第13回:生きる芸術「生きるための技術を求めて」|芸術は、生きる技術
ぼくはザンビアで泥の家を建てたのをきっかけに、自分が「生きるための技術」を少しも持ってないことに気づきました。ザンビアでは子供でも野菜を育てられるし、家も建てられるのです。
ザンビアの友人に「日本人はどうやって生きているんだ?」と聞かれ「読み書きができるから仕事をしてお金を貰う。」と答えると、「それではザンビアじゃ生きていけない。」と大爆笑されました。
生きる芸術=ライフスタイルをつくるために
想えば2011年、東日本大震災をきっかけに、自分の「生き方」をつくり直す決意をしました。この時代に他の国のひとたちが、どうやって暮らしているのかを知りたくて、2013年にヨーロッパとアフリカを旅したとき、土と水で建てる泥の家に出会いました。
「生きる」とは、どういうことなのでしょうか。旅から日本に戻り、地球の広さから考えれば、日本国内なら何処でも住めると考え、すぐに空き家を探しました。そして愛知県津島市の築80年の長屋に出会いました。テレビも冷蔵庫も洗濯機もなしで、長屋に暮らしながら家を改修するうちに、失われつつある「生活」を発見しました。
「生活とは命をつなぎ活動することであり、また生きながらえるために行う様々な活動である」-Wikipediaより
家畜も飼わないし、野菜も育てないし、家も建てないし、火も熾さず水も汲まないで、生活をしていると言えるのでしょうか。
古家タイムマシーン80年前の生活へ
古い家を改修してみると、増築したり修理したり、かつては家を自由に改造していた様子が分かってきました。古い日本の住宅は、木と土と紙でつくられているので、誰でも手を入れることができたのです。職人さんや、近隣の老人たちと話しをするうちに80年前の「生活」が浮き彫りになってきました。
その頃は、森から切り出した木材や土壁、火で焼いた瓦などの自然を材料に、火を焚いて食事をつくり、まだ職業と住居は一致していて企業のような大きな組織はなく、小さな村のなかで暮らし、家を作るときは、施主に直接依頼された近所の職人がリーダーになって、施主や近隣の村人も巻き込んで、みんなのチカラを借りて家を建てていました。
この頃の生活が「DIY」や「ナリワイ」「ワークショップ」という現代語に翻訳できてしまうのは、社会の進化に逆行して、動物である人間が生きるチカラを取り戻そうとしているからなのでしょうか。
生活を退化させるほど生きる技術が手に入る法則
2015年10月から長屋の改修を始めて、春を迎えると共に家を直す技術を手に入れることができました。これで、古い家を直して住めるようになったので、もう家に困ることはありません。
ぼくは、嫁と2人で作品をつくっています。たまに作品を「欲しい」という人が現れ価値が生まれます。これは本当に気持ちのいい純粋な貨幣経済です。たまに「仕事」もします。ペンキを塗ったり、チラシをデザインしたり、文章を書いたり、新しい技術の開発や知人のお手伝いをしたりして、その対価を貰います。対価はお昼ご飯だったり、靴下だったり、現金だったり、信頼だったり、感謝だったり。すべては人なのです。
生活はどんどん小さくなっていますが、自由に使えるお金と時間が増えています。ぼくは、あまり買い物をしなくなりました。ですが、来週末には45000円で「太陽光発電」ワークショップに参加して電気をつくろうと企んでいます。生きる技術は自分が壊れるまで使えるので、どんなモノよりも価値があるのです。
考えてみれば、すべての商品やサービスは、誰かがつくったモノです。だから「欲しい」と感じたとき、それを「つくる」ことをイメージすると、大抵のモノは面倒で欲しいと思わなくなります(笑)。なければ、ないなりに人間は生きてきたのです。
価値のない美しい価値
古い家を解体した廃材があると聞いて貰いに行きました。行く前は欲しかったはずが、いざ目の前にすると、なぜ必要なのか考えてしまいました。
解体現場を見渡すと古い鉢がいくつも捨ててありました。これも捨ててあると言うので、廃材ではなく鉢を貰いました。せっかくなので、草を入れるためにお寺に行きました。
「鉢に草を入れたいので取っていいか」と聞くと、管理する人が裏庭に案内してくれ、小さなスコップで適当にザクッと草と苔を取って鉢に入れてくれました。
夫婦でつくる芸術は強いチカラを持っています。100人が否定しても、たったひとりが理解してくれれば、たとえ、見向きもされない雑草と苔と捨てられた陶器だったとしても、雨にも風にも負けず、ありのまま生きていくことができるのです。これも誰もが持っている「生きるための技術」のひとつです。
告知
4月3日(sun) 15:00~
代々木公園 (フリーフェスティバル春風内)にて
ウエスギセイタ氏を招き「豊かな暮らし方会議」を開催します。ウエスギ氏を囲んで、どんな未来の暮らし方があるのか、実例を伺いながら、みなさんとお話をしたいと考えています。ぜひ、皆様、お誘い合わせの上、お越しください。