第10回:-20℃もOK!雪上ダンボールハウス|元新聞記者の、非日常生活。

寝転んで星空を眺めていた。ひとしきり雪が降ったあとで大気は澄み渡り、名もない星々が煌々と輝いていた。白色に染まった山の中はとても静かだった。雪が全ての音を吸い取っている。そう思わせる静寂があった。−20℃の雪山には物音をたてる動物はいない。例外は僕と友人たちだけ。周囲は沈黙と暗闇に包まれている。例外的に、僕はダンボールにも包まれていた。

というわけで雪山へ行ってきました。そして、つくってきました、ダンボールハウス。大寒波に日本列島が覆われた週末のことです。僕は福岡・上毛町を離れて、友人たちと本栖湖に面した竜ヶ岳を訪れました。

氷点下を下回り、湖面から蒸気が上がっていた本栖湖

本来は日帰りで事足りる手頃な山です。にもかかわらず、子どもがすっぽり入るくらいの大きなザックを担いでいきました。目的は登山にあらず、僕たちのお目当ては、雪中ですき焼きを囲むことです。大量の食材やアルコール、おやつに加え、飲んだら泊まれということでテント、寝袋……。とかく荷物が増えました。

テントがない


ここで問題がひとつ。テントと書きながら僕はテントを持っていません。いつも誰かのテントにホームステイしていたのですが、僕を除いた今回のメンバーが各自準備していたのは1人用のテントでした。

一瞬困ったのですが、ない袖は振れないし、ないテントは張れません。だからといって、買うのも面白みに欠けます。ここでひらめきました。テントを張るだけだと、単なる作業として終わりですが、寝床をつくることを目的にしたら面白いはず! ということで雪上ハウスをつくることに。
調達しやすくて加工が楽、担ぎ上げられる軽量なファブリック、以上の条件から素材はダンボールに即決です。ほかのメンバーが早々にテントをつくって手伝ってくれるだろうという打算があったことはここだけの秘密です。

建材は現地調達


いったん決めてしまうと、テントに泊まるよりも、ないなりに雪上ダンボールハウスをつくる方が楽しそうに思えてきました。極寒のエクストリームすき焼きと家づくり。二大看板の雪山合宿スタートです。

合宿当日の朝、食材を求めて立ち寄ったスーパーで建材であるダンボールをゲット!図面を引いているわけでもなく、店内をうろうろしながら必要な枚数を考えていました。幸い好天に恵まれたので、失敗しても雪洞を掘れば一晩はしのげます。

いざ出発。日帰りで登れる山に向かう装備とは思えない荷物量です。ネギが飛び出ています。

雪山メンバーはナビゲーターを務めた、ツアーガイドとして世界の山々を飛び回る女イエティに、オシャレ山男、雪山料理人に僕を加えた4人。いずれも食料や寝袋を担いで250kmを走る「白山ジオトレイル」の完走者です。基礎体力は割とあります。

ネギと雪山と私


登り始めると、ほかの登山者の注目を集めていました。写真で振り返ると、理由がよく分かります。なにせ半日で行って帰ることのできる山なのに、そろいもそろって巨大な荷物、うち1人は手にはダンボール、ザックにはネギという異様な出で立ち。不気味です。

すれ違う登山者が何人も「ネギだ」とつぶやいていました。当然、ネギなのですが、見慣れたものであっても意外な環境で目にすると人は驚き、そして思わずつぶやいてしまうのです。

うろうろとトレッキングすること30分で富士山と本栖湖の見える休憩場所を宿泊地にしました。荷物をおろすと休む間もなく行動開始。みんながテントを立てる中、ダンボールハウスづくりに取りかかります。

◆材料
ダンボール……7箱分
雪………………適量

まずは雪を踏み固めて地ならし。水平でないと寝付きが悪くなります。続いて、風でダンボールが飛ばないように、壁面を雪で補強。最初はダンボールだけで自立させようと考えたのですが、強度が足りませんでした。

次第に真剣に


延々と雪を積みます。テントづくりが終わった友人が手伝ってくれました。ばかばかしい思いつきで始めたことなので、最初は笑いながらの作業でしたが、いつしかみんな真剣に。ひとつの目標に向け、完成度を高めるために試行錯誤を繰り返します。冗談半分でやるのとは違った、真面目につくる面白さが生まれてきました。ばかばかしいことをふざけてやっても、それほど面白みはありません。結局のところ、何をするにも自分の熱量をどれだけ注げるのかで、楽しさ、満足度は大きく変わります。なにをつくるかよりも、どうやってつくるか、という過程が大切です。

敷地面積を広げるとダンボールが足りないので、うなぎの寝床に。寝心地を確かめてみると、ダンボールの断熱効果で冷たくありません。ちなみに気温はふもとで−6℃ほどでした。

可能性の扉を開く


床と壁づくりに注力しすぎたことに加え、ハウスの顔であるエントランスもダンボール仕上げにしたために、天井用の資材が足りなくなりました。資材といってみたところで、まあ、ダンボールです。床か壁の一部を剥がして天井に流用しようと思案していたのですが、友人のシートで代用することに落ち着きました。それはそれで、ハイブリッドな仕上がりでいい感じ。

ダンボールで天井がつくれなかったのはご愛嬌です。あれこれと考えすぎて温め続けたアイデアを蒸発させするよりも、まずは実践あるのみです。なんだかそれは、旅に似ています。スケジュールをしっかり立てて名所や旧跡を回る旅行もいいですが、旅先で出会う人や出来事でふらふらと行き先を変えるのも旅の醍醐味です。どちらにしても旅に出なくては何も始まりません。

図面を引いて計画的につくるもよし、成り行きまかせもよし。動き出すことで、可能性の扉を開くことに意味があります。

完成後はまだ明るいうちからすき焼きを囲んで宴会。

ちなみにこの夜は−20℃まで冷え込んだそうですが、ぐっすり快眠できました。ダンボールの断熱効果はあなどれません。むしろ暑いくらいで、無意識ながらも活動的だったようです。夢見心地で動き回ったために、夜も明けてないというのにハウスの扉を開いてしまいました。おかげで、寝起きのまぶたが重いと思ったら凍っていた模様。開けなくていい扉まで開けていたようです。

※体力、山に自信のない方、ダンボールに興味のない方はまねしないでください。