雪のすべり台の屋根。倒木を使ったチリの極寒仕様の山岳キャビン
角度によっては、歩く巨大ロボのようにも見える高床式のキャビン。シャープに傾斜する屋根と支柱の2本足のコンクリートが目を引きます。黒く焦げた外観で、まるで山の原生林に擬態しているかのようです。
南米チリの山奥の深い森に設置された「シャングリ・ラ キャビン」。周りには手付かずの原生林が広がり、近くにはスキーリゾートもある冬の豪雪地帯です。キャビンは若木が光を求めるように、コンクリートの支柱によって高く持ち上げられていて、どこか不安定な印象を与えています。
シャングリ・ラ キャビンは、山岳建築に豊富な実績を持つチリの建築事務所DRAAが設計。同社の“森の景観に居住する”シリーズの最初の作品です。コンクリートの2つの板状プラットフォームが90度の角度で取り付けられて、居住スペースを地上3メートルの高さに持ち上げます。これにより原生林の土地への影響を最小限に抑えて、ツリーハウスのような居住感覚をリビングスペースにもたらしています。
屋根は、積もった雪が滑り落ちるようにシャープに傾斜した設計。エクステリアは焼杉技法によって燻された松の板で覆われ、腐敗や害虫から建物を保護しています。
1ベッドルームのキャビンの内部は、50平方メートルの広さがあります。エントランスからはスライディングドアで、小さなロビーに入ります。ここは気密室として機能して、外部からの不要な冷気の流入を防ぐ仕組みです。耐寒のために、212ミリのスチロール樹脂をコアにした、軽量なプレハブ式の構造用断熱材 (SIP)で高レベルの断熱が施されています。
インテリアには敷地内の倒木から切り出した厚板が使われ、厳しい気候の避難場所としての温かみを感じさせます。オーナーが親戚一同を現場に招集し、メタル製の階段と手すりの組み立て、ビルトイン家具の取り付けや板材を焦がす面倒な作業を、地元のチームと共にやり遂げたとのこと。キャビンのDIY的な素朴な造作の背景には、南米に残っている一族で協働するカルチャーがあったわけです。
内部にはバスルームとベッドルーム、薪ストーブが設えられたダイニングキッチンがあり、はしごを登って北向きの大きなガラス窓があるリビングにアクセスします。
シャングリ・ラ キャビンには、DRAAの陸上と海上での建築プロトタイプによる長年のDIY実験の知見が生かされているとのこと。シンプルさと自然に対する尊敬の念を抱いたプロジェクトは、大胆な幾何学的な構造とデザインで森のランドスケープと見事に調和しています。
地球の反対側の遠く離れた南米チリですが、日本の焼杉技法がDIYで使われているのには少々驚きです。こちらもシャングリ・ラ キャビンの建築デザインを、日本の豪雪地帯や山岳地域の住宅建築の参考にしてもいいかもしれません。