見えるの?見えないの?チラ見せの展示ルーム「Queen’s Park Pavilion」
見えるか見えないか……。人はその境界線にどうしても興味をもってしまうものだ。2015年、9月19日から27日の会期で開かれたLondon Design Festival。このイベントで展示されたパビリオンの一つに、そんなチラ見せの極意が活かされた建物があった。
ロンドンに本拠地を持つクラリッジ建築事務所が設計したこの建物は、London Design Festivalの会期中、クイーンズパークで実施された「場違いな植物のための展覧会」の会場として使用された。「場違いな植物」というのは、都市部やビルの合間で育つ植物たちを指すという。建物の中では、この展示会のコンセプトのもと、さまざまな植物が展示され、数多くのワークショップが開催されていた。
「展示ルームに入ったときにも、周囲の自然を感じることができる場所を作ることが重要だった」
これは、この建物を設計した、建築家のJerry van Veldhuizenの言葉だ。この言葉通り、建物は黒い厚板が格子状に並べられることで、自然の光が入り込み、建物の中に美しい影を作り出している。展示ルームの中にいても、公園を通り抜ける風と光を存分に感じることができるのが最大の特徴だ。
建物の構造に目を向けてみると、大きさの異なる3つ正方形の箱が組み合わさった設計になっている。この設計によって、自然と来場者の回遊が促され、さまざまな道順を生み出すことができたという。
そして、Jerry van Veldhuizenが最もこだわったのは、展示ルームという特性を考えた、「チラ見せ」というアイデアだ。
「遠くから見たときに、建物の内部が見えるか見えないか、という感覚が来場者の興味を誘い、展示ルームに足を向けるきっかけになる」
そう考えたJerryは、自然の中に佇む展示ルームとして、周囲の緑に溶けこまない黒という色をあえて選び、その一方で、絶妙な加減で建物の内部が開かれた、格子状の建物という答えを導き出したのではないだろうか。
建物に興味を持って近づいた人が、この建物が展示ルームなのだと気づくときには、すでに建物に近づいているときなのだ。看板や呼び込みで来場者を増やすのではなく、来場者の心理を突いて建物の設計から変えてしまう。私たちが生活の中に取り入れたいのは、こういった発想なのかもしれない。