第26回:景色も人も、本当にきれいな島|女子的リアル離島暮らし

『未来住まい方会議』をご覧の皆さま、こんにちは。作家の三谷晶子です。
今日は、加計呂麻島に住んでからよく聞かれる「移住者ということで嫌な目にあったりしないの?」というご質問にお答えしようと思います。

記者の方がいらした時に一緒にヨットの上から見た虹。
記者の方がいらした時に一緒にヨットの上から見た虹。

Yahoo! 不動産おうちマガジン内で加計呂麻島での暮らしの記事が掲載


先日、Yahoo! 不動産おうちマガジン内で「加計呂麻島へ移住。きっかけは塩工房でのお手伝い」と題してインタビューを受けました。とても素敵な記事になっているので、よろしければぜひご覧ください。

撮影、執筆、構成をしてくださった河内典子さんは東京にいた頃に知り合った方で、現在はさまざまな地域の移住した若者についての連載を担当しているそう。

記事内では触れられていませんが、私が「自分の著作を、出版して数年経っているのにお会いしたこともない書店経営をされている方が奄美在住の作家がいるという話を聞いて、発注して書店に置いてくれている。図書館の方も二冊とも蔵書に入れてくれた」という話をしたところ、こうおっしゃっていました。

「移住者の話を聞くとうまくいかないパターンも多くあり、嫌な話もある。そんないい話を聞けてよかった」

取材が終わったところ、彼女のお子さんが私の家の近辺の保育所の子ども達や先生と一緒に遊び、カラフルなゴムで作ったブレスレットやネックレスを頂いて戻ってきました。

「ね、こういうところなの、加計呂麻島は。もう、大好きになっちゃうでしょ」

私がそう言うと、彼女は「景色も人も、本当にきれいな島なんですね」と言いました。

「どうして、あいつらがいつまでもIターン者だと言われなきゃいけないんだ」


船で約20分の奄美大島・古仁屋港に行く時の景色。
船で約20分の奄美大島・古仁屋港に行く時の景色。

移住者と元から住んでいる住民との軋轢は島に限らず、どの地域でも聞く話です。移住をすることは簡単だけれど、住み続けていくことは難しいともよく言われます。もちろん、私の住む加計呂麻島にも様々な考え方の方がいらっしゃるでしょう。ただ、ここでは私が見聞きしたことをお話ししたいと思います。

昨年、私が加計呂麻島をテーマとしたブランド、ILAND identityを立ち上げ、また鹿児島国民文化祭自主提案事業としてweb小説「海の上に浮かぶ森のような島は」を同時にリリースした時のこと。Facebookで繋がっている島出身の20代の子に、近所の居酒屋兼食事処で会った時にこう言われました。

「Iターン者の人はいろいろ自分でやっていてすごいですね」
「違うよー。島がいいところなのは、島の人達が頑張って大切にしてきたからでしょ。私は、それをちょっと表に出しただけ」

そう言うと、彼は下を向いて小さく笑って、飲みかけのビール瓶を私の方に押しやりました。一番奥の席にいた、こちらの国指定無形民族文化財である諸鈍シバヤを保存するためにずっと活動してきた方も、カウンターの中にいるマスターに「もう一本」と言い、私にビールを渡します。そして、そのマスターにも「あきこちゃん、今日は好きなだけ飲め」と言われました。

浜辺に落ちているシーグラス。いつでもふんだんにきれいなものが溢れている島です。
浜辺に落ちているシーグラス。いつでもふんだんにきれいなものが溢れている島です。

また、とある日。島出身で現在50代、加計呂麻島の集落で区長を勤めている方が、もう18年、島に住んでいる移住者の方のことを話したあと、こう言いました。

「あいつらはもう18年も島に住んでる。集落のことだってちゃんとやってる。なのに、どうして、あいつらがいつまでもIターン者だと言われなきゃいけないんだ」

その区長さんは、18年住んでいるIターン者の方と同級生で、よく一緒に飲んでいるそうです。悔しそうにそう言う姿は、男性同士の友情って熱くていいものだな、と思わせてくれました。

ちなみに、後日、島で生まれ育った20代の若者にその話をしたところ、「えっ、あの人、Iターン者なの? 俺が小さい時から島にいるし、夏とか島の人より黒いしわからなかった」と言われ、そうだよな、きっと、そんなものだよな、と何だか少し笑ってしまいました。

それぞれの、島を愛する気持ち


家の前のビーチの夕暮れ直前の景色。この風景を眺めながらビールを飲んだり、アイスを食べたり。
家の前のビーチの夕暮れ直前の景色。この風景を眺めながらビールを飲んだり、アイスを食べたり。

先日、家の前のビーチで泳いでいる時に、堤防から声をかけられました。二人組の彼らのうち一人は、私が住む集落から離れた場所に住んでいる知人で、もう一人の方は私が住む集落・諸鈍にルーツがある人でした。

「あんまりにも気持ちよさそうに泳いでいるから」

そう言って近所の商店で買ってきたガリガリ君を手渡され、堤防に座って一緒に食べていると、彼は「いいなあ、やっぱり諸鈍は落ち着くなあ」と言いました。

「戻ってきてくださいよ。八月踊りも年々人が減ってるし、お盆でお孫さんが戻ってきたお年寄りはいつもすごく嬉しそう。やっぱり、ルーツの人が戻ってくるのが一番ですよ」

私がそう言うと、彼は「そういうことに、住んでいる人間ほど気づかないのかもしれない」と言いました。

「思うんだよ。島に今住んでいるやつより、島出身のやつより、Iターン者のほうが島を愛しているかもしれないって」

その言葉とそう言った彼の横顔を見て、私はどう答えていいのかわからず、けれど、何かを言いたくて、「きっと、みんな、それぞれの形で島を愛してると思います」と答えました。

「ここで生まれたけれど、毎日最高だな、って思うんだ」


私が住む諸鈍集落には田んぼが。収穫のシーズンはこんな風にガードレールに稲を干します。
私が住む諸鈍集落には田んぼが。収穫のシーズンはこんな風にガードレールに稲を干します。

その土地に生まれ育てば、当然、さまざまなしがらみがあり、いろんな気持ちが湧いてくるものだと思います。ご家庭や仕事の事情で、なかなか帰ってくることができない方もいます。そういった方々は、手放しに「島を好き」とは言えないのかもしれない、とは私も思います。

けれど、私は、家の前のビーチの堤防でビールを飲んでいる時に「この景色、最高だろ。俺もここで生まれたけど毎日最高だな、って思うんだ」とビールを差し入れてくれた方や、「この前、用事で内地に上ったけど、やっぱりここが最高よ、落ち着くわ」という近所の商店の方、「東京で会社をつぶして戻ってきた自分を、島の人間は暖かく迎えてくれた。こんないい場所は他にはない」と言い切る島の方々のお話もうかがっています。

飼い猫と諸鈍集落のでいご並木。猫もこの場所がお気に入り。
飼い猫と諸鈍集落のでいご並木。猫もこの場所がお気に入り。

先日、東京に行った際に「加計呂麻島に似てる」と思って購入した写真集が、ハワイのモロカイ島を題材にしたものでした。
私はモロカイ島に行ったことがないのですが、奄美大島在住のモロカイ島に行った友人が「あそこ、加計呂麻島にすごく似てるんだよ」と言っていました。モロカイ島は、一部でフレンドリー・アイランドと呼ばれているそうです。

加計呂麻島は、もちろん景色もうつくしい島ですが、私が一番好きなのはこういった自分のいる場所を愛する、心のうつくしい人々がいるところ。

家の目の前のビーチと、じゃれ合って遊ぶ姉弟。子ども達もこの場所が大好きです。
家の目の前のビーチと、じゃれ合って遊ぶ姉弟。子ども達もこの場所が大好きです。

モロカイ島がフレンドリー・アイランドなら、加計呂麻島はラブリー・アイランドかもしれないな。

そんなことを思いながら道を歩いていたら、宅急便を運ぶ方から冷えた缶コーヒーをもらい、「ありがとう!」と叫んで手を振る。私は、今、そんな日々を過ごしています。