デザインでコミュニティに貢献。カナダのチャリティー食フェスを彩るフードカート

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カナダのフードバンクの利用者は、2016年3月の1ヵ月間に86万人以上となっています(HungerCount, Food Banks Canada)。先進国の中でも順調な経済成長を遂げているはずのカナダですが、国民の10人に1人が貧困状態にあり、中でも先住民、一人親世帯、地方の高齢者、難民の貧困率が高くなっている状況があります。

トロントにあるストップ・コミュニティフードセンター(The Stop)は、カナダ最初期のフードバンクとして1982年に設立されました。後にコミュニティフードセンター・カナダ(CFCC)を全国展開するニック・ソール(Nick Saul)が、1998年にエグゼクティブ・ディレクターに就任して以降、The Stopは単なる食料支援のフードバンクから、トロント市民のコミュニティのハブへと大きく姿を変えていきます。

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ソールは、それまで人の尊厳をおとしめる屈辱的なフードバンクの体験を、利用者受け身の慈善活動から、社会参加をすることで恥ずかしさを克服できる場へと変えました。食料の調理・栽培を通して貧困層の希望とスキルを確立し、孤立化した人々をコミュニティの力で自立へと導く取り組みです。自前の農園や温室をつくりあげ、ファーマーズ・マーケットやコミュニティキッチンで雇用を創出し、これまでの缶詰や余剰食品に頼っていたThe Stopの食料や食品を、美味しく健康に良い「グッドフード」へと変えていきました。

The Stopは「食料は基本的人権である」という信念のもと、人々の健康と尊厳を守るためのコミュニティの核として、トロント市民から厚い支持を集めています。運営基金の募金のために年に1度、2日間の日程で行われる食フェス「ナイト・マーケット」は、チケットは毎回すぐにソールドアウト。多数の有名シェフの参加に加え、ライヴ演奏やDJも楽しめる人気の食フェスとなっています。

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そして食べ放題の料理やドリンクを提供するフードカートのデザインも「ナイト・マーケット」の魅力の一つ。建築家や建築を学ぶ学生やデザイナーたちがボランティアとして参加して、今までに見たことのないフードカートを、エコロジカルな方法でつくり出しています。

ライアソン大学の建築科学の研究室メンバーは、夜間に美しくイルミネートする組み立て式カートを発表してきました。こちらは2014年のデザイン。

via: reduxlab.com
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次は2012年のデザイン。有機的な造形で、夜に照明で浮かび上がるラインがSFっぽく印象的です。

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同じくライアソン大学のインテリアデザイン部門からの出品デザイン。メルヘンチックです。

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溶接施工の会社からは、得意のスチールを素材にしたメカニカルなデザインも。

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「LEMON」カートはOCAD大学の学生チームの作品で、2014年に行われたデザインコンペの優秀作品。ワイン箱を含め素材はすべてリサイクルされたもの。

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日本人建築家・隈研吾の細い木材の使い方にインスパイアされたデザイン。

via: waterlooarchitecture.com
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ここで見られるのは、デザイン・アクティビズムという、建築、インテリア、ランドスケープ、ファッションなどの分野で、デザインを通じて社会やコミュニティに問題提議を行っていこうというムーブメント。その根本のテーマの一つは持続可能な環境、サステナビリティです。「ナイト・マーケット」のフードカートで食フェスを楽しみながら、環境やコミュニティについて考えるきっかけを参加者に与えてくれているというわけです。

日本で貧困世帯で暮らす子どもは約6人に1人。カナダには550のフードバンクがありますが、日本のフードバンクの数は80カ所以上に過ぎません。1ヵ月間に80万人を超える人たちがフードバンクを利用するというカナダの状況は、貧困対策が十分でない証ですが、フードバンクの数自体が少ない日本の方がより深刻と言えるでしょう。

The Stopの「食料は基本的人権である」という理念と、人の尊厳の尊重。健康的な「グッドフード」の提供とともに、「食品ロス」の解消に目が行きがちな日本のフードバンクのあり方に、貴重な指針を与えてくれるものだと感じます。住民を巻き込んでコミュニティの力で相互扶助をおこなっていくやり方を、日本のセーフティネットづくりにもうまく取り入れられたらいいですね。

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食フェスを楽しみながら、環境やコミュニティについて考える