子どもたちに大人気。イタリアの小さな村にやって来る三輪図書バイク

via: panorama.it © Alberto Bevilacqua

人里離れた村から村へと、三輪図書バイクを走らせるイタリアのおじいさん。『ニュー・シネマ・パラダイス』に登場する映写技師のような、人懐っこい笑顔のアントニオは元小学校教師。教師生活42年の後引退するも、社会から孤立して老いていく人生に我慢がなりませんでした。教師時代に感じた生徒たちに広がる読書への無関心も気になります。そこで彼は、2003年に中古のオート三輪を改造して、子どもたちのもとに本を届ける活動を始めたのです。

 

via: inhabitat.com
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「Bibliomotocarro (図書三輪車)」と名付けられたモバイルライブラリーは、ベスパのエンジンを積んだピアジオ・アペ (Piaggio Ape, apeはイタリア語でミツバチ) を改造して、ガラス扉のある書庫を搭載。三角のレンガ風の屋根と排ガスのマフラーとして機能する煙突を取り付けて、可愛らしいタイニーハウスのような外観に仕上げました。

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アントニオは毎週700冊の本を積んで、イタリア南部のバジリカータ州の人口1000人未満の8つの村を訪れます。図書三輪車の到着を告げるオルガンの音が響くと、子どもたちが一斉に飛び出してきて彼のもとに群がります。500kmにおよぶ道のりをエネルギッシュにロードトリップするアントニオは、「道路のマエストロ」とも呼ばれています。

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子どもたちがアントニオと図書三輪車を歓喜の声で迎える様子は、動画で見てもらうとその雰囲気がよくわかります。学校の先生より、ストリートの先生のほうが断然人気があるようです。どこか寂しげな老人たちに、小学生用のテキストブックを手渡すシーンがおもしろい。老人たちは子どもたちやアントニオのビビッドなエネルギーを、自分たちも受け取りたいと感じたのでしょう。

図書の貸出しは無料で、次回の訪問時に返却するか、1ヵ月間借りてじっくり読むこともできます。返却を終えた子どもたちは、次に読む本を書庫から物色して早速チェックしたり、熱心にアントニオに本の感想をおしゃべりしたり。借りる本が決まると、アントニオから白紙の本「ホワイトブック」が渡されます。子どもたちはそこに自分の創ったストーリーやポエム、絵などを書き込みます。別の子どもが「お話」の続きを受け継ぎ、ホワイトブックの物語は延々と続いていきます。いわば、ストリートの即興ワークショップです。

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アントニオの図書三輪車のプロジェクトは、2005年にイタリア文化財・文化活動省から「本と読書のベストプロモーション」で1位を受賞。2013年に「ヴァスト・ゴールド賞」を受賞、2014年には「シンパシー・アワード」を受賞し、イタリア大統領からメダルが授与されました。

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ニューヨーク・タイムズ紙の『2018年に行くべき52の場所』で、「イタリア南部の秘境」として3番目に取り上げられたバジリカータ。農業以外にさしたる産業もない辺鄙な場所でしたが、EUから2019年の「欧州文化首都」に指名されました。これを受けて、バジリカータの自治体も図書三輪車のプロジェクトを公式にサポート。

支援を受けて「ページから世界へ」という、子どもたちが読書からショートフィルムを制作するワークショップ・プロジェクトがスタートしました。こうして、図書三輪車は時にはミニシアターを備えた映画三輪車として姿を変えて、さらに精力的に活動を行っています。

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アントニオは現在、図書三輪車のアイデアを使って、アフリカの子どもたちにアプローチすることを計画しています。老いてますます夢が広がっていくのは、子どもたちのエネルギーのおかげでしょうか。ホワイトブックと同様に、アントニオの夢のストーリーもまだまだ続いていくようです。

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