第4回:100均のプラスチックのカゴを、本物の竹細工にする意味|おおいた農村潜伏記

「未来住まい方会議 by YADOKARI」をご覧のみなさん、こんにちは。大分に来て2回目の春を迎えました小海もも子です。菜の花やモクレンの花がパァ〜っと咲き、大分はすっかり春めいてきました。

標高の高い場所では、まだ梅が咲いていました。
3月初め、標高の高い場所ではまだ梅が咲いていました。

さて、大分県別府市は竹細工が有名です。初めて大分に来た時も、他の地域よりも竹藪が目につくと思いました。大分県竹工芸・訓練支援センターもあり、竹細工職人がたくさんいます。そこで今回は、大分県由布市に住んでいる竹細工職人の三原さんご夫婦についてお話ししたいと思います。

自分の使うものくらい自分で作りたい

三原さんご夫婦が住んでいるのは、由布市の標高が高めな地域で、雪が積もることもあります。棚田が美しく、竹藪や森に囲まれていますが、空き家も目立つ過疎地域。家は美しい農村に溶け込むような、素敵な農家の古民家です。床とトイレを直し、たまに雨漏りする瓦を交換するだけで充分住めるようになったそうですが、二人が住まなかったら取り壊されるはずでした。

三原さん夫妻が住む集落の景色です。晴れていれば山の向こうに由布岳がどーんと見えます。
三原さん夫妻が住む集落の景色。晴れていれば山の向こうに由布岳がどーんと見えます。

「探せば住める家がいっぱいあるのに、新しく建てるなんてもったいない」と奥さんの萌枝さんは言います。

萌枝さんは新潟出身で、もともと草カゴなどを作っていました。カゴに限らず、自分で使うものくらい自分で作りたいという意識があり、より丈夫な素材を求めて竹細工の扉を開きました。

旦那さんの啓資さんは岡山出身で、以前はサラリーマン。ある日読んだ雑誌に、竹細工の後継者がいないという記事があり、技術が途絶えてしまう前に受け継ぎたいという気持ちが膨らんだそうです。また、プラスチック製品を自然素材の竹にしたい、荒れている山をきれいにしたいという気持ちから、竹細工の基礎を習いに別府へやってきました。

萌枝さんと赤ちゃん。もともと農家だった家なので、家の前が広く納屋もあります。
萌枝さんと赤ちゃん。もともと農家だった家なので、家の前が広く納屋もあります。

ここでハッと思いました。普段、私たちはプラスチック製品に囲まれています。ちょっとした容器など、100円ショップで簡単に手に入ります。

確かに便利で、現段階で無くなることは考えられませんが、土に帰らないことや燃やすと毒物ダイオキシンを発生すること、石油原料であるためゴミとして燃やす量が多いと温暖化に拍車がかかることが問題視されています。また、製造過程で安全対策がされていないと製品自体が有毒な物質を生じることもあると言います。

竹はたくさん編み方があって、竹カゴ以外にも様々なものに使用されます。
三原さん家の入り口。竹細工は様々な編み方があり、いろいろなものが作れます。

プラスチックができる前、日本人は木や竹や植物の蔦などでカゴを作っていました。竹は成長が早く、軽いので一人でも運べます。燃やしても害はありません。茶器に使うようなものは熟練の技が必要ですが、見た目にこだわらなければ素人でも簡単な加工ができます。修理可能で、何十年と使えます。竹製品は生活のいたるとことに溢れ、台所用品や家具、カバン、傘、農具、庭では竹垣やししおどしなど生活に密着した素材でした。

しかし、日本では1960年以降にプラスチックが普及。竹細工業界は縮小の一途をたどります。

ところが、三原さんの竹細工に触れた時、手触りの良さ、柔軟且つ丈夫な心強さ、見た目の美しさに私はキラメキました。それは明らかにプラスチックとは一線を画します。そして生活の中で、竹を言う素材を選択する機会をもっと増やしたいと思いました。

生活の中に竹カゴを。
生活の中に竹カゴを。

“嫌なことがない”農村の生活

お二人は大分県竹工芸・訓練支援センターの卒業生で、そこで出会って結婚されました。偶然、この集落の空き家を紹介され、すぐに決定。家賃は驚くほどの超格安!(小学生のお小遣い程度です)

大家さんには冬の寒さを経験したらすぐに出て行くと思われていたみたいですが、火鉢や、たまの石油ストーブだけで乗り越えられたそうです。昨年10月に赤ちゃんが生まれたので、今後は薪ストーブを設置予定。薪となる木は周りにいくらでもありそうだし、竹細工の木っ端も燃料になりそうですね。

手前がロケットストーブ、奥がカマドと七輪。台所はもちろん土間。
手前がロケットストーブ、奥がカマドと七輪。台所は土間。

煮炊きはロケットストーブやカマド、七輪で。お風呂は太陽熱温水器で温めた水を、薪で沸かします。ボイラーもあるけど、使いません。山水が流れているため水道代はかからないし、インターネットの光回線がつながったので買い物もそんなに不便がありません。

近所の人から野菜の差し入れなどもあり、物々交換も盛んで、集落行事も頻繁にあります。この集落は「できる人がやればいい」という雰囲気で、屋根の修理などいろいろ世話してくれる人がいて、とても助かっているそうです。

この日は暖かく、飼い猫の男爵ものんびり。
この日は暖かく、飼い猫の男爵ものんびり。

萌枝さんにここの良いところは?と聞いたら、少し考えてから「嫌なことがないこと」と答えました。車の音もしないし、花が綺麗だし、文句なし、ということです。この日は、確かに近所の梅が満開で、うぐいすも鳴いていて、春の訪れを感じられる美しい日でした。

ただカゴを作るだけではなく、伝えていきたい

お二人の営む「笑竹堂」は、今年で3年目。制作している竹細工は「青物(あおもの)」と言われるジャンルで、出来上がったばかりは緑色をしています。環境に優しく、最低限のエネルギーで竹カゴを作りたいと考えており、塗料や染料、防虫剤などの化学物質は使いません。無駄な輸送エネルギーを省くために、竹は近所で採取し、竹カゴの持ち手には自ら採取したツヅラフジを巻くというこだわりがあります。

作り方は、まず竹の状態が良い10〜12月の間、家の近くの竹林で竹を叩いて硬さを判断し、カゴの部位に合ったものを選びます。厳選した竹をナタで切り倒し、1年分の竹を担いで家へ運びます。保管した竹は、洗い、切断して、何度も裂いて細いひごにして、角を取ってから、ようやく編み始めます。

竹細工は編む前にもたくさんの工程があり、1日にできる個数も限られます。したがって、輸入物の竹細工に比べると安価ではありません。しかし、買い手はこの手間を知らないために高いと感じてしまいます。

お父さんの働く後ろ姿。
自分たちの子どもに、父親の働く後ろ姿を見せたいそうです。

笑竹堂は、イベントなどに精力的に参加して、工程などを周知し、職人の立場を底上げしたいと考えています。また、親子相手のワークショップなどをして竹細工に触れる機会を作る活動もしています。

「ただカゴを作るだけではなく、伝えていきたい」とお二人は言います。それは竹と日本人の関わり、竹を利用することで里山が美しく維持されてきたこと、石油製品を減らすことなどについてです。

昨年12月に開催された「おおいたオーガニックフェスタ」での出店ブースです。
昨年12月に開催された「おおいたオーガニックフェスタ」での出店ブースです。

三原さん家は豊かでした。

それは、物質的な豊かさではなく、流れる空気や交わされる会話、鳥の鳴き声、赤ちゃんや猫の“男爵”、どっしりした家など全てが構築する世界観です。もうずっと前からここにあるような安定感があり、ちょっとのことじゃ動じない信頼感があり、自然と調和し、足と土が繋がっている感覚。時間の流れも街中とは違い、永遠のような、刹那のような、まるで桃源郷のような感じさえします。

また逆に、江戸時代は90%が農民だったらしいので、日本全国がこんな雰囲気だったのかもしれないと思いました。

前回、私は農村の命の循環について書きました。命は循環して、家族も、飼っている犬も、自分も、そのうち消えていきます。命が限られているなら、私は美しい農村に住みたい、命が喜ぶ場所にいたいと思いました。そして、その美しい農村を維持するために、環境に負担をかけずに、長持ちがして、土に帰る竹細工が、ちょうど良いと感じるのです。

最後に、笑竹堂のFacebookページがあります。注文もここからできます。私は梅干しを干すための浅くて大きな丸い竹ザル「バラ」を注文しました!

また、3月10日(木)~20日(日)に東京・国立のカゴアミドリで、展覧会がありました。売り切れていなければ在庫もあるかもしれません。もし興味がある方は行ってみて下さいね。

お正月の家族写真。啓資さんは近所の行事で干支の猿のメイクをされています。
お正月の家族写真。啓資さんは近所の行事で干支の猿のメイクをされています。