北欧からタイへ愛を込めて。TYINテーネステュエのカレン難民支援プロジェクト

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TYINテーネステュエ・アーキテクツは、建築を通じて人道的な社会貢献に尽くすノルウェーの若手建築家ユニット。「建築は地域の人々の暮らしをより良くする資源」と考え、困難な状況にある人々の生活を改善するためのプロジェクトを戦略的に構築してきました。TYINがタイとミャンマーのボーダーの村でおこなった、カレン難民の子供たちを支援する建築プロジェクトをご紹介します。

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ノルウェーのトロンハイムに拠点を置くTYINは、ノルウェー科学技術大学(NTNU)の建築学生により2008年に設立されました。タイに渡ったTYINは、地域住民との共同作業と相互学習を通して、地元で調達した材料と工法を使った建築プロジェクトで人道支援を行っていきます。地域の人々の考えやカルチャーを尊重し自らの考えを軌道修正する、「つくりながら考える」TYINの社会的持続性のある建築アプローチは、国際的に高い評価を受けるに至っています。

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2008年の秋、TYINはタイとミャンマーの国境にある小さな村を訪れました。住民の大部分はカレン族の難民であり、子供たちが多くを占めていました。このタイ・ターク県北西部のターソーンヤーン郡(Tha Song Yang)には、カレン族を中心としたミャンマー難民を収容している大規模な難民キャンプがあります。

ノルウェー・レバンゲル出身のエドナ(Ole Jørgen Edna)が2006年に開設した、セイフ・ヘイヴン孤児院を訪れたTYINは、孤児院のために何かできないだろうかと強く感じ、ユニークな外観の6棟のタイニーハウスからなるプロジェクトが2008年の11月から始まりました。

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これらのタイニーハウスはその外観から、バタフライ・ハウス(Soe Ker Tie)と現地の労働者によって名付けられました。側面と裏側のファサードに使用されている竹編みの技法は、地元の住居や工芸品でもお馴染みのもの。素材の竹のほとんどは、現場から数km以内にて調達されています。バタフライ・ハウスの特殊な屋根の形状は、雨水を集めると同時に、自然な換気を効果的に実現するためのもの。これにより雨季に雨水を貯蔵しておき、乾季に利用することが可能となります。

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プロジェクトの原動力は、難民の子供たちが正常な状況なら経験できたであろうことを再現することでした。すべての子供たちが、自分のプライベートスペースや住まいを持ち、お互いに交流し遊ぶことができる場を創り上げることです。

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リーズナブルに精度と耐久性を実現するためのプレファブ式の鉄筋構造は、ボルトを使用して現場で組み立てられました。建築資材のほとんどは、ミャンマー側のカレン民族同盟によって配送されています。この熱帯木材への依存というのは、困難で複雑な取り組むべき地域の課題でもあります。

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中古タイヤを使用した4つの基礎で、建物を地上から持ち上げることにより、湿気と腐敗の問題を防止しています。TYINが、地元住民との6ヵ月間のバタフライ・ハウスのプロセスを経て学んだ、耐久性、建築材料の節約、防湿などの重要な原則は、将来の持続可能な建築の基本となる可能性を感じさせるものです。

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2009年1月には、TYNはNTNUの建築学科の学生15人をセイフ・ヘイヴン孤児院のワークショップに招待しました。孤児院のもっとも喫緊の課題は、図書館と清潔な衛生設備でした。現地のカレン族の労働者とともに、TYINのメンバーはバスハウスの建築を手がけ、ワークショップ参加者は図書館の造営に力を注ぎました。

右の斜めのファサードの建物が図書館で、左の高い木が背後にそびえる施設がバスハウスです。

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図書館のコンクリート基礎は、現場に集められた大きな岩のベッドの上に置かれています。オープンな竹製のファサードが換気を良好に保って、漆喰の塗られたコンクリートブロックの壁が建物を冷やします。鉄筋による頑丈な構造が、子供たちが快適に遊ぶためのフロアを安全にサポートしています。

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書架はコンクリートの壁に合わせた高さで設定され、物が置かれていない余裕のあるフロアでは、様々なアクティビティが可能となっています。入り口は、アウトドアとインドアの間に適度な緩衝を設け、1階を小さなコンピューターエリアと大きなライブラリールームに隔てています。

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セイフ・ヘイヴン孤児院の子供たちは、図書館で宿題をしたり、コンピューターでインターネットを検索したり、様々な言語で書かれた本を読むことができます。この新しい建物は、集合場所としての大切な役割も果たしていて、遊びやゲーム、工芸といった活動のために頻繁に利用されています。

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2週間のワークショップで完成した新しいバスハウスには、トイレとバスルーム、洗面所、洗濯場が、地域ならではの素朴なローテク技術を取り入れて設置されています。清潔さ、プライバシー、自然日光、耐久性といった現実的なキーポイントを最大限に尊重して、シンプルで効果的なバスハウスが設計・施工されました。

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孤児院に対面する正面のファサードは、バスハウスのプライバシーを守るため、傾斜した竹製スクリーンで覆われています。この部分には、2つのプライベートエリアをパブリックゾーンに接続する通路があります。中央には洗面台が3つある地元のカレン文化に適応した共用バスルームがあり、両側のクローズドルームには、2つのピットトイレ、西洋式トイレ、シャワーと洗濯場があります。

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こちらは、古タイヤを利用した男子用トイレ。かわいい。

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プロジェクトの設計における最大の問題は、バスハウスで処理する下水の管理でした。排水システムには、雨季における大量の雨水に対応することが求められました。TYINは、将来の地域の発展に適用される可能性のある、代替技術とローテク・ソリューションを実装しました。フロアとバスルームを清潔で乾燥した状態に保つために、砂利・石・木材を組み合わせて使用。砂利と石でできたフロア層は、バスルームを水浸しにすることなくスムーズに排水します。トイレからの排泄物は、パイプを通って地下部分にて分解されます。

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タイ北部の気候の中、個人衛生を向上させることは、疫病の感染を防止し、特に小さな子供たちの健康を維持するためには不可欠な要素です。セイフ・ヘイヴン・バスハウスは、孤児院の子供たちの尊厳を損なわない、機能的な衛生施設として地域の個人衛生に寄与できるものでしょう。

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NTNUは、このようなワークショップに貢献することは、教育機関にとって非常に重要であると表明しています。若い学生やスキルを持つ学生にとって、実際の問題に取り組み、その結果をもとに意思決定を行う貴重な機会となるからです。

50人規模にまで拡大したセイフ・ヘイヴン孤児院へのTYINの支援プロジェクトは、2009年の2月をもって完了しました。

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TYINはこの他にも、バンコク最大のスラム地域クロントイ・スラムに、クロントイ・コミュニティ・ランタンと呼ばれる多目的コミュニティ・プレイグラウンドを建築するなど、世界各地で人道建築デザインを手がけています。

TYINの活動の軌跡をもっと知りたい方は、TOTO出版から『ビハインド・ザ・ラインズ TYIN テーネステュエ』という日本語の入った本が出版されています。

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同じタイでもターク県はかなり遠いんですが、写真を見ているうちにジーンと来てしまって、一度はぜひ訪れてみたいという気持ちになりました。

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