車輪の上のファーストクラス。ボルボの自動運転コンセプトカー「360c」
ゆったりと横になり熟睡してリフレッシュ、目覚めのコーヒーを飲んでいると目的地に到着です。遠い空港まで行ってセキュリティチェックを受け、待ち時間やカウンターの行列に並ぶストレスとはおさらば。国内線のフライト時間より長いこの無駄な時間を解決するのは、ボルボの自動運転車「360c」のスリーピング・キャビンです。
無印良品を展開する良品計画が、フィンランドの自動運転バス「Gacha(ガチャ)シャトルバス(仮称)」の車体デザインを担当したり、GoogleグループのWaymoが、カリフォルニア州で無人自動運転の許可を得るなど、自動運転時代の到来を身近に感じさせるニュースが相次いでいます。
360cは、2018年9月にボルボ・カーズが発表した自動運転のコンセプトカー。運転席のない車内には、4つの異なるインテリアが施され、自動運転がもたらす移動するリビングスペースの未来が提示されています。
360cのインテリアは、「スリーピング・キャビン」、「オフィススペース」、「リビングルーム」、「エンターテイメントスペース」という各デザインで、退屈な移動や通勤時間を有意義に生かすライフスタイルを提案。中でも、もっとも注目したいのはベッドルームに変わるスリーピング・キャビンです。飛行機の短距離国内線の代替手段として利用されることを狙ったものです。
乗客1名用のスリーピング・キャビンでは、余裕のある座席シートが就寝時にはフルフラットベッドにチェンジ。片側には、引き出し式の収納コンパートメントも設けられています。
ボルボのセーフティ・エンジニアは、乗客のポジションが安全にどう影響するかをリサーチ。睡眠時の安全確保のために、特殊なセーフティ・ブランケットを現在開発中とのこと。ブランケットの四隅をシートにアタッチすれば、睡眠を邪魔することなく、緊急時のみにシートベルトのように締まって乗客を保護する仕組みです。
360cの自動運転車では、ウェルビーイング (well-being) なモビリティがテーマとなっています。朝に自宅まで迎えに来てくれ、オレンジジュースを飲みながらニュースをチェックして、プライベート空間でラクラク通勤。
オフィススペースではクライアントをピックアップして、車内で商談したり、サイドスクリーンを使ったプレゼンテーションも可能に。
リムジンのようにラグジュアリーに仕立てられたリビングルームで、シャンパンを飲みながら友人とプライベートパーティーも。
「自動運転により非生産的な移動時間の負担がなくなれば、都市部に居住する必要性も減ります。住まいの場所の選択肢が増えることで不動産価格の高騰が抑制され、より手ごろな価格で住宅を所有できる可能性が広がります」と、ボルボ・カーズのマーテン・レーヴェンスタムは述べます。
360cの描く自動運転の未来は、どれも夢のようなものですが、一方では非常に現実的な安全走行のアプローチが実装されています。自動運転技術は、今後緩やかなスピードで普及していくことでしょう。その結果、人間のドライバーのいない完全自動運転車と有人ドライバーの自動車が混在した交通状況になるはず。他車のドライバーとのアイコンタクトなどによって、相手の意図を把握することは不可能になります。
この課題に対して360cは、エクステリアの音、色、映像、モーションの組み合わせによるシステムで、車両の意図を他の道路ユーザーに伝えられるように設計されています。周りの道路利用者が、車が次に何をするのかを直感的に判断できる仕組みです。たとえば、横断歩道で歩行者を発見した際には、手前で停止してLEDライトとサウンドを使って、横断をうながすようなサインを送ります。360cは、このような交通におけるコミュニケーションを新たにデザインした点で、高く評価できるものでしょう。
360cのコミュニケーションは、道路利用者に対して決して命令や指示を出すのではなく、わかりやすいサジェスチョンを行うことが留意されています。自動運転車に「止まりなさい」「横断しなさい」などと音声で言われたら、イラッとくる人たちも多いというリサーチの結果でしょうか。
ボルボの360cのコンセプトは、パナソニックの発表した「モビリティキャビン」と共通するものを感じます。自動運転車を移動するリビングスペースとして再デザインする試みは、自動車メーカーの枠組みを超えて今後も増えていくことでしょう。
空港の待ち時間や満員電車の通勤から解放される自動運転の未来は、本当に待ち遠しいですが、一つだけ個人的にとても気になるのは、トイレはどうするの?ということ。