廃材を活用して斎場をリノベーション。クリエイターや市民が集う場所へ。
アメリカのミシガン州にあるフリントという都市に作られた「スペンサーアートハウス」。長らく使用されていなかった120年前からある建物を、再生材料を活用してリノベーションし、クリエイターが新たな作品を生み出したり、街の復興の可能性を示すようなイベントを開催したりするスペースとして生まれ変わった。
この街は時代の荒波にもまれてきた。昔はこぢんまりとした木材を伐採する村であった。1900年代初頭にはゼネラル・モーターズの創業地となり、企業の繁栄期には全米で最も魅力のある都市と称されたが、その後の自動車産業の衰退とともに経済破綻や治安の悪化など様々な問題に直面してきた。しかし、近年になり、市民の努力や中心街復興のための資本投入により、再び活性化する可能性が残された土地であるという兆しがみえ始めたのだ。
そんな中、歴史の残る界隈で斎場として使用されていた建物を2名の建築家が見つけ、再生材料によるリノベーションを計画した。この斎場は1990年代に閉鎖された後、廃墟と化していた。窓は壊れ、基礎は崩壊し、屋根はへこんでいた。周辺にあった建物も壊れ始めており、わずかな家々が残るのみであった。
「スペンサーアートハウス」というプロジェクトの名前は、斎場のオーナーであったJ.メリル・スペンサー氏からつけられた。スペンサー氏は起業家であり、教育者であり、かの有名なキング牧師のクラスメートでもあり、フリントに大きな社会的変化をもたらした人権活動家でもあった。アートハウスは、周辺地域の復興の象徴やきっかけとなることを目的としていた。
建物のリノベーションはほぼ全体にわたり、空き家から回収された再生材料、建築廃材、廃棄物などが使用された。これにより、コストと環境的な影響を抑えた。創造力を発揮し、周囲の土地の歴史と自分たちをつなげるような空間の再設計を試みた。一般的なリノベーションでは3百万ドル程度かかるところを、3分の1以下の見積もりでこのプロジェクトを進めていった。
アートハウスは、1階ではワークショップ、展示会、小さな演奏会などを開催できるように、2階はアパートとして居住できるように設計されている。プロジェクトチームやコミュニティからの寄付や低額の補助金によってリノベーションを進めてきた。
崩れた床を取り除き、新たにコンクリートの土台を作って基礎を作り直した。また、板張りになっていた窓の部分を修復し、ガラス窓をはめた。かつて駐車場であった場所は割れていたアスファルトを取り除いて整備し、造園、ガーデニング、食育プログラムなどに使えるようにした。
屋外のシアタースクリーンを作ったのは地元のアーティストだ。自転車のホイールを滑車として用い、スクリーンを巻き上げると屋根となる仕組みだ。テーブルを作ったのは、プロジェクトのインターンである。ここで使われなければ埋立地行きであったであろう廃棄物を使った。
かつてキッチンシンクであった廃材は、屋外シアターのベンチとして使う。廃棄されていたレンガなどのリサイクル材でピザ用オーブンも作った。このオーブンで焼いたピザは今まで食べたピザの中で一番美味しかったそう。エントランスの壁も廃材で直してある。今日でもまだメッセージ性を放っていた50年以上前の広告も隣の空き家に装飾として使用している。
アートハウスはコミュニティの人々に身近な存在である。コミュニティメンバー、地元のアーティスト、建築業者、更生プログラムに参加する問題児などと一緒に作業することにより、地域になじんでいった。プロジェクトは、建物の物理的な改善の機会となるとともに参加者同士の対話の機会ともなった。例えば、建築に関するスキルを教える問題児の更生プログラムから人を雇い、熟練の大工と一緒に働いてもらったり、教会のグループ、多くの芸術家、地元の大学、通りがかりの人たちなどとも一緒に作業をしたりすることもあった。
また、スペンサーアートハウスが発展する中、コミュニティの人たちにこの成果を楽しんでもらえるよう、たくさんのコミュニティイベントを企画してきた。展示会、パペットショー、コンサート、料理の持ち寄りパーティー、映画鑑賞会など。これらのイベントが市民からのサポートへの更なるきっかけとなり、単なる目障りな存在であった建物がコミュニティ内の希望となった。
建物自体を真っ白なキャンバスのように見立て、アイデアで絶えず変化させてきた。物理的に、財政的に、そして社会的に利用できるにもかかわらず、使われなくなった建築物を再生することのモデルとなりうるだろう。
Via:
designboom.com
kickstarter.com
archinect.com
mlive.com
(提供:ハロー! RENOVATION)