寝室のドアを開けばいつも違う景色に出会える。ユニークなスモールハウス体験
このユニークなスモールハウスはカナダ、ケベック州、フランス語圏として有名なモントリオールに本拠を置くl’abri(ラブリ)というデザイン会社が設計した。
この企画自体はTourisme Québec(ツアリズム・ケベック)が主体となり、lg2 agency(エル・ジー・ツー・エージェンシー)という会社が1組のカップルを追った短編ドキュメンタリームービー”Voici Chambre avec vues(ボウァイシ・シャンブレ・アベェク・ブゥ/訳: ここに、あなたと共にある部屋)”を作成した。
この小屋、一見すると何の変哲もないただの小屋に見えるかもしれない。この小屋の何が特別なのかというと、毎日々、中から扉を開くたびに全く違う風景がみられるのだ。
朝起きて、目の前の扉を開くたびに、自分たちが予想もしていなかった美しい風景や世界が目の前に広がる。もちろんただ単純に見えるというだけではなく、実際に、毎日違う場所にテレポーテーションしている。
しかし、そんな現実離れした魔法のようなことが、どのようにして実現可能になったのだろうか?
実は種明かしをすると、毎日クライアントが眠りにつく度にヘリコプターが登場し、この小さな家に紐をかけて、そのまま運んでいくという非常に物理的な方法をとっている。
しかしクライアントからすれば、毎日どこに行くか、何が起こるかなど全く知らされていないので驚きの連続だ。
ある時は池の上、ある時は海辺や野原。
ある時は羊の群れの中に。
ある時は灯台の横で目覚めることも。
ある時はクルージングを体験したり。
ある時はワイナリーの真ん中に。
ある時はヘリコプターではなく、電車の一部として連結されたり。
それぞれの場所の美しさはもちろん、その場所ごとに合わせた色々なアクティビティも体験できる。たとえば、池の上なら釣りをしたり、広い野原のうえならスカイダイビングができたりもする。特定のイベントに出くわすこともあり、ある時は幻想的な森の中に作られたインスタレーションを体験したり、ライブ会場の真ん中に置かれた場合は、一躍そのステージのスーパースターへと早変わりする。
そしてこのプロジェクトを成功させるには、小屋自体がヘリコプターで運べるほど軽量である必要があり、かつ一定以上の強度がなくてはならない。小屋の壁自体は、簡単に解体できるような「下見張りの壁」だが、軽量な金属で飛行機などにも用いられているアルミのフレームを下につけることによって、強度と軽量性の両方を追求した。
実際に何日もその中で暮らすため、快適に過ごせるかどうかということも大切だ。
もちろん家全体が軽くなければいけないので、家具などおけるわけもなく、中はほぼ丸々ベッドスペースになっている。それでも、カナダらしい木材をつかった内装はどこか暖かさを感じさせる。
小屋の下見張りは上半分が開けられるようになっており、前のドアと合わせて全部開ければ、室内は非常に見通しや、風通しが良く開放的な雰囲気になる。ケベックの寝室にいるような感じで、ベッドの上に寝転がることも可能となるわけだ。
アニメ、ドラえもんの「どこでもドア」は今の技術でも実現していないが、このシステムを使えば、ほぼ同様の効果が得られるだろう。もちろん自分たちが望んだ場所ではないので不便もあるかもしれないが、逆に、それで新たな発見や自分では想像もつかなかったような美しい世界に出会ったり、経験をすることができるかもしれない。
このプロジェクトは、スモールハウスの「軽量性」に着目して成功した例といえるだろう。そして実際に空を飛んでいる点を考えれば、ある種「モバイルハウス」とも言うことができる。
もちろん毎日ヘリコプターを飛ばさなくてはならないため、多くの人の協力と費用がいるわけだが、このような夢のような魔法のような暮らしが、やろうと思えば現実に可能だということが大事といえるだろう。