思い出と未来の建築アート。アルゼンチンの燃料タンクのシェルター

via: martinmarro.blogspot.com © Martín Marro

レモンイエロー色の燃料タンクのハッチを開けると、なんだか快適そうなベッドルームが広がっています。薄型テレビや丸く弧を描くソファーは、モダンリビングの佇まい。実際に人が居住できるアルゼンチンの燃料タンクは、未来に発掘されることを想定した、問題提起のインスタレーションなのです。

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人類の時代という意味の「人新世(じんしんせい, アントロポセン)」という言葉をご存じでしょうか。人が地球の生態系や気候に大きな影響を及ぼすようになった今の時代は、これまでと異なる新しい地質時代に入っているという考えです。シェルターの製作者マルティン・マロ(Martín Marro)は、1950年頃に始まったとされる人新世を、スペキュラティブ(未来について考えるきっかけとなる)なコンセプトで表現するアルゼンチンのアーティストです。

Bunker(燃料置き場)と名付けられた燃料タンク製シェルターのコンセプトは、「未来の考古学」。快適に見える現在のライフスタイルを象徴するリビングスペースは、遠い未来に発掘された時にどう映るのだろう?という意図が隠されています。チャーミングな黄色の外装やインテリアのモダンな設備は、ある瞬間に未来のディストピアを連想させるものに変わり、鑑賞者にショックを与えます。

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壁一面に貼られたスケッチに交じって、一枚のセピア色の古びた写真があります。写っている1940年代のガソリンスタンドは、マルティンの家族が暮らしていた家。燃料タンクのプロジェクトは、生まれ育った家の思い出を再現するためのものでもありました。彼は2012年から2年近くの間、作品のイメージをスケッチし続けます。

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マルティンは地元のコルドバで、小さなガソリンスタンドの隣に70年間地下に埋設されていた燃料タンクを発見。兄と一緒にタンクを切り開いて、窓ガラス・換気・入り口のハッチを取り付け、電気を接続しました。コンテナをDIYでタイニーハウスにコンバージョンするのと同様の作業です。

via: newatlas.com © Martín Marro
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ディーゼルタンクのシェルターは、長さ3メートル・直径1.5メートルの大きさ。内部には、ベッド、ソファ、壁掛けテレビや木製棚が設置されています。天井には自然光を取り入れるための小さな天窓もあります。大学で建築を学んだマルティンは、自分が本当に快適に過ごせるように、ディテールにこだわって丁寧にインテリアを仕上げています。

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Bunkerは、2017年にしばらくマルティンの家族の家の外に置かれ、2018年後半にはコルドバのアートフェアで展示されました。

via: newatlas.com © Facundo Cornejo Marro
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インスタレーションの体験者は、様々な感想を述べています。
19歳の青年「それは埋葬された過去の何かであり、現在では未来から身を守るのに役立つ」、35歳の男性「私は永遠にそこに住んでいたい。すべてがとても速く起こっています。私は疲れている。安らかに一日中そこにいて、寝ることさえできるなんて素敵だ」、50歳の女性「このオブジェクトは地球の未来と人間空間の欠如を表しています」、45歳の女性「それは私にとって過去の発見と未来への疑問です」。

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マルティンは、現在売りに出されている元の家族の家を購入したいと考えています。自分の住まいのインスタレーションとして、ガソリンスタンドを再現したいとのこと。Bunkerが置かれた、モデルハウスのようなガソリンスタンドのアートは、とてもユニークなものになりそうです。

問題提起するデザイン、スペキュラティブデザインが注目されていますが、現代アートはもともとスペキュラティブな側面を持っています。サステナビリティをコンセプトに、現在のライフスタイルを問い直すアートは、ますます多くなっていくのではないでしょうか。

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