持続可能な家を目指す、住まう土地への愛が詰まった「House on Limekiln Line」
「新しい家に引っ越したかったんじゃない、その景色に引っ越したかったの。」
視界を遮る道路や電線もない、見渡す限りのトウモロコシ畑の緑。澄み切った空気の中に現れる美しい日の出と、目を見張るような夕陽。アメリカ、オンタリオ州の片田舎ヒューローンに住むMaggie Treanorは、この場所に引っ越した理由をこう語った。
彼女が住むこの家は、周りの自然にうまく溶け込み、新しい景観を作り出す。周囲に建つ納屋と馴染む姿は、その家がはるか昔からそこにあったかのような錯覚さえ起こす。
この家を設計したのは女性建築家のLisa Moffitt。家のオーナーであるMaggie Treanorの息子のパートナーだ。MoffittとパートナーのNick Treanor、そしてNickの母親で、この家のオーナーであるMaggieの3人がこの家を作り上げた。
彼らが作りたかったのは持続可能な家。持続可能な家、というと、太陽光発電や下水濾過装置、地熱発電など、さまざまな設備を備えた家を想像する。しかし、彼らの目指す持続可能な家はもっと自然に寄り添うものだった。
「道具に頼るのではなく、風や太陽など自然の力を、最大限に利用することこそが持続可能な家づくり。」建築家のMoffittはそう考えていた。
彼女は、建築家としての顔以外にもう一つ、建築学者としての顔を持つ。太陽や風などの気候条件を最大限に活用し、テクノロジーの力を極力使わずに、いかに持続可能性を確保するかという研究を行っている。この家は、そんな彼女の研究の成果を発揮するものになった。
家を建てるにあたり、彼らは3年間のフィールドワークからこのプロジェクトを開始した。何度も建設現場に足を運び、土地を調査し、地形や季節ごとに移り変わる天候、温度、太陽の位置などを地図に描いていった。
できあがった地図を元に、Moffittは太陽と風のパターンを念頭に置きながら、建設を進めていった。そうしてできた家は、美しい自然と調和する、心地よい持続可能な家となる。
家の南側にあるポーチには、夏の日差しを遮る屋根が取り付けられ、心地よい日陰をつくりだす。トウモロコシ畑に飛び出したまるで桟橋のような通路は、屋外への広がりを感じさせてくれる。
室内は約86㎡と広くはないが、シンプルなインテリアやところどころに配置された小窓によって、小ささを感じさせないデザインになっている。明るい室内は、太陽の光が十分に降り注ぎ、日中は暖かい日差しで室内がいっぱいになる。屋根にはソーラーパネルを設置し、この家のすべての電気を太陽光発電でまかなう仕組みだ。
持続可能な家とは、ハイテク装置ばかりを備えた家ではなく、その土地への本当の愛を学ぶこと。この家は、シンプルな暮らしの中にある、自然との共存する持続可能な生活について考えさせてくれる。