日本の家の未来は変わる?クリエイターをビルダーが支援「bud brand」in MILANOブランディング戦略報告会レポート
日本のものづくりと住宅の未来を変えるかもしれない重要なプロジェクト「bud brand(バッドブランド)」をご存知でしょうか?
6/27、横浜市日ノ出町の京急電鉄高架下にある動産・タイニーハウスを用いた複合施設 Tinys Yokohama Hinodechoで、「bud brand」のイベントが行われました。
この日のイベントは、毎年4月に開催される世界最大規模のデザインの祭典「Milan Design Week(=ミラノデザインウィーク)」にすでに3年連続の出展を果たしている「bud brand」の、2018年の作品および出展による影響・効果を、このプロジェクトに関わるみんなで共有するのが目的です。
bud brandは2016年から3年連続で世界最大規模のデザインの祭典ミラノデザインウィークに出展している
bud brandとは?
「bud brand」とは、才能あふれる次世代の日本人クリエイターが世界でひと花咲かせるためのプロジェクト。
主宰しているのは、住宅からプロダクト、グラフィック、システムまで豊かなモノコトをデザインするクリエイティブカンパニー「FANFARE」と、日本の住宅の価値・寿命・性能を世界レベルにすべくビルダーや建材メーカーをつないでリソースを共有する会社「casa project」を中心とするチームです。
このプロジェクトが「つぼみ(bud)+綺麗に咲かせる(brand)」と名づけられた背景には、情報の大量消費時代に発信していても埋もれがちな若手クリエイターのデザインやアイデアを、インターネット上はもとより、情報が精査された“リアル”な環境で世界にアピールできる場を増やしたいとの想いがあります。
その一環として行なっているのがミラノデザインウィークへの出展。本会場だけで出展企業は約2000社、期間来場者数は約40万人を超え、ミラノデザインウィーク全体では100万人もの来場者が集まるこのイベントは、当然ながら出展するのに多くの費用がかかり、どんなに才能があっても若手クリエイターが1人で出すのはたやすいことではありません。
だからこそ「bud brand」の名の下に優れた作品を束ね、支援者を募って、みんなで出そう!というのがこのプロジェクトの主旨の一つ。
こうして日本産まれのデザインをミラノで発信し、世界中の人々にダイレクトに見てもらうと同時に、クリエイター・支援者も現地で世界のデザインを感じ刺激を受けることによって、日本のデザイン文化の未来をより良いものにしていくことが「bud brand」の意義です。
家づくりに関わる企業がクリエイターを支援
6/27の報告会には、2018年4月のミラノデザインウィークに「bud brand」から出展したクリエイター、職人、技術者、学生らのつくり手と、それぞれの作品の支援者が、日本各地からTinys Yokohama Hinodechoに集まりました。
この支援者というのが、住宅のビルダー・工務店・建材メーカーなど、家づくりの分野で地元に根ざして活躍している企業である点が「bud brand」の大きな特徴です。
ブランディング戦略報告会の様子
さて、Tinys Yokohama Hinodechoでの報告会は「bud brand」の梶原清悟さん(FANFARE代表)のご挨拶からスタート。自らがデザイナーでもある梶原さんには、このプロジェクトに対する、内側から滲み出た強い想いがあります。
「今まで僕らはミラノデザインウィークに行き刺激をインプットして持ち帰る、というだけだったけれど、デザイナー、クリエイターに加え、地場産業や地域のつくり手、学生も一緒に、“世界へ向けて産み出していこう”という動きが『bud brand』です。それぞれが日本に帰ってきた時の広がりが実際にあるからこそ、この先も続けていきたい。今日はその成功事例を発表し、みなさんがこれからどう変われるかのきっかけにしていただければ」
2018年のテーマは「お祝い」-おめでたいプロダクト-
今年のbud brandの会場となったsuper sutudioのKeyカラーには、「もしかして日本?」を連想させるような朱赤が用いられました。そんな中、「bud brand」の今年の作品テーマは「お祝い –おめでたいプロダクト-」。
四季折々の暮らしの中にある小さなお祝い事から、人生の節目に際した大きなお祝い事まで、祝福の気持ちを託し、贈る方も贈られる方も幸せになれるモノを、各地の家づくり関係者のサポートを受けながら、若手デザイナーや学生、地場産業の職人・技術者らがチームとなって作り上げました。
報告会では、ミラノデザインウィークに出展した13作品のうち7作品の関係者が、取り組みの経緯や根底にある想い、出展によって得られたことなどを熱く発表。その一部をご紹介します!
Case 01:HIBITSUGI(ひびつぎ)/カッティングボード
ふつうなら捨ててしまうヒビの入った木のまな板を、日本古来の「金継ぎ」の技法を用いて華やかな贈り物に仕立てた「HIBITSUGI」という作品。割れや欠けを金を使って継ぐことで、二度と離れない、唯一の美しさを持つ「ご祝儀道具」にアップサイクルしてしまう日本の美意識を、「木」と組み合わせました。
デザイナーはFANFAREに所属する木谷勇也さん。そして職人としてこの作品を成形したのは、鳥取県で自然木の特性を生かした家具やプロダクトを制作している坂口祐貴さん(WONDERWOOD)です。
先に世界へ発信し、日本に逆輸入するという可能性
ミラノデザインウィークのブースで多くの外国人にこの作品をアピールしてきた坂口さん、「bud brand」による日本発のデザイン、プロダクトの発信に確かな手応えを感じたようです。
「驚いたのは、まな板というプロダクトをブースを訪れた外国人の7割がご存知で、そのうちの8割が『金継ぎ』という日本の技法のコンセプトを知っていたことです。フランスの方から知人の入居祝いに贈りたいとオーダーが来たり、投資家からも興味を持っていただいたりと、ミラノデザインウィークで世界の人に認めてもらって日本に逆輸入するという発信の仕方に大きな可能性を感じました。出展者同士でも『次はシンガポールで一緒に何かしましょう』といった新たなプロジェクトも始まり、たくさんの方とご縁させていただくことができました」
ビルダーとして、ミラノの刺激を家のクオリティに生かす
この作品をサポートしたのが、年間180棟ものデザイン性の高い住宅を提供している「Logic Architecture」という熊本市のビルダーです。事務所のテーブルを自然木の一枚板でつくってもらったことがきっかけで坂口さんと知り合ったという、代表の吉安孝幸さんからお話がありました。
「会社を立ち上げてから毎年ミラノデザインウィークへの視察をしています。そこでインプットした最先端のトレンドを、どうやって住宅に生かすか考えて取り組んできた私たちの家づくりが、少しずつお客様に支持されてきたと思います。ミラノデザインウィークに行くたび、いつかここにブースを出したいと思いを募らせつつ、費用は莫大だし、じゃあ何を出す?という壁がありインプットだけに通っていましたが、『bud brand』ならみんなで協力しながら出展できて負荷が少ないので、こんなに嬉しいことはありません。
私たちにとって『bud brand』は、企業としてのブランディングや新卒採用に効果を発揮しています。社員のインプットのためにミラノデザインウィークに連れて行く。若いからダメではなく、若くても行ける風土をつくっています。やはり今は『可能性を感じる会社』というのがアピール力がありますから。
もちろんこうしたことが『bud brand』の目的ではないですが、私たちとしてはしたたかに使っていく。その結果、社員や設計士のクオリティも上がり、つくるもののクオリティも上がる。それが企業の付加価値になっていくと思います」
Case 02:菱/酒枡
愛知県三河地方の伝統産業である「三州瓦」の素材と技術で、古来よりおめでたい形とされる「菱形」の酒枡を仕立てました。単体での使用はもちろん、宴席を囲む人の数だけ組み合わせたり重ねたりして、グラフィカルな模様や建築物のようなフォルムをつくり楽しむことができます。
この酒枡をデザインしたのは、西脇佑さん(LINEs AND ANGELs)と大前洋輔さん。制作したのは、三州瓦の中でも家を災いから守る鬼瓦を手がける「鬼師(おにし)」と呼ばれる職人、加藤佳敬さん(株式会社 丸市)です。
伝統産業の職人の技術に、デザインをプラスする
近年、瓦を用いた住宅の需要が少なくなる中、鬼瓦の制作からも遠のいていた加藤さんですが、今回の「bud brand」の話を受け、せっかくチャレンジをいただいたのだからやってみよう!と職人魂に火がついたそうです。
「デザイナーがデザインしたものをつくること自体初めてで、つくってみると非常に難しかった。粘土に菱形の型紙を当て1枚1枚切り出して貼り合わせるのですが、くにゃくにゃしますし焼くと10%縮みます。しかも重ねたり組み合わせた時にピタッと来ないといけない。納得のいくものをつくり上げたくて、ミラノに行く当日の朝も窯から出していたほどです。
ミラノでは会場自体が華やかで、そこに自分のつくったものがあるのが夢みたいでした。やはり『デザインがものを言う』と感じました。自分は古いものばかりつくっていたなぁと。このチャレンジを通して自分に新しい技術もつき勉強になりましたし、これからは職人の技術プラス洗練されたデザインにも目を向けていきたい」
地域に生かされている者として、地元の産業を進化させる
この作品をサポートしたのは、「瓦の町」とも呼ばれる愛知県高浜市で家づくりを行うビルダー「CINCA」。代表の畠さんは、地元の伝統産業への想いを次のように語りました。
「三州瓦は昔から高い品質で知られて来ましたが、最近は屋根の見えないデザインが主流で、瓦が載らない、鬼瓦を使わない家が多いし、この瓦でなくてはという人もあまりいない。地場産業の廃る中、何かできないかと思っていました。
私たちの会社が続いていくには地域の人に支援してもらわないといけない。そのためには自分たちも地域を支援しないと。地域には必ず残さなきゃいけない伝統文化があるはず。地域に生かされている者として、地元の産業を進化させる役割があると思います。『bud brand』の試みはすぐに結果は出ないかもしれないけれど、長い目で見て、井戸を掘った人間として誇れるように関わっていきたい」
Case 03:木花
多くの人にとって家の新築は一生に一度の重大事。その家で紡がれて行く日々が永らく幸せであるようにと贈る新築祝いの品として、木皿と木匙を重ね合わせた花のようなテーブルウエアを考案しました。家族が過ごす月日の容れ物として思い出と味わいを増していく「家」を、この器が象徴しています。
制作したのは横浜市にある注文家具の工房「HALF MOON FURNITURE」の小栗夫妻、サポートしたのは茅ヶ崎市で78年続く「松尾建設」。代表の青木隆一さんが地元で続けている「茅ヶ崎ストーリーマルシェ」という催しにも、小栗夫妻は長らく出店し続けています。
地元のつくり手の価値を高め、出会いを増やすために
青木さんは、地元の家具職人であるお二人を支援したことについて次のように話しました。
「私たちは家はつくって終わりではなく、家のオーナーに寄り添って一生お付き合いして行くものだと考えています。そのコンセプトが彼らの家具づくりの考え方と同じだったので、彼らが工房を構えた当初から、うちで建てる家に一緒に納めるオーダーメイドの家具などをお願いして来ました。
しかし、せっかく良いモノをつくっていても彼らとエンドのお客さんと出会いがなかなか広がらない。『bud brand』に乗せることで彼らの価値もアップするのではないかと思ったんです。実際、今回出したことで、家の建具から家具まですべて彼らにつくってほしいという案件をいただくことができました」
Case 04:LEATHER UMBRELLA/傘、Iroha/おもちゃ
人生の困難から守る意味を持ち、長寿を祝う末広がりの縁起物でもある「傘」を、使うほどに自分に馴染む「革」を用いて制作した作品。また、枝に色とりどりの葉っぱを好きなように付けたり外したりしながら種から木へ、木から種へと循環する様を表現し、遊び継がれることを目指した木のおもちゃ。
これらは「静岡デザイン専門学校」の学生がデザインしました。やがてデザインのプロとして社会に出る彼らが初々しい力をミラノデザインウィークにぶつけたこの経験は、その後の大きな糧となるに違いありません。
この学生たちの作品をサポートしたのは、静岡県菊川市で注文住宅を手がける「Wing Home」です。静岡デザイン専門学校の卒業生も社員として採用しており、「bud brand」に取り組むようになってから入社希望が増えて選考に悩むほどになったとのこと。
学生も出展、地元企業の支援が希望につながる
学生の目線から見た「bud brand」の魅力について、静岡デザイン専門学校の保科康浩先生が発表されました。
「学生たちのモチベーションが明らかに高くなりました。高嶺の花であるミラノデザインウィークに学生の身分で参加できる!自分の作品を世界の人に見てもらえる!ということで力の入り方が違います。それを地元の企業が支援してくれるというのも、彼らにとってさらに嬉しいこと。地元に希望を持てるようになります。学生がチャレンジできる場をこれからも与えてほしい」
bud brandの今後の展開
ここまでご紹介して来たように戦略報告会の発表から、「bud brand」が若手クリエイターやデザイナーにはもちろんのこと、地域のつくり手や地場産業の職人、次世代を担う学生、そして支援するビルダーにも、それぞれに成果をもたらしていることが見て取れます。
「bud brand」では、ミラノデザインウィークに出展した作品を含むオリジナルの優れたプロダクトを、近くECサイトで販売する計画もあるそう。そこにデザイナーや工房の名前が出ることで、彼らへの注文や新たな仕事の機会が生まれます。
同時に支援している企業にとっては「bud brand=デザインを大切にしている。若手クリエイターを支援している」というアイコンが、自社の付加価値を高め、見える化するのに一役買ってくれます。
2019年のテーマは「旅」、支援の仕方は4通り
このような意義ある「bud brand」の活動を、ぜひとも絶やさず続けていってもらいたいものです。
2019年のオブジェクトテーマは、「旅」を100倍楽しませるデザイン。
旅路を、食を、ファッションを、出会いを。旅の中でのあらゆるシーンにおいて楽しさを増幅させるデザインのアイデアを、2018年7月〜9月末まで応募可能です。その中から選ばれた作品が、2019年4月のミラノデザインウィークに出展されます。
同時に制作活動や出展をサポートするビルダー側にも、学生支援・職人支援・クリエイター支援・地域支援という4つの支援方法や、もっと気軽に参加できるサポーター制度が提示されています。
bud brand作品応募や支援の詳細はこちらから
ブランディング戦略報告会に参加してみて
戦略報告会の後は、みんなでTinysでのBBQを楽しみました!
終了後、参加した方々に感想を聞いてみると、鹿児島県からいらっしゃったビルダーの代表は、
「以前から梶原さんの取り組みが魅力的だと注目していました。地場のビルダーとして他と同じような事ばかりしていてもダメ、特別な事、デザイン性で突き抜けないとマーケットに応えられない。今日はとても刺激になりました」
広島県の女性の建築家は、
「自社で通常のラインとは異なるプレミアムな住宅のラインを出し、この先どうブランディングしていこうかヒントを得たくて参加しましたが、今日のイベントで戦略がクリアになりました。『bud brand』を使うことでお客様に分かりやすく伝えていけそう」
bud brandが咲かせる日本のものづくりと家の未来
かつてスクラップ&ビルドを繰り返し、半ば耐久消費財と化してしまった向きもある日本の住宅。そして、世界でも有数の文化と技術を誇りながら閉塞感を打ち破れずにいる日本のものづくり。これらが互いを押し上げ、固定化された既存の構造から次の次元へのびのびと進化することができたなら。私たちの暮らす未来は間違いなく、もっと居心地の良い場所になることでしょう。自分や自社のためのみならず、「bud brand」という小さな若木を参加者全員で一緒に育てて行くことで、社会をより良く変えていけるのではないでしょうか。
bud brand オフィシャルサイト
http://www.bud-brand.com/
FANFARE
http://www.at-fanfare.com/
casa project
https://www.casa-p.com/
WONDERWOOD
http://wonderwood.jp/
Logic Architecture
http://www.arc-logic.net/
LINEs AND ANGELs
http://linesandangles.jp/
CINCA
http://www.cinca.co.jp/
丸市
http://www.sansyuu.net/maruichi/index.html
HALF MOON FURNITURE
http://halfmoon-f.com/
松尾建設株式会社
https://www.matsuokensetsu.co.jp/
静岡デザイン専門学校
http://sdc.ac.jp/web/
Wing Home
https://winghome.jp/
福岡デザイン専門学校
https://www.fds.ac.jp
高山マテリアル株式会社
http://www.takayama-mt.co.jp
WOODWORKPLANNING
http://www.woodwork-p.com
株式会社新生ホーム
http://www.shinseihome.jp