160年前のミニマルライフを現代に、湖に浮かぶ半透明の家「The Walden Raft 」
1854年、アメリカにいたソローという人物は、マサチューセッツ州のウォールデンで、人との関わりを一切遮断した生活を送ります。彼は本当の人間のあるべき姿や精神生活、過剰な物質生活への疑問を追求し、自分で建てたタイニーハウスに2年2ヶ月と2日間住みました。
その体験から生まれた「森の生活」という本は、160年たった今でも、世界中の多くの人たちに読まれ続けています。ソローの生活はいわばミニマムライフの原点のような存在かもしれません。
今回紹介する建物は、ソローの建物をモデルに建てられた池に浮かぶ小さな家です。
ソローのタイニーハウスは、人里はなれた森の中、池のほとりに自ら切り倒した松の木を使って建てられました。その家を思い浮かべると、池に浮かぶこの家がなぜ、ソローのタイニーハウスを元に設計されたのか、疑問に思わずにいられません。
このタイニーハウスは、残念ながら住むことはできません。家は松材とアクリルグラスを使って立てられ、ポリエチレン製の浮きのサポートで、水に浮かんでいます。
大きさは10m²で高さは4m、ソローのタイニーハウスと、同じ大きさで建てられています。ハウスの中央には可動式のハンドルがついていて、このハンドルを回すと、池の真ん中まで移動することができるようになっています。
自然素材とは対称的なアクリルガラスを使うことによってシースルーになり、家の輪郭はあいまいになり、その姿は周りを囲む自然と溶け合います。
このタイニーハウスをデザインしたモーリンさんは、160年前にソローが提案した「自治団体や人間関係から離れ、独りで暮らす生活が持つ価値とは何か?」という命題を、現代の私たちの生活に置きかえて、広く深く考えてもらうきっかけになることを願って、この家を生み出しました。
このタイニーハウスで過ごすことで、160年前のソローが過ごしたものと同じ風と空気と感覚を、今また感じることができるかもしれません。
<文=Naoko Jokoji>