木材とデジタル加工の”掛け算”が生み出す、VUILDのソーシャルなまちづくり

(photo: Kunihiko Sato)

いつでも、誰でも、必要な量だけつくることができる社会。マサチューセッツ工科大学教授のニール・ガーシェンフェルド氏が『Fab ―パーソナルコンピュータからパーソナルファブリケーションへ』という著書で、大量生産からの脱却を提唱してから十余年。日本でも3Dプリンターなどのデジタル加工機を用い、木材やアクリルなどの材料を切り出すものづくり、デジタルファブリケーションが盛んになり全国各地にファブラボができるなど、” パーソナル・ファブリケーション(ものづくりの個人化)”は一定の認知と成果を上げてきた。

一つから作れるという個のものづくりムーブメントは、今日の”SHARE”の価値観をまとい、今、新しいステージに突入している。人々が繋がることで生み出される社会的価値を共有できる”ソーシャル・ファブリケーション”と呼ばれる動きだ。

今回ご紹介する、株式会社VUILD design & management(以下、VUILD(ヴィルド))は、このソーシャル・ファブリケーションの日本の先駆的実践者として、またパーソナライズ・ファブリケーションの気鋭の牽引者として、日本の豊富な森林資源を材料に、柔軟なプロダクト製作や生き生きとした住環境の実現、地域活性の仕組みづくりを行っている。

秋吉浩気(あきよしこうき)
株式会社 VUILD design & management CEO / 建築家
1988年、大阪府生まれ。「住む事と建てる事」が極端に分離している状況を革新すべく、 日本伝統木構法とデジタル製造技術とを融合したデザイン手法の構築と、その社会実装を行う。芝浦工業大学工学部建築学科にて建築設計を専攻、慶應義塾大学政策・メディア研究科田中浩也研究室にてデジタルファブリケーションを専攻。日本で唯一のShopbotGuru。

ただつくるだけでなく、ネットワークがつながってできること

個のものづくりに関しては、デジタル製造技術を用いることでアイデアを実現するのは簡単になった。しかしながら、すべての生活者が自分の理想の暮らしを具体的なアイデアに落とし込めるわけではない。

「私たちは日本の豊富な地域資源である木材の活用を基軸に、着想から実装まで丁寧に支援することで、誰もが実現したい生活を達成できる方法を一緒に探索しています。私はこの活動を『自己実現のためのものづくり』と呼んでおり、生活者の創造性・能動性を促進する事を生業にしています。」(同社CEO・建築家 秋吉浩気さん)

実際VUILDでは、「顔が見えずとも他の人に声が聞こえちゃう遊具」「パソコンとの間に隙間の無い机」といった、文字で見るだけでも想像力が掻き立てられる個人のクリエーションを多数支援しており、その対象者は子どもから主婦・シニアまで幅広い。

photo: KOKI AKIYOSHI

VUILDが提案するものづくりを支えているのは、「Shopbot」という大型加工機。先端技術を備えたこの3次元加工機では、同党の性能を持つ木工CNCの約3分の1程度の価格で手に入れることができる。CEOで建築家の秋吉さんは、2013年にアメリカの本社から日本で唯一の「Shopbot Guru(達人)」に認定され、VUILDはShopbotの代理店としての役割を担っている。

「現在、大学、自治体、工務店、製材所など全国16カ所に「Shopbot」が導入されています。単に設備導入を行うだけでなく、導入者と近隣の森林やユーザーの方々をつなぐネットワークの構築が私たちの活動の最大の強みだと考えています」(秋吉さん)

例えば、東京にいるユーザーが、A県産のヒノキを材料に選び、B県の設計者と共に作ったデータを用いて、C県でアイデアを出力する。それが可能になるのは、製作物のデータ、ノウハウ、材料情報、設計者情報、機材稼働情報など、創作に必要なデータが蓄積・一元化され、必要な時に引き出せる仕組みを積み重ねてきたからに他ならない。

デジタル製造技術は、自在な未来型のプロダクトを支えるだけではない。ともすれば職人の手中だけに存在していたような、日本の伝統構法にも応用できる。 例えば、奈良県の法隆寺に代表される複雑な木組の構法を「Shopbot」で応用すれば、複雑な継手仕口が簡単に製作できるようになる。継手仕口を用いて組み立てられたものは解体も楽になるため、例えば、気に入った家をバラして移動し別の場所に住まうといった、柔軟性と移動性に富んだ暮らしも夢ではなくなるかもしれない。

「まちもくパーク」開催。川崎の街が木材いっぱいの遊び場に

VUILDのメンバーが一丸となって製作した12Mの仮設橋(photo: Kunihiko Sato)

VUILDがある神奈川県川崎市では、現在「木育(もくいく)」を「まちづくり」に生かそうという「まちもく」というプロジェクトを展開している。木材を使って川崎市のさまざまな場所を遊び場や学び場にしようというもので、VUILDは街中に点在する木製の遊具やベンチなどのプロデュース・製作、ワークショップの開催などを担っている。

このプロジェクトの一環として、2017年2月25日、同市の上並木公園で、国産材で製作されたプロダクトでいっぱいの遊び場にするイベント「まちもくパーク」の第1回目が開催された。木の遊具やベンチ、屋台が出現し、12Mの仮設橋も建てられた。同日限りのイベントだったが、多くの子どもたちが歓声を上げて遊んでいた。

提供: mosaki

VUILDは、この日に合わせて事前に開催されたワークショップも担当。親子、夫婦、学生といった地域の参加者が「Shopbot」を実際に用いて作った木の家具たちが、イベント当日に実際に公園に並べられたのだ。

photo: KOKI AKIYOSHI

「ワークショップでは、直感的にものを作る喜びを感じてもらい、大量生産では達成できない自分だけが求めるものを、自らの手で実現する実感を持てる場にしたいと考えています。さらに、ソーシャル・ファブリケーションという視点でいうと、このような創造的な市民がふらっと立ち寄れ、皆が一緒になって未来の地域社会を考え・作り上げるための場をつくるのが私たちの目指すところです」(秋吉さん)

日本の”木”事情と、デジタル技術が加わることによる課題解決の可能性

photo: KOKI AKIYOSHI
photo: Kunihiko Sato

さらに同月、VUILDは、国産材とデジタル加工機を用いたデザインを普及すべく、川崎市日進町に日本最大級の木工FAB施設「VUILD川崎工房」を開設した。

Shopbotで切り出した木材で組み立てたベンチ

2月25日には工房の開設を記念したオープニングパーティーが開かれ、基調講演では岡山県の西粟倉村の「森の学校」代表取締役である井上達哉さんと、「YADOKARI」共同代表のさわだとウエスギが登壇。日本の林業の現状や今後の展望、次の建築革命における小さな暮らし方の可能性などについて語られた。

(左から)秋吉さん、井上さん、さわだ、ウエスギ

「日本の林業は、従事者の不足や高齢化、部材価格の低下、林産地のやせ細り、木材の供給先の縮小など多くの課題を抱えています。それでも西粟倉村では、森林を支えるファンドの仕組みづくりや間伐材を活用したプロダクトなどのオンライン販売を通して、木材がインターフェイスとなり地方と都市とが繋がれる環境をつくってきました。さらに、デジタルファブリケーションを使えば木材を広く循環させることができ、それが森林を残すことにも繋がると信じています」(井上さん)

「以前は住宅ローンを組んででも新築するのが幸せという住宅神話がありました。でも、僕たちが注目しているタイニーハウスや小屋、コンテナなどを使った小さな暮らし方は今後クリエーティブな人生の選択肢になり得ると考えています。中でも木材を使った小屋の可能性についてはさまざまな課題解決の鍵になるかもしれません。デジタルファブリケーションを用いた小屋キットの開発など、VUILDさんと知恵を出し合って今後検討していきたいですね」(さわだ・ウエスギ)

当日は建築家の土谷貞雄さんも来場した

VUILDは今後、森の学校、YADOKARIとともにそれぞれの強みを持ち寄って、木とデジタル技術によるコラボレーションを展開する予定だ。

国土面積の3分の2が森林である日本。森林率が高く、木の大国であるはずの日本が、木との暮らしを意識しなくなったのはいつからだろうか。

各家庭により木材が活用され、地域が生き生きし、次世代に豊かな森林を残す。そのために、国産材とデジタル技術を用いたものづくりは、きっとひと筋の鉱脈となるだろう。