第9回:DIYコンテナ暮らし始めました。|元新聞記者の、非日常生活。【上毛町みらいのシカケ編】

前回からご無沙汰しております若岡です。年をまたいでしまい、かなりのブランクがありますので近況報告いたしますと、昨年後半はつくるラッシュでした。

きっかけは思いがけない出会いから


まずは住居。誘われるがままにコンテナ暮らしを始めました。工事現場でよく使われているアレです。間取りは6畳のみ。オプションなしで実に潔い。かけそば、素うどん並のミニマムさです。

思いがけずにコンテナライフを始めるに至ったのは、「家族」をつくったからでした。出会って即日で同居、1週間後には五つ子も生まれました。と、言うと不穏な感じですが、なんのことはない母子の犬たちです。

生後20日の子犬。悶えんばかりのかわいさでした。

職場近くの山道で妊娠していた母犬を保護したものの、住んでいた町営団地では、犬が飼えません。土地は余っているのにペットが飼えないというのは都市部以上に歯がゆい状況です。住むところを探し直さなきゃいけないなあと困っていました。ちょうど、そのときでした。

夕食込みで1万円


「家いらんか?」
タイミングよく声をかけてくれたのは地元のおいちゃん。週に何度か夕食をごちそうしてくれる、ありがたい存在です。
その日もおいちゃんの家で焼き肉をつまんでいました。「ビール飲む?」と同じような軽いトーンで尋ねられたのです。あまりに自然な会話だったので思わず「はい」と生返事。いったいどういうことなんですか?

聞くと、知り合いがコンテナを数万円で売ってくれるとのこと。敷地内に置くので、そこを使ってもいいよというのが、「家いらんか」の一言に集約されていました。そこからは、焼き肉をほおばりながら家賃交渉やら、設置時期など話し合うこと小一時間。トントン拍子で入居が決まりました。賃貸で借りることになり、家賃は1万円(夕食込み)という破格のお値段です。

五つ子のうち4匹は里親のもとへ移住しました。

賃貸物件のペット不可で苦労をするというのは、都市部も田舎も変わらないのでしょう。ですが、住宅難民になりかけていたところに、型破りな解決方法が飛び込んでくるのは都市部との違いです。コンテナを仕入れてくるおいちゃんの口コミのネットワークも、アイデアを実行できるスペースがあるのも、田舎ならでは、です。

総工費は3万円


入居が決まっても、内装と外観は工事現場のコンテナのまま。オシャレ感はゼロです。気にせずにデフォルト状態のコンテナに住もうとしていたら、殺伐とした内装を見かねた友人から「ちょっと手を加えよう」と待ったが入りました。職場であるミラノシカを改修した西塔大海くんの提案により突如としてDIYで改修することに。

作業中の一コマ。没頭していて改修前の写真を取り忘れてました。

現場監督に西塔くんを据えて、僕は言われるがままに作業に励みます。壁、床に断熱材を入れてOSBボードを貼り、L字型のデスクを設けてみたり。換気扇の前に衝立をつくって目隠ししたり。総工費3万円、作業日数10時間足らずの改修で、工事現場感が和らぎ、そこはかとなくオシャレ感が漂うように。

現在のコンテナの外観です。大家さんがひさしを付けてくれました。

まだ改修途中でしたが、住めそうなので構うことなく入居です。なかなか手が回りませんが、徐々に手を入れていく予定です。
暮らし始めてると意外と快適でした。小さいので室内を温めやすく、掃除も楽。それ以上に、住みながら改装していけるというのは、部屋自体が娯楽になるわけです。次は何をどうしようかと考えているだけで楽しめます。休日をのぞけば、ほとんど帰って寝るだけの生活ですが、就寝前にアレコレと考えるのも面白いものです。

集落の一番高台なのでカーテンなしです。白状しますとこれでも撮影用に片付けました。

とはいえ、寝袋で毎晩寝ているという生活でしたので、見かねた大家さんが布団と折りたたみ式ベッドをもらってきてくれました。楽しいのは脳内だけで、不憫に思われていた模様……。これにより、我が家の睡眠環境はベッド、敷き布団、寝袋という三層構造に進化しました。ありがたや。
現場感むき出しだったコンテナには、いろんな方々の厚意がぎゅぎゅっと詰まっています。

山の中腹にあるので眺望は抜群です。

トレランコースもつくる


家よりもさらにスケールが大きく、よりミニマムなものもつくりました。
それが全長約25km、三つの山に股がるトレイルランニングのコースでした。身ひとつで山を駆け回るというシンプルな遊びがトレイルランニングです。11月には修験道トレイルという大会も開催しました。

森に入って自分でコースを切り拓く楽しみがあります。(撮影:山村博士さん)

山の中腹に住んでいるということもあり、ふらりと庭を散歩するように山に分け入ります。走り始めると木々の間をすり抜けていきます。薄暗い森にあって、木漏れ日は太陽の存在の偉大さを、さわさわという葉音は風のありがたみを教えてくれます。
走って、走って、走り抜き、汗にまみれてようやく峠を越えたとき。ほっとしたのもつかの間、新たな山が連なっています。そこに至るまでの苦労を思うと、なんともあっさりと次の困難がよこたわっていることか。山が人間のちっぽけさを教えてくれます。山は大きな庭であり、学び舎でもあるのです。

ルート開拓は大半が手作業。わずかな区間を切り拓くのも一苦労でした。

コースづくりで主に使ったのは、のこぎり。道なき道や深い薮をかき分け、人が通れる幅を確保します。後は踏み固めるだけ。人の足跡が刻まれていくことで、何もなかったところに轍ができ、さらには道へと変わります。

道と聞くと長大なインフラを想像しがちです。自分の力ではつくれないと思い込んでいましたが、何度も同じコースを往復していると、徐々に道らしくなっていきました。中にはかつて使われていた山道の一部もありました。長い時間を経て、道が再興するというのは不思議な感覚です。

山中で来た道を見失い、さまよいながらもどうやってコースをつくろうか。そう考えるのはとても楽しい時間でした。それは住みながら改修することに似ているかもしれません。
整備した後のコースを走るのも楽しいですが、道なき道を自分で切り拓くのも、何物にも代え難い時間です。

今年もよろしくお願いします


小さな家と広大な庭、そして小さな家族を得たのが昨秋からの上毛町での出来事でした。新しい一年も予期せぬ出会いや学びを紹介できればと思います。今年もよろしくお願いします。