グリーンハウスへようこそ。ストックホルムのエコロジカルな温室の家
1月の平均気温がマイナス2℃を下回るという厳しい冬のストックホルム。ガラス張りの温室の中に家をまるごと入れてしまうという大胆なアイデアで、太陽光のパワーで快適に冬を乗り切り、豊かな緑の自然と調和したエコな住環境を実現したファミリーがいる。
一から自分たちの家を建てようと、ストックホルムに土地を探していた夫婦が出会ったのが、近郊の島にあるこの避暑の別荘地。別荘自体は避暑用に造られていたので、そのままでは1年を通して住むのは難しい。そこで彼らは「温室の中の家」の建築をはじめた。エンジニアであるご主人いわく、ベングト・ワーン(Bengt Warne)というスウェーデンの建築家の、1970年代の家「Nature House」のコンセプトから、この設計をインスパイアされたとのこと。
ビデオの中では、自給の精神に基づいた徹底したエコロジカルなDIYのシステムや工夫が紹介されている。雨水を集めて飲料用やキッチン用に利用、またそれらを回収し再利用。そして、トイレの排水は遠心分離機にて分離、土壌の力で自然浄化して温室の野菜やハーブを育てている。
見た目は、手作り感満載の、カッコイイとはいえない装置やタンク・配管の数々。ただ、「10年以上前に建てた家」とのことで、その間にこつこつと手作業で少しずつ組み上げていったものなのだろう。
太陽と雨の恵みを大切に使いながら、なるべく余計なエネルギーを消費しないように、無駄を出さないように、循環型のエコシステムを生活の中に取り入れる。グリーンハウスの外のガーデニングや池にまで、浄化された下水を引き入れたり、排泄物のバクテリアや堆肥を上手に活用している。その自然と調和した生き方には、優しさの中にとても強い哲学を感じる。
とはいえ、マイナス20℃という極寒時は、温室内も零下に。住居部分には、断熱材や暖房は必要不可欠だが、それでも1時間の太陽光が差してくれるだけで寒さは随分改善されるのだそう。そして温室の熱保存効果で、暖房代は大幅に節約できているとのこと。
ガラスの「泡」で家を囲ったので、住居の屋根は必要なくなった。ルーフトップのオープンテラスは子どもたちの楽しい遊び場だ。冬でも陽の光を浴びてブランコ遊びができる。一歩外の温室には至るところに緑が茂り、トマトやきゅうりやぶどうなどが実をつけている。ちょっとしたリゾート&楽園気分を味わえる、かなり羨ましい環境だ。
気温が上がったら、自動的に屋根のトップが開いて熱気を逃がす仕組みだ。外気を取り入れる大きなスライドドアもあり、気候に応じて柔軟に対応できる開放設計がなされているのもいい。
気になる建築費用は、建築当時で80,000ユーロだったそう。4mmという厚手の防犯用強化ガラスを、これだけ全面に使っているので、ガラス代だけでもかなりコストがかさんだのではないだろうか。
ビデオの最後の方で、奥さんが「ここは生活をしているラボなんです」と最先端のソーラー・テクノロジーの蓄熱技術について触れている。奥さまが化学担当で、旦那さまがハードウェア担当なのかも。知的好奇心をモチベーションに、科学的に(そして楽しんで!)エコシステムを探求されている印象を受けた。
ちょっと不思議に思ったのが、いくら強化ガラスを使っているとはいえ、このガラスの温室は、日本の豪雪地帯では雪の重みに耐えられないのではと感じたこと。世界的な異常気象が頻発する中、今後ストックホルムでも、さらなる大雪が降る可能性もあるかもしれない。ただ、このご夫婦なら、独自の工夫で乗り越えるのではないだろうか。