ショップをアートに変える。ニューヨーク「Tacklebox」の新聞紙再生デザイン
マンハッタン42丁目のグランド・セントラル駅。ぽつんと置かれたインスタレーションのようなキヨスクが不思議な存在感を放っている。黒いガラス瓶をディスプレイするニューヨーク・タイムズ紙の分厚い束と紙面が、街の歴史と記憶をパッセンジャーたちに呼び起こす。建築事務所「Tacklebox」による新聞紙を再利用したデザイン・ワークだ。
“その場所にある「布地」に私たち自身を編み込んでいき、調和を乱す存在にならずにプラスになるような何かを与えること”。
オーストラリア・メルボルン発の世界的スキンケア・ブランド「イソップ(Aesop)」のストアデザイン・ポリシーだ。イソップは世界の各都市に、その国の気鋭の建築家を採用したユニークなデザインのショップを展開している。
ニューヨークの地上の玄関口グランド・セントラル駅に置かれたイソップのキヨスクは、日々の約75万人の通勤者へのブランドのタッチポイントとして作用する。ふと立ち寄った者は、奇妙な造形のディスプレイが、1,800の断裁された「灰色の貴婦人」、ニューヨーク・タイムズ紙の束だとわかり驚くことだろう。ニューヨーク、そしてアメリカの誇りとしての同紙のステータスと、イソップのブランドを結びつけることになるわけだ。
マンハッタンはリトル・イタリー北のお洒落エリア、ノリータにあるショップもこのキヨスクのデザインを発展させたものだ。ここでは2,800の返品回収されたニューヨーク・タイムズ紙が、40万枚にストリップされ積み重ねられている。流行発信地に、あえて時間の経過とともにエイジングする新聞紙の壁をインテリアにして、イソップのブランドの永続性をアピールしている。
新聞紙は、ワインやスピリッツの貯蔵と熟成に使われるオーク材のフレームで固定され、やがて明るい黄褐色へと変わっていく。ショップそのものが、新聞という記録メディアをマテリアルにした、時間がテーマのインスタレーションだと言えるだろう。地層をイメージさせる新聞紙のフェルトのような柔らかい断面は、おもわず指でなぞってしまいたくなる。
イソップの店舗は日本にも複数あるが、京都文化博物館近くの京都店のストアデザインが気になった。
イソップは、「デザイン分類学(Taxonomy of Design)」という自社の店舗デザイン紹介サイトを起ち上げている。日本語も選択できるので、建築やインテリアに興味のある人はチェックしてみるといいだろう。