サナギのような不思議な形の、建物に寄生するオフィス「Parasite Office」
ロシア連邦の首都モスクワのとある街角。ふと見上げると、ビルの間に何かが挟まっているではないか。
「あっ、こんなところに巨大サナギが!」だが、辺りを見渡しても巨大昆虫が歩いているわけでも、飛んでいるわけでもない。これは一体どうしたことだろう。
このサナギの正体を確かめるべく近づいてみた。すると、これはなんとサナギではなく、どうやら建物の一部であるということが分かった。
聞けば、その名も「Parasite Office (寄生するオフィス)」という地元で活躍するza bor architectsという建築事務所が自分自身のために手がけたオフィスだという。
このオフィスを建築する際に建築家が気を使ったのは、二つのビルの間の隙間を利用して限られた予算の中でオフィスを建てること。それと同時に、通行の妨げになってはならないという点だった。そのためには両脇にある二つのビルの間に跨るようにオフィスを建てる必要がある。
このプロジェクトではモジュラータイプの床板に隔てられた3階建ての建屋で屋上にも上ることができる。軽量鉄骨構造の建屋は大きなひとつのユニットになっていて横に立つ建物の外壁にクランプで固定されている。
モジュラータイプの床板システムにした理由は、その都度必要に応じて屋内のレイアウトを気軽に変えることができるようにしたためだ。ポリカーボネートのセルが組み合わされて作られた多面体の建屋は実に斬新な見た目で周りの伝統的な建物の中にあって非常に目を引く。まるでサナギを破ったように、建屋を大きく縦に裂いた大きな窓からは外光が差し込み、外からは各フロアの断面図が見える。
脇にあるメタルの階段を上ってこのオフィスに入ってみよう。階段を上ると、オフィスの共有部分へとつながっている。ここの部屋には6名のスタッフが座れるデスクと打ち合わせ用の丸テーブルとトイレがある。
2階にはいくつか個室があり、ここは重役室なのだろうか、広々とした空間が広がっている。大きな窓から外を見ながら仕事をするのは気分爽快だろう。ここは3名の席があり、それ以外に打ち合わせ用のテーブルやソファー、トイレなどが余裕を持って配置されている。
最上階には1階と同様に4名のスタッフが座れるデスクと丸テーブル、そしてトイレがある。そしてここから屋上へ続く階段を上って屋上に出ることもできる。
限られた土地や、ビルがひしめき合う街にも、ビルの間のスペースを利用して大きな建物を建てることができる。モスクワのza bor architectsは、その可能性を見せてくれた。さすがに日本の下町のように、ビルとビルの間が5センチくらいしかないところでは不可能だろうが、狭い都市部では大きな可能性を感じられる建築方法ではないだろうか。