雪国の自然と住まい

東京では、最近になって少しずつ暖かくなって桜の開花を待つばかりの、春が待ち遠しい季節になりました。でも、雪国ではまだ雪が残る寒い冬が続いています。同じ日本なのに不思議です。

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今回はその雪国の自然と住まいについて書いてみました。都会暮らしの方々には、想像のつかない、驚くような事が沢山ありますので、ご紹介してみようと思います。

北海道の積雪量と気温


私は北海道釧路市の出身。いわゆる雪国育ちです。北海道でも道東に当たる釧路市は、比較的雪は少なめですが、気温はマイナス20度近くまで下がる事があります。それに比べ道南と言われる札幌方面は、かなりの積雪量がある地域になりますが、気温は比較的高めです。それでもマイナス気温ですけど。因に、道央と言われる旭川方面は、かなりの積雪量があるにも関わらず、気温はマイナス30度まで下がります。同じ北海道でも気候にこれだけの差があるということは、それだけ広いということでしょうか。

 

雪かき


雪が降って喜んだのは、小さい頃の記憶と我が家の歴代の犬達くらいで、そこに暮らす人達にとっては、溜息の出る代物です。なぜなら、雪が降った翌朝には除雪という作業が待っているから。いわゆる「雪かき」ですね。北海道で暮らしていた頃は、夜中に市の除雪車が走っている音が聞こえると、「あ〜雪が降っているんだな」と解釈したものです。道路は除雪車が雪かきしてくれても、家の周りはやってもらえないので、各家庭で行うしかないんですね。北海道の雪はパウダースノーと言われますが、降ってから時間が経てば、空気中の水分を吸って、翌朝には重みのある「ベタ雪」へと変化します。大きなスコップのひとかきで、ずっしりとした重みを感じる為、大変な重労働になります。

今年は都内でもよく雪が降りましたね。雪かきを経験された方も数多くいらっしゃるのでは?最近、北海道では、雪かきアルバイトなるものがあり、2万円ほどで個人宅の周りと屋根の雪を降ろしてくれます。しかし、雪が降る度に2万円支払うのは考えもの。高齢者の1人暮らしのお宅では、雪かきが出来ないまま、家から出られなくなる事もあるようです。

 

氷の歩道


この衝撃写真をご覧下さい。スケートリンクではありませんよ。

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雪が降って昼間に雪が解けても、夜になればまた気温が下がって、歩道はこのようにカチコチになってしまいます。ここまで氷が厚くなってしまうと、一般家庭ではもうお手上げ状態なので、春になって解けるまでにはこの状態が続きます。それでも、北海道の人達はたくましく歩きますけどね。ただ、高齢者や子供などには非常に辛い環境です。毎年冬になると、すべって転ぶ危険性が高いのと、マイナス気温の中を何分も歩くのは体温を奪われてしまう為、冬の移動はほとんどが車に頼る生活になってしまいます。雪国では1家に一台ではなく、1人一台が普通です。

 

玄関フード


北海道の住宅事情は、やはり雪のことを考えた設計になっています。屋根は傾斜のあるトタン屋根が一般的で、雪がパウダースノーの状態のまま、滑り落ちるようになっています。なので、北海道ではマンションでも最上階が屋上のようなフラットになっておらず、三角屋根になっている所が多いです。あと特徴的なのは、「玄関フード」なるものがあること。写真を見てもらうとわかりますが、玄関扉の外側にもうひとつ扉があるものです。これは、冬になると部屋の中ではストーブを付けて暖かいのですが、暖房のない廊下や玄関へ行くと、外と変わらない程の寒さを感じるので、玄関を少しでも暖かくするため、そして雪で玄関扉が開かなくなるのを防ぐためのもの。玄関フードが無いと、ビール瓶を玄関に置けば翌朝にはビンが凍って割れ、溢れた中身も凍ってしまうほどの寒さなんです。

玄関フード
玄関フード

 

灯油タンク


北海道の家の中は、部屋ごとに暖房があるのが当たり前で、トイレやお風呂場も床暖房になっているのは珍しくありません。夜も一番低い温度設定のまま、暖房は朝まで付けっぱなしにしておくのが普通です。消してしまうと、翌朝に凍える思いをするので、怖くて消せません。なので、大量の灯油を消費します。部屋の規模にもよりますが、ひと月で5万〜10万くらいでしょうか。東京のように、ポリタンクで買っていては到底間に合いません。

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灯油タンク

そこで各住宅には必ずこの灯油タンクがあり、業者を呼んでここに給油してもらいます。車のガソリンと一緒で、満タンにしてもらったり、一定のリッター数だけ入れてもらったりしますが、ほぼ毎回満タンにしないと冬の間はすぐ空になります。この灯油タンクから各部屋に石油が届くように、住宅設計されているのです。どれだけ寒いか、想像いただけるでしょうか?

 

グラスウール=断熱材&防音材


北海道の住宅には、断熱材が必須です。水道管にも巻かれているのを見た事があります。水道などは元栓を締めてから寝ないと、翌朝には凍結して水が出なくなったりする為。壁財にも断熱効果のあるものが使われていて、しっかりした造りの住宅が多いような気がします。グラスウールと呼ばれる断熱材の厚みは15センチ以上が当たり前です。私が幼い頃、今の実家を建てる際に目にした、このグラスウール。布団の綿のような、綿あめのような、ふわっふわな見た目にそそられて、手を伸ばした瞬間に、ちくっ!と痛かったのを覚えています。まあ今思えば、読んで字の如く、ガラス繊維なので素手で触れるものではなかったということなんですが。関東でも使われているのでしょうかね?あまり見かけませんが。東京に住み始めた頃は、いくら暖房を付けても、部屋の中が温まらないことに驚いたものです。当時住んでいたアパートも、隣人の声が聞こえてくるくらいの壁の薄さでしたが、グラスウールが使われていれば、防音効果もあるので、そんなことはないのだろうなあ。

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グラスウール(断熱材)

 

薄着VS厚着


あと、東京の住宅に住んで驚いたことといえば、窓です。北海道は、住宅内外の気温差が常にプラマイ20〜30度あるため、窓の結露は尋常ではありません。なので2重サッシか、最近では厚手の樹脂ガラスサッシであるのが常識なんですが、東京ではほとんどが薄いガラスの1枚窓ですよね。しかも、窓際が寒い!冬になると、東京では窓に貼る防寒シートが売られていますが、その前に窓を2重にすれば事足りるのに、と思えてなりません。床や窓などにシートを敷き詰め、電気カーペット必須で、しかも住人は部屋の中にいるにも関わらず、洋服を着込んで着ぐるみ状態になってる。これは北海道の人間からすると、何とも不思議な事であり、疑問でもある。何の為の家なんだろうかと。寒い冬だからこそ、部屋の中では薄着でも暖かく居られるほうがリラックス出来るし、快適だと思います。そんな私も、東京では暖房節約して、重ね着しちゃってますが。郷に入っては郷に従え….なんでしょうかね。いや、理由は明確にあります。最後にも述べますが、住宅そのものの造りに違いがあるからです。

 

北海道の住まいの歴史


雪国北海道の家も、最近では色々と躍進を遂げているらしく、様変わりしてきているようです。昭和40年代から50年代の高度経済成長期、首都圏への出稼ぎから北海道へ戻った大工さん達が、「日本最新式住宅」として、北海道や東北に東京仕様の建築技術を持ち込んで、そのまま建てた家が多いとされています。これによって、夏は湿気に悩み、冬はとても寒い家が当たり前となったとか。しかし現在は、雪国仕様住宅として「北海道型高断熱高機密仕様」の開発が進み、暖房費が嵩む割には部屋が暖まらない事から、タブーとされてきた吹き抜け構造も可能となりました。暖房器具も真ん中に対流式石油ストーブを一つ置けば、フロア全体が暖まるような仕様へ変わり、窓も2重サッシから厚手の樹脂ガラスへと移行しているようです。結果、結露がほとんどなく、暖房費を抑える仕組みを取り入れた暖かい家が、北海道住宅の「最新式」として定着しつつあります。

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住まいと環境


住宅はその地域の気候や環境に合った建材を選ぶところから始まるような気がします。そして、その地域の気候や暮らしに長けた、地元の建設業者さんや大工さんに話を聞く事が最重要かと。北海道の家は、寒さに対しては快適に過ごせるけれども、暑い夏には、なかなか暖まった熱が家から逃げないという弱点があり、東京の家は、断熱材等を重視しない分、熱を逃がすという意味では夏仕様だけれども、冬には逆に熱を逃がさない工夫が住人に課せられる。それぞれが1年のうちに多くを占める季節環境に焦点を合わせた住宅なのでしょう。でも、これからは仮に60%の環境に合わせてきた住宅から、残りの40%も快適に暮らそうという意識が高まるような気がします。その40%を別の場所で別荘として解決する方法もあるでしょうが、本宅も別宅も仕事場も、これからはすべてに100%が求められて、いつ何時どこの場所にいても、季節を問わず、快適に暮らせる住宅が理想とされる時代は、もうすぐやってくるでしょうね。

いずれ東京の冬でも、家の中では薄着をして暖かい部屋で過ごすようになるかも知れませんよ。

 

☆次回は、「住まいと緑」です。