第8回:出会うことの面白さは砂漠も田舎も同じ|元新聞記者の、非日常生活。【上毛町みらいのシカケ編】
前回記事から3カ月近く空いてしまい、すみません。その間に、7日間250kmを走る「サハラレース」の30代部門で優勝してきました。恐縮です。
中には被災を笑い飛ばす豪傑も
砂漠の美しさや広大な大地を横断していく喜びは素晴らしいものです。それにも増して楽しいのは、走り続ける1週間を仲間たちと共有できることにあります。毎日スタートとゴールを繰り返す中、走っている間はもちろんライバルですが、その日のコースを走り終えれば、全員がテントで生活をともにする仲間です。砂漠という何もない空間だからでしょうか、自然と会話が生まれ、密な時間を過ごすことになります。
大会が終わるころには、友達でも家族でもない仲間になるのですが、年齢、国籍、職業すべてがバラバラ。日本からだけでも、企業の社長から学生、熊本地震の被災者、70代で楽々と完走を果たすレジェンドまで多士済々がそろっていました。被災された熊本の男性は「いつまでもクヨクヨしてても仕方ない」「車中泊に比べてテントだと足が伸ばせて快適」と笑う豪傑でした。そうした仲間と語らい、多彩な人生の一端を知り、ポジティブな姿勢に触れることは過酷なレースを走る原動力であり、醍醐味でした。
個性派がそろうワーキングステイ
出会いを通じて、自分とは全く異なる思考に触れる。そんな出会いの面白さは上毛町での生活においても変わりません。砂漠に足を運ぶ強者とは、また違った個性豊かな方々ばかり。普段の来客はもちろんのこと、とりわけユニークなのは、1カ月間限定で移住する「ワーキングステイ」の参加者です。
空き家を500円で借りて滞在するのですが、参加者は普段の仕事を持ち込んで上毛町で生活します。町の移住政策のひとつなのですが、移住しなくとも滞在中に生まれた参加者と町の人との関係が続いていくことが最大のポイントです。終了後も行き来したり、一緒に何かをつくったりと発展していきます。人と人のつながりは、人口の増減という見えやすい形ではありませんが、測りしれない価値です。
ワーキングステイにおける僕の役割はというと、地域おこし協力隊としての仕事でもあり、参加者と遊ぶ、もとい生活面をサポートすることです。そのため、参加される方々と一番近い位置にいることになります。
わざわざ仕事を持ち込んで田舎暮らしを体験してみよう、という方々なので基本的にどこか突き抜けた個性を持っています。
スナフキンのようなデザイナー
たとえば、先日ふらりと上毛町を訪れて再会した、旅するデザイナー。生活に車での旅を組み込んでしまった現代のスナフキンです。その名は「オギーソニック」。「おぎやはぎ」と「サマーソニック」が由来で、そこはかとなく脱力感が漂っています。
オギさんは鹿児島に移住したものの、各地を転々としてみたり、現在は鹿児島で出合った「いいもの」を携え、車を1200km走らせて名古屋へ。イベントとして1カ月間限定のショップを開いています。再会したのもその移動の途中でした。
聞いたところ、面白そうという理由だけでイベントを企画。商品はすべて知り合いから託されたものばかり。出会って話を聞き、手に取ってよかったものをセレクトしたそうで、19組の出品者から預かったものは器や革の小物から焼き菓子まで多彩です。スタッフの1人として店頭にも立つのですが、販売を代行するだけなので、オギさんにはほとんどお金が入らないのだとか。
思い切りよくそこまでしているのにお金には頓着せず、「売れ残ったら申し訳なくて帰れないよー。やばいなあ」と出品者を気遣っていました。店頭に並ぶ商品はよいものなのでしょうが、損得抜きで面白そうなことに飛びつき、行動に移せるオギさんもとても魅力的です。「みんな、いい人ばっかりなんだよなあ」
しみじみと嬉しそうに話す旅するデザイナー。鹿児島の知り合いが商品を託したのも、彼の人柄があるからでしょう。
都会であれ、砂漠であれ、田舎町であれ、日常や仕事といった環境、状況を問わずに出会いはいつだって人生を豊かに彩ってくれます。とはいえ、砂漠はなかなか気候が厳しいので、気軽に出会いを求めるのはお勧めできません!
◎オギさんの期間限定ショップ「OGGY PLAZA」
■会期:〜7/31(日) 11:00 〜 21:00
■場所:ラシック栄6F THE VIEW (名古屋市中区栄3-6-1)