川をまたいで家を守る。脚が伸びるエコハウス「Greenhouse That Grows Legs」
ロンドンを中心に活動するBAT studioは、施主のericaとpeterの依頼により、災害時に安全に避難策を提供でき、日常の休息スペースを提供できる重要なアイテムを開発した。その名も「Greenhouse That Grows Legs(脚が伸びるエコハウス)」だ。
そもそも南イングランドを流れるテムズ川は、首都ロンドンの流通を海へ繋げ、大英帝国の発展を促した立役者だ。ジュリアス・シーザーのガリア戦記にも記述があり、かつては、テムズ川北岸までが、ローマ帝国の支配下にあった。
しかし、テムズ川流域である英国ミドルセックス州レイズバリーは、2014年に250年ぶりとも言われる大洪水に見舞われた。そのときの住宅被害は1000億円を超えるとされる。
「Greenhouse That Grows Legs」の最大の特徴は、その脚で地上から80cm持ち上がるところ。水圧式の揚重装置を使うことで、場所を選ばず、家を容易に持ち上げることができる。それもボタンひとつで、だ。
端的に表現すると、「Greenhouse That Grows Legs」は水圧式の上下動する柱を持つ鉄骨フレームの上に立つ、木造の平屋建てだ。
建物前面のガラスファサードは、アルミコンポジットのミラーを各柱間に備えている。このミラーで外部の視線をぼやかせることで、建物内部のプライバシーを守ることができる。
内装の一面は、グリーンに塗装したアクセントウォールになっている。将来的に壁面を植物で覆うことを想定し、建物をグリーンに擬態させることを意図しているのだ。
この建物を設計したBAT studioは建築設計とインタラクションデザインを手がける。「BAT」とは「Between Art and Technology (アートとテクノロジーの間)」の意味なのだそう。
斬新な洪水対策を施しながらも、建築のデザイン品質を妥協しない。それは、実験的建物の探索を続けるBAT studioの理念でもあるのだ。
テムズ川は、産業革命直後の排水汚染のせいで大悪臭を放ち、たびたび氾濫を繰り返した。「Greenhouse That Grows Legs」は、そんなテムズ川が辿ってきた歴史にも対抗しているのかもしれない。