【書評】減らすことで見つかる簡潔な真実「ヘンリー・D・ソロー著 モノやお金がなくても、豊かに暮らせる。―もたない贅沢がいちばん」|YADOKARIの本棚
バーベキューに山登りにキャンプ。週末は郊外でゆったり過ごす時間を楽しみ、都会の生活圏に帰っていく人が周りに増えてきている。これまであまり自然の中で過ごすことに気が向いていなかったが、「モノやお金がなくても、豊かに暮らせる。―もたない贅沢がいちばん」を読んでから少し気が変わってきた。
著者のソロー氏は1817年にアメリカで生まれ、ハーバード大学を卒業した後、教師や私塾経営を仕事としたが自由に執筆する時間を求めていた。
森のなかにひとりで丸太小屋を作り、自給自足に近い暮らしを始めたのは1845年。必要最低限のモノだけを持った森での暮らしは約2年続いた。この生活をもとに書かれたのが「ウォールデン 森の生活」だ。
「モノやお金がなくても、豊かに暮らせる。―もたない贅沢がいちばん」は「ウォールデン 森の生活」を元に、「モノ」「金」「暮らし」「仕事」「自然」「生き方」の6章で構成されている。モノとお金がなくとも豊かに暮らしていたソロー氏の言葉はすごく簡潔だ。
そのため、すぐに読み終えることができるが、読み進めるとわかるだろう。筆者の体験に基づいた言葉を読み解くには時間がかかる、と。
この本を読みながら思い出したのは沖縄に住む友人のこんな話。
沖縄の山と海に囲まれた町で暮らす彼は、移住1年ですっかり自然と共に生活する術を覚えたそうだ。年に何度か、都市部に滞在して生活のリズムが変化した頃に沖縄へ戻ると、それまで気にならなかった暇を持て余していることに気付くらしい。
都会と田舎、時間の流れるスピードは違うのだろうなと、ソロー氏と友人の話から想像できる。しかし、想像と実感の間には大きな差があることに注意しないといけない。
絶え間なく発信され続ける情報は生活を楽しくしてくれている半面、ふと息をつく余裕がないと感じてしまう時もある。たまにはソロー氏がしたように、森に入り、自分の中から発信される簡潔な言葉を待ってみるのもいいかもしれない。