中間階にプールを配置。幾何学的な設計で自然と調和するシンプルな家
Villa Clessidraは均整のとれた建築だ。それと同時に、建築における冒険でもある。建築における制限や制約の範囲内で自由に思いのままに設計する、という意味での冒険だ。幾何学構造的にこの上なくシンプルでありつつ、周囲の環境と繋がりをもつということへの冒険である。
Villa Clessidraは建築家Laertis-Antonios Ando Vassiliouが立ち上げた新しいプロジェクトだ。1983年生まれのLaertis-Antonios Ando Vassiliouは、ギリシャ人の父と日本人の母を両親に持つ。ギリシャやオランダで建築を学び、数々のコンペティションでの受賞歴を持つ。2016年にオランダでLAAV ARCHITECTSという会社を設立した。Villa Clessidraはこの会社が設計した、まだ実在しない概念上の住居であるが、オランダの美しい砂丘に広がる松の森にある3階建ての建物という設定である。
建物の大きさは、長さ9.7メートル、幅9.7メートル、高さ10.4メートル。延床面積は200平方メートルの広さを誇る。地下階は存在せず、また地中に埋めるパーツなどもなく、形としては、ほぼ完全な立方体と言える。外壁は鉄骨とコンクリートパネルで造られる。この建物で異彩を放つのは、建物の2階にあたる部分に一面に配置されたスイミングプール。そして、このスイミングプールを境にパブリックとプライベートを分けた点が何とも斬新だ。
このプールは透明な中間層として設けられ、それより上の階をプライベートエリア、プールより下の階をソーシャルな共用エリアとしている。
3階にはベッドルームが2つあり、どちらも南に面している。これは夜の時間を享受するための、つまり、睡眠とリラックスのためのスペースだ。南向きの壁面は回転する引窓で開放でき、広大な森の匂い、音、イメージを住居の中へ取り入れることができる。どちらのベッドルームもそれぞれの浴室とひと続きになっており、メインのベッドルームの床はガラスのように輝き、ベッドの下をのぞくと下階のスイミングプールが見えるようになっている。
対照的に、1階は日常生活のいろいろな活動に対応できるように設計。書斎兼リビング、ダイニングルーム、キッチン、屋根付き駐車場を完備している。
周りの豊かな自然が、全面ガラス張りの建物正面を通じて家の中に広がり、中間階のスイミングプールの水と鏡で覆われた天井のおかげで、より自然を感じられるようになっている。つまり、戸外から差し込む光がプールの水を透過し、プール上の天井で反射した光の屈折と水面の波が、室内にさまざまな表情をもたらすのだ。
また、水の層が光学的な錯覚を起こして、1階から見ると天井の高さが倍になって見え、同時に視覚的に上階とつながっているようにも見える。
それぞれのフロアを機能によって分けたことは、スイミングプールという中間階の存在によってよりくっきりとする。上階のベッドルームに行くためには、どうしても階段を使って中間階を通過しなければならない。その瞬間、視覚的にも意識的にも、日中の活動を切り離し、精神を浄化することができるというわけだ。
このプロジェクトは、上階へと続く階段が鏡張りの天井に反射した偶像と合わさって、ちょうど砂時計の形のように見えることから、Villa Clessidraと名付けられた。Clessidraはイタリア語で砂時計という意味である。この建物中央に配置された階段を人が通過する動きも、砂時計の中の砂と似ている。砂時計は時間を刻むアイテムだが、Villa Clessidraは時が止まったような場所である。
Villa Clessidraは、思案と熟考の場所、リラックスと瞑想のための場所だ。余分なものをそぎ落とし、幾何学的な配置で空間感覚を曖昧にする、建築家の感覚の鋭さを発揮した設計になっている。
周りの自然環境と一体化しながら、生活する住居としての機能を持つ。この建築における新鮮なアイデアを、一つの言葉で表すとしたら「無垢(pure)」という言葉かもしれない。
via:
designboom.com
laav.nl
(提供:#casa)