シンプルな美。厳しい自然環境でサバイブするためにつくられた山小屋
登山者にとって、山小屋は命綱のような存在です。居心地が悪いと十分な休息が取れず、後々の行程に影響が及ぶでしょう。冬季の悪天候でも影響を受けない強靭な構造も求められます。かといって大仰な山小屋を建築することは、自然環境への負荷が大きい。そんな登山者たちのジレンマを解決するための実験的なキャビンが、欧州スロベニアの山に設置されました。神々しさすら感じさせるそのキャビンの秘密をご紹介いたします。
美しいスロベニアにある厳しい気候の「カニン山」
中央ヨーロッパのスロベニアは、まるでおとぎ話の中に迷い込んだような気分になるほど景観の美しい国。けれど国の北西側、イタリアやオーストリアとの国境付近にはアルプス山脈(The Julian Alps)を有し、スキーリゾート地としてもヨーロッパ人たちに知られています。
そんなスロベニア国内の山「カニン山」(The Kanin Mountains)で、とある実験が始まったのは2016年のこと。カニン山の山頂付近の厳しい気候にも負けない頑丈なシェルターにもなるキャビンを設置してほしいと、カニン山の麓のボヴェツ市(Bovec)がスロベニアの建築会社「OFIS arhitekti」に依頼したのです。「OFIS arhitekti」はさまざまなエンジニアたちとプロジェクト・チームを結成し、キャビンの設計をスタートしました。
厳しい環境でのキャビン建築
プロジェクト参加メンバーたちは、冬季のカニン山の雪や風、更には雪崩や地滑りなどあらゆる危険性を考慮する必要がありました。カニン山は一年の半分以上を雪に覆われ、冬季は10m以上の積雪もある場所。そんな厳しい条件で最大9人も収容できるキャビンを設置しようというのですから、プロジェクトは難航を極めます。かといって自然環境への負荷も無視できないというジレンマもありました。
何といっても関係者を苦しめたのが、資材の搬入でした。キャビンを設置することになった位置は、徒歩かヘリコプターでしか行けない非常にアクセスの悪い場所。ヘリコプターの最大積載量やバランスなどを常に計算しながらの搬入が続きます。
短い雪解けの季節を狙い、建築作業が続きました。ごつごつとした岩場での作業なので、スタッフも命がけです。けれどそんな苦労の甲斐あって、完成したキャビンは誰もが目を見張る出来栄えになったのです。
外側も内側も、シンプルで美しいキャビン
これが、完成したキャビンの横顔です。シンプルなフォルムながら、山の更なる高みを目指して進んでいきそうな強い意志を感じさせます。地面への設置面積も最小限に抑えられ、環境負荷を軽減しているのが見て取れます。
これは、下から見上げた様子。横から見ると箱のように見えたキャビンに、ガラス窓があることが分かります。この窓のお陰で、ぐっと室内の圧迫感が軽減されるのです。
室内は、外見とはうって変わった白木の温かみを感じさせる内装。手前がベンチ付きのスペースで、奥が身体を横たえられる仮眠ベッドになっています。9.7㎡と小ぶりですが、画面左の壁にはモノや上着を掛けられるフックが数多く作られていて、荷物に足場を取られないための工夫も。そしてベッドは3段になっているので、1段につき3人が横になれる広さ。これで最大9人がこの場所に寝泊まりできるのです。
ベッドスペースには窓があるので、天井の低さも気になりません。圧迫感なく、眠りにつけるのではないでしょうか。
カニン山の眺望に溶け込むキャビン
キャビンから臨める景色も、まるで夢のような眺望です。360度のパノラマで、スロベニアのみならずイタリアの領土まで見下ろすことができるのだとか。厳しい気候や2,578mという標高にも関わらず、カニン山に登る人々の気持ちがわかる気がしますね。
キャビンの窓から漏れる光は、山の中では命の道しるべのように見えることでしょう。もし夜間に道に迷った登山者がこの灯りを見つけたら、きっと救われた気持ちになるのではないでしょうか。
斬新でありながら、決して山の景観を損ねないシンプルなデザインの「Kanin Winter Cabin」。これからも、カニン山を行く登山者の安全を見守り続けていって欲しいものです。
Via:
ofis-a.si
designboom.com
(提供:#casa)