【公開インタビュー】佐々木典士さん vol.3 ミニマリストは一度通過すればいい。繋がりから生まれる幸福感

「ぼくたちに、もうモノは必要ない。3.11から始まった豊かな暮らしを探す旅、ミニマリストから ◯◯ へ」と題した佐々木さんの公開インタビュー第3回。コミュニケーションから生まれる幸福感の実態とは?

トークイベント後半は、 YADOKARI共同代表の2人がミニマリストのその先について話をきいた

vol.1 『ぼくモノ』出版から約2年、中道ミニマリストの次なる“実験”
vol.2 マッチポンプ的生活をやめて見えた、自分が選んでいるという確信
vol.3 ミニマリストは一度通過すればいい。繋がりから生まれる幸福感
vol.4 依存を最小限にすることも、ミニマリズム

佐々木典士(ささき ふみお)
1979年生まれ。香川県出身。早稲田大学教育学部卒。学研『BOMB』編集部、『STUDIO VOICE』編集部、ワニブックスを経てフリーに。2014年クリエイティブディレクターの沼畑直樹とともに、ミニマリズムについて記すサイト『Minimal&ism』を開設。初の著書『ぼくたちに、もうモノは必要ない。』(ワニブックス刊)は16万部突破、13カ国語の翻訳が決定。WANI BOOKOUTにて新連載「ぼくは死ぬ前に、やりたいことをする!」がスタート。

ひとりが好きという思い込みと、人と繋がる楽しさの実感

──モノを選ぶ・持つ行為は自己表現のためでもありコミュニケーションの種でもあると思います。佐々木さんから見て、モノを介した人とのコミュニケーションはどのように見えていますか。

佐々木:最近「間接自慢」という言葉があることを知ってびっくりしたんです。たとえば「このお菓子おいしいよ」とSNSで投稿する時に、メインのお菓子の横に自分のブランドものの財布をさりげなく置いて実はそっちを自慢するっていうね、そういうことをやってる人がまだいるんだと驚きました。

──それはありますね。ミニマリスト同士の繋がりも広いそうですが、ミニマリストの認知が上がるとともにコミュニケーションの変化がありましたか。

佐々木:2年くらい前から繋がるようになりましたが、最初はやっぱりネットでしたね。ミニマリストを知っている人が身の回りにはいなかったので、「ミニマリスト」がほんとに一部の人しか知らない、謎の合言葉みたいな感じで繋がってオフ会をやったりしたんですけど、今はゆるゆると。出てく人はいるし入ってくる人もいるしで、ぼくが知っているのは100~150人くらいのコミュニティですかね。

本当に最初期は“少ないもの合戦”のような側面もありましたが、今はそういうのはなくなってきていて「お前のミニマリズムは間違っている!」とか突き詰めることもなく(笑)、普通の友人関係と変わらないですよ。よく一緒にご飯食べに行ったり旅したりしていますね。

──YADOKARIが上梓した書籍『アイム ミニマリスト』の際に取材した方で、藁のブロックで循環型の家を自分で作った女性がいます。仲間や地元の人に手伝ってもらったり町内会の会合に参加したりと、人との繋がりを大切にするプロセスに衝撃を受けました。

佐々木:ミニマリズムについて考え始めた当初、幸せについても同時に考えていました。そういう研究をする学問でだいたい結論づけられているのは、幸せへの影響度が一番大きいのはお金でもモノでもなく、人間関係だということです。

「カレンダー・マーキング法」という方法があります。これはカレンダーなんかに1日を通してどう感じたかという気分の印(○、△、×)をつけるというものです。ある程度客観的に自分がどういうときに幸せを感じたのかがわかります。自分はひとりでいるほうが好きだとずっと思っていたんですが、これを振り返って見たら、実は人と繋がって何かをした日に◯が多かったんです。

長野県の安曇野に40年近く運営されているシャロムヒュッテというところがあって、ゲストハウスも併設されているので行ってきたんです。自給自足的な、パーマカルチャーを実践されている場所で、さらに40年近くも運営されていればさぞかし近寄りがたい雰囲気の共同体かと思いきや、全然そうではなんですよね。若いスタッフばかりで、そのスタッフ同士が話し合って、試行錯誤されていままさに新しい場所が作られているという感じで。今はそんな出入り自由な、コミュニティの実験が様々なところで行われていますよね。

──閉鎖的にならずに他とも繋がれるコミュニティというのはいいですよね。

佐々木:上からの押し付けだったり、堅苦しいルールがあるのではなく、自然と交流しやすい仕組みがあることが今は大切かなと思いますね。

──佐々木さんご自身はどうだったんですか、人付き合いっていうのは。

佐々木:もともとめちゃくちゃ苦手です。こんなふうに人前でお話することも、2年前には考えられなかったことですからね。

ミニマリストたちが集まって旅に出たりも

──今日もお仲間がいらしてますが、みんなと楽しくやっている佐々木さんを見て、ミニマリストに対する印象がすごく大きく変わりました。

佐々木:ミニマリストは、冷たくて、意識高い人ばかりじゃないんだってことですね。

ミニマリズムでも小屋を建てるでもなんでもいいんですけど、会社・学校や家族だけでなく、自分がいられるコミュニティをいくつも作っておくといいと思いますね。面白いことをやっている人が世界にはたくさんいます。フラットでいられるコミュニティを持つことで世界や日本を見る目も変わると思います。

──職場や家庭ではない第三の場所、そこに幸せのポイントってありそうですか。

佐々木:ミニマリストは最初期にはまわりにぜんぜんいなかったから、ネットを通じて出会うしかなかった。だからこそ高給取りの人もいるし、無職のひともいるし、ファッションもみんなバラバラで多様性がありつつフラットなコミュニティができました。マニアックなものでもこんなのが好きということで、いろいろな人たちと今は繋がれるんですよね。

ミニマリストは一回通過すればいい

──取材をしていると、何かを始める時の男女差というのを感じることがあります。「なんでこういうことをやっているんですか」と聞くと、女性は直感的に「だって楽しそうじゃないですか」という一言が多い。一方、男性は「資本はこうなっていて…これからの世の中は…持続可能な…」という哲学が入る。どちらがいいというのはありませんし男女差と単純に振り分けるのもいささか乱暴かもしれませんが。男女間での差って佐々木さんも感じたことありますか。

佐々木:今は美大や、写真の専門学校も女性の割合がとっても多いらしいんですよね。男子はまだ生活がどうなるかとか、それをやって、儲かるのかとか誰かを支えられるのかとか、まだまだ考えちゃうんじゃないですか?

──YADOKARIに小屋作りに来てくれる方の割合も女性が7割くらいで、男性が少ないです。佐々木さんに伺いたかったのが、ミニマリストとしての家族観です。ご実家はどんな家庭だったのですか。

佐々木: うちは特別仲が良いというわけでも、悪いわけでもない、めちゃくちゃ普通の家族です。兄が二人の3兄弟。それぞれ子どもが3人ずついるので、甥っ子姪っ子が6人いるんですね。それに関しては兄たち、ありがとうという感じではあります。僕が子どもを持たなくてもいいかなと思える理由のひとつかもしれないですね。

──『ぼくモノ』がものすごく売れて、ミニマリストという概念が広がった時、ご家族はどんな反応でしたか。

佐々木:どぎゃー、みたいな(笑)。家族のLINEグループがあるんですけど、そのアイコンが僕が正座してご飯をフローリングの上で食べているっていう画像で。完全に馬鹿にされてる(笑)。

──ご家族でミニマリストはいらっしゃるんですか。

兄は1人で4台くらいの車を乗り回してますよ(笑)。母親は結構モノを持っているんですが、『ぼくモノ』が発売される時に言ったんですよ。「こういう本が出るからって、別にモノを減らさなくて良いから」って。なぜかというと母親はモノがあってもきっちり管理できて、家事もできているし、困っている要素は全然なく幸せそうなので。そういう管理能力がちゃんとある人だったり、幸せな人がモノを減らす必要はないかなと思っています。

──佐々木さんにとって、家という箱はどういう存在ですか。

佐々木:東京で働いている時は、平日も休日もあまり部屋にいなかったので、ただの巣みたいな、簡易宿泊所みたいな感じだったんですね。でも今は家で過ごす時間が多くなったので、仕事場所でもあるし、癒しの場所にもなっています。

僕は、ミニマリストってずっと続けなければいけないものだとは思っていなくて、一回通過して価値観が変わることが重要だと思ってるんですね。

小さい門があって、そこを一回通過すると、すごく小さくなって身軽になって行動しやすくなったり、自分の価値基準もはっきりしてくる。お金やモノこそ幸せだというマインドセットも解除される。そこからたとえモノを増やしても、自分の目で本当に選んだものだし、きちんと掃除することや管理することの心地よさを覚えているので大丈夫だと思うんですよね。


アドラー心理学によると、人が劣等感を感じるのは「課題の分離」ができないことが一因にあるという。自分の課題と人の課題とが混在し、本来向き合うべき課題が見えなくなることだ。逆に言うと、「自分は自分、人は人」と分離できることが、人との関係性をよりよく構築するパワーになると言えるだろう。

「ミニマリストを一生続けなくてもいい」と佐々木さんは言った。一度通過すればいいもの、だと。モノと向き合い、一度でも最少になって行動できるようになれば、人と比べて足らぬことを埋める必要もない。「自分は自分、人は人」という土台の上で人との繋がりを豊かに築くことができ、それは幸福の種子になる。

第4回は、佐々木さんの考える理想の暮らしについて語っていただく。理想から見えた、ミニマリズムのその先とは?
vol.4 依存を最小限にすることも、ミニマリズム