンプルなものです。
具体的には、奄美市内のフリーランスへの仕事機会の創出、クラウドソーシングのノウハウ提供、「フリーランスが最も働きやすい島化計画」のPR活動をランサーズが行い、奄美市はフリーランス支援窓口の立ち上げ、フリーランスの育成やフリーランス同士のコミュニティの形成、住居情報の提供、また離島のフリーランスにとって不可欠なIT環境の整備をする予定です。
また、この取り組みの支援対象はいわゆるweb関係の仕事のみにとどまらず、画家や漫画家、カメラマン、ミュージシャン、アーティスト、飲食店経営やショップ経営など広義の意味で個人で働いている方も含まれています。
もとより、フリーランスとして働いてきた島の人々
そもそも、奄美大島では、昔から多くの方が現在のフリーランスのような形で仕事をしてきました。
奄美大島の名産品、大島紬を織る女性たちは誰かに雇われているわけではなく、個人で仕事を請け負ってきた。沖縄の島唄とはまた違う音階で歌われる島唄の歌い手(こちらでは唄者と呼ばれています)の方もほかの仕事をしながら、イベントやお祭り、島唄が聞ける居酒屋などでプロとして歌を唄っています。農家や漁師の方も、相互に協力しあってやっていこうという意味で組合などはありますが、基本的に個人で働いていらっしゃいます。
私も、19歳から21歳までの2年間、ライター業の修行として編集プロダクションに勤めたあとは、アルバイトとしてキャバクラに勤めたり、不動産管理会社で働いたりしながらも、ずっと個人で文章を書いてきました。
仕事がなくて悩み、自分の力不足に歯噛みしたいほど悔しさを覚えたことも、自分の力量を見誤って受注した仕事を中途半端な状態で納品したり、限界まで働いて体を壊し、半年ほど仕事ができなくなったこともあります。
その度に、私は、こう思っていました。
どうして、うまくいかないんだろう?
仕事は好きなのに、どうして、こんなに苦しいんだろう?
もっとやりたいことがあるのに、どうして、それができないんだろう?
自分を責めては体調を崩し、時に自暴自棄になったこともありました。
けれど、私は、今、仕事が好きです。
そして、今、住んでいる加計呂麻島を、本当に美しい場所だと思っています。
美しい島で、自由に働く。
それは、けして夢物語ではありません。むしろ、島で暮らす先達の方々が脈々と続けてきた伝統であると私は思っています。
取材協力╱奄美市、ランサーズ株式会社
撮影協力╱民芸処 かけろまの壺