デザインが地域社会を救う。過疎地の村の建物が有名観光地に
都市部の経済成長に取り残されたように、過疎化が進んでいた中国の田舎のとある村。しかし、とある建築プロジェクトのおかげで村は新しく生まれ変わり、今では大勢の観光客が訪れるようになりました。デザインが地域社会を救った素晴らしいストーリーをご紹介します。
過疎地の村をデザインを通して改善するプロジェクト
物語の舞台となるのは、河南省新陽市の「Xihe」という名の村。都市部から30km離れた山岳地域の孤立した村で、そのアクセスの悪さや働き口の欠如などから国家管理下にある貧困地域でもあります。人口のほとんどが老人や子供、そして何らかの障がいを抱えて都市部に出ていくことができない人たちでした。
建築家のHe Wei氏が2013年に政府の農村貧困緩和プログラムの一環として村を訪ねたとき、Wi-Fiや携帯電話の通じない現地の状況に非常に驚きます。その一方で彼は、村の竹林や秦朝時代の古代住宅、先祖を祀った寺院など自然と文化が融合した豊かな風景に可能性を見出すのです。
「良いデザインを通して村の現状を改善する」という目的のプロジェクトのターゲットになったのは、村の南部にある3760㎡もあるエリア。敷地内にある合計床面積1500㎡以上ある建物は、かつて1950年代の穀物農業が盛んだった頃に穀物や油の交換所として使われていました。しかし、2013年当時は見る影もなく寂れてしまっていたのです。
このプロジェクトは、農村建設開発の新しいモデルケースとして政府の主導でスタートしました。しかし、建設にかかる費用はすべて政府から支給されるわけではなく、村人の協同組合からも出さなくてはいけないというのです。そういった経緯もあり、村人たちも最初はプロジェクトについて懐疑的でした。古臭く、見慣れた建物は 「美しくない」という思い込みもあったのです。けれど建築家や政府との話し合いの結果、村人はプロジェクトに同意することになるのです。
プロジェクトのスタートが決定すると、全ては建築家と村人の間の共同作業で進められました。新しい機能についての議論や、実際の建築作業など、村人全員が何らかのかたちでこのリノベーションへの参加を求められました。障がいを持つ人であっても、それぞれの村人が出来うる範囲で作業に貢献したのです。
村人たち自身が「自分たちの手で村を生まれ変わらせる」という自覚をもってプロジェクトに臨んだ結果、ついに2014年8月に素晴らしい建物が完成しました。
文化的にも、経済的にも村に恵みをもたらしたデザイン
かつて廃屋だった建物は、公的活動の場となるコミュニティ・センターとして全く新しく生まれ変わりました。
会議などの集まりの場として使われるばかりではなく、結婚式などのお祝い事、村人の社交の場としても開放されたのです。
複数の建物に分かれていた本来の構造を利用し、建物のうちのひとつはレストランとして営業をスタートしました。
地元の農業史を再現した博物館も併設。レストランや博物館の運営は村人たち自身に任されていて、その売り上げはすべて村に還元されます。建築費用の返済にばかりでなく、地域経済に大きく貢献できているのです。
この村の美しい変貌は国内外で話題を呼びました。山間部でアクセスが悪いにもかかわらず、外国からも観光客が訪れるようになり、大型連休には一気に2万人の観光客が押し寄せるほどの有名観光地になったのです。そういった賑わいを見た政府は、村人の日常生活水準を向上させるために、道路の整備や電話、Wi-Fiなどの新しいインフラ整備にも着手したのだとか。まさに本来の目的であった「良いデザインを通して村の現状を改善する」が見事に達成されたと言えるでしょう。
このプロジェクトは、2014年の中国建築賞の「社会的平等賞」、台湾の国際デザインコンクール「Golden Pin Design Awards」の最優秀賞など、国内外のさまざまな賞に輝きました。
「Golden Pin Design Awards」の審査員である湖南大学デザイン学部He Ren Ke教授は、「社会との親和性と革新性を実現したこのデザインは、伝統的な村の文化を維持し、物質的にも精神的にも村の生活を改善しようとしている人々のための手本となるでしょう」と述べたそうです。
建物のリノベーションが、村そのものをリノベーションしてしまったようですね。けれどそれは、建築家が村に元から存在した美を見抜き、デザインに昇華させていたから。伝統的な美しさを無視し、近代的な建物に作り変えていたら、ここまで人々の注目を集めることはなかったでしょう。He Ren Ke教授のコメントのように、さまざまな過疎地や村に参考にしてほしい事例ですね。
Via:
designboom.com
archdaily.com
scmp.com
(提供:ハロー! RENOVATION)