赤褐色の荒野”モニュメントバレー”に建つ、ふたごのキャビン「sunrise/sunset」
アメリカ原住民「ネイティブ・アメリカン」最大の部族、ナバホ族。彼らの暮らす大地が、アメリカ・アリゾナ州の北東部に広がっている。ここは「ナバホ・ネーション」と呼ばれる準自治区になっており、ナバホ族は自身で議会を作り、この地域を管理・運営している。
毎年40万人もの観光客が訪れる観光地である「モニュメントバレー」は、このナバホ・ネーション内にある。果てしなく続く赤褐色の大地にテーブル形の台地や侵食が進んだ岩山が点在し、あたかも記念碑(モニュメント)が並んでいるような眺めであることから、この名がついた。ナバホ族の聖地とも呼ばれるこの場所は、長い歴史を経て作り上げられた、まさに自然の芸術と呼ぶにふさわしい眺めを有する。
これまでは、モニュメントバレーを訪れる観光客はナバホ・ネーション内に宿泊することはあまりなく、通過してしまうのが普通だった。そんな中、コロラド大学デンバー校の建築学科の学生と教授陣は、Design Build BLUFFというプログラムの一環で、ナバホ・ネーションの自治組織と協力して宿泊施設の建築に携わることとなった。
ナバホ族としても、ナバホ・ネーション内に宿泊施設を持つことで、自治区内の経済を活性化する一助になればとの思いがあったのだ。
キャビンは2棟が並ぶようにして建っている。まず目にとまるのが、赤褐色の大地とコラボレーションしているかのような、風化したスチールで覆われる外壁だ。またこの建物は、バーンウッド(北米で100年以上前に建築された納屋や倉庫が、1世紀以上の時を経てその役割を終えたのち、解体される際に得られる古材のこと)を利用し建てられており、その個性的な風合いは、見事にまわりの風景に溶け込んでいる。
このキャビンをデザインしたチームは、使用する素材を選ぶにあたり、周囲の景観はもちろんのこと、遠くに臨むモニュメントバレーに多くをインスパイアされたと語る。
28㎡のこの小さなキャビンは、片方がsunrise、そしてもう片方がsunsetと名付けられた。そして、「入り口は、必ず太陽が昇る方角である東側にすること」というナバホ族の伝統に従い、そのとおり設計されている。
2つのキャビンには、贅沢に中庭のスペースがとられているのも注目すべきだ。この中庭の空間は、バーンウッドで囲われており、外の空気を感じつつも開放的すぎないため、ゲストは思い思いに時を過ごすことができる。
なおこの中庭が建物の北側に位置しているのは、厳しい暑さが続く夏のあいだ、ゲストにとって日を遮る絶好の休息場所となるからだ。
中を見てみよう。床・シンク・カウンターはコンクリートを使用しており、無機質なイメージを感じさせる一方、壁はあたたかみのある木材を利用して仕上げられている。コンクリートの無骨な素材感と、木材のやわらかさとのコントラストが、このキャビンを一層クールなものとしている。
いくつもある窓を通じて目に飛び込んでくるのは、果てしなく続く砂・山・空の眺め。モニュメントバレー観光の序章となるこのキャビンでの滞在で、すでに異世界にいるような気分にさせられてしまうのも、無理はない。
室内の雰囲気を左右する明かりに関しては、おおいにこだわっている。明かり取りのための窓と、備え付けられた電灯で、いかにニュアンスのある雰囲気を作り出すかが配慮された。寝室に関しては、ゲストの希望にあわせてチョイスできるよう、2棟で趣きを変えている。
sunriseには、2名がゆったりと寝ることのできる備え付けのベッド。一方sunsetには、ベッド・布団・ロフトがあり、最大6名のゲストが賑やかに宿泊できる。
この建築プログラムは、2000年にユタ大学で始まり、その後コロラド大学デンバー校も加わり現在まで続いている。生徒たちが、机上の空論ではなく実際に手を動かし建築に携わることで、プロフェッショナルへの一歩を踏み出すことを狙いとしている。
また異文化との交流は、このプログラムの重要なポイントだ。理想論を語っていた生徒たちは、このプログラムを通じ価値観が覆される経験をし、実際に建築を遂行するためのあらゆるイロハを学ぶという。異文化とのコラボレーションから生み出される数々のクリエイティブな建築。彼らの今後のプロジェクトにも、目が離せない。