ロンドンの貧困地域で住民が運営する総合コミュニティ「Bromley by Bow Centre」

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みなさんは、「貧困」という言葉から何を想像しますか? 満足に食べるものがなく、お腹を空かせているような状態でしょうか。それとも、新しい洋服を買えずにぼろぼろの服を着ているような姿でしょうか。
イギリスの首都ロンドンのとある貧困地域では、約30年前に「貧困のせいで十分な社会福祉へのアクセスができなかった」女性の悲劇が人々にショックを与えました。その事件をきっかけにして、住民は地域のセーフティーネットとなるべくコミュニティの自主運営を始めます。とある古い教会を中心に始まったその活動のストーリーを紹介します。

東ロンドンの貧困地域で起こった悲劇

ロンドンの東側にある「ブロムリー・バイ・ボウ」(Bromley by Bow)というエリアは、1990年代までロンドンの中でも特に貧しいエリアでした。その地域に建つ閉鎖された教会に、牧師としてアンドリュー・モーソン氏(Andrew Mawson)が派遣されたのは1984年のこと。当時のことを振り返り、モーソン氏は「教会の教区にあるコミュニティは、高速道路建設のためで解体され廃墟となった住宅地の周辺に建設されていました。(移民にあふれ)教会から徒歩10分以内に50の言語と方言が飛び交っていることに気づいたのです。数十年にわたってこの地域で試行された数え切れないほどの政府の施策は、ほとんど効果を見せていませんでした」と語ります。

このコミュニティのターニング・ポイントとなったのは、一人の女性の死でした。1990年代に教会のボランティアでもあったジーン(Jean Vialls)という女性は、ガンの病魔に侵されてしまいます。しかし、彼女は16歳と2歳の子供と高齢の両親の世話に追われ、十分な治療も受けられませんでした。本来なら受けられるはずの福祉の恩恵を、貧困で日々の労働や家事に追われていた彼女は満足に受けられなかったのだとか。

モーソン氏や教会のボランティアたちのサポートも空しく、彼女はイギリス独特のGP制度(市民自ら登録を行う総合診療医)や福祉のたらい回しにあい、35歳という若さで亡くなってしまいました。この悲劇によって、コミュニティの住人たちは目を覚ましたのです。

地域住民に開かれ、対話を重ねた教会

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ジーンの葬儀を終えたモーソン氏を始めとした教会関係者は、地域住民に対して教会を開放しました。周囲にはイスラム教徒などの異教徒の移民が多かったのですが、誰でも利用できる祈りの場としたのです。

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門を広く地域コミュニティに対して開いた教会は、「ブロムリー・バイ・ボウ・センター」(Bromley by Bow Centre、以下BBBC)として住民たちと「自分たちにとって必要なことは何か」「何をするべきか」と根気よく対話を続けました。

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その結果、住民の交流の場および売り上げを得る場としてのカフェの運営、職業訓練としての造園技術レクチャー、移民のための英語クラスなどが開始されます。言葉の不自由な移民は、職業以前に必要な法律や知識にアクセスしにくいため貧困状態に陥りがち。生きるために言葉から学ぶ必要があるのです。センターでは、さまざまなセーフティーネットとしての学びの場が提供されました。

驚くのは、そういったカフェやさまざまな学習コースがすべて住民たちの自主運営であるということ。設備の増改築に必要な経費や人件費は寄付などによる部分も大きいですが、すべてのマネージメントを行うのは住民たち自身なのです。

そしてもうひとつ、文字通り社会を動かすほどのモノを立ちあげることに成功します。

保健センター設立で、地域の健康と経済にも貢献

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それはなんと、BBBC独自のヘルスケア・センターの開設でした。実はイギリスでは、医療はNHS(国民保険サービス)と呼ばれる国営事業。そのため、小さな独立した慈善団体であるBBBCが、保健センターを建設することをNHSに納得させるのは簡単なことではありませんでした。

根気強い活動の結果、1997年に「Bromley-by-Bow health care centre」 は無事に開業。今日では100人以上のスタッフを雇用しており、地域住民の健康のみならず経済活動にも貢献できているのです。必要な医療を受けられず亡くなったジーンさんへの、コミュニティからの想いを感じ取れますね。

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さびれた教会を中心にして始まったBBBCは、今では地元の雇用、職業訓練や学習の機会を提供する場にまで成長しました。貧困のさなかにいる人々は将来への夢や希望を持ちにくいものですが、このコミュニティ・センターのおかげで、生活を健康的に向上させる希望を見出せるのです。

そしてBBBCは今、彼らの経験を活かし、他の恵まれないコミュニティの変革をサポートしているのだとか。小さなコミュニティから始まったこのムーブメントが、ぜひ広くひろがって欲しいですね。

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(提供:ハロー! RENOVATION