第1回:生きる芸術〜バルセロナ編〜

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はじめまして

こんにちは。
わたしは妻のチフミと2人で「檻之汰鷲(おりのたわし)」という名前でアート活動をしている石渡ノリオと申します。2013年の6月からスペイン、イタリア、ザンビア、エジプト、モロッコの5カ国でアート作品をつくり発表してきました。

そもそも、ぼくが、なんで39歳にもなって、仕事を止めて海外へ行こうと考えたのか。

例えば、日本でも電車や車で移動していると、どんなに遠くに行っても家があります。誰かが暮らしています。飛行機に乗れば、それが夜であれば、街の光が見渡す限り、夜空の星のように輝くのが見えます。その光のひとつひとつに人生があります。
ぼくは、そのひとつひとつに会ったこともなければ、どんな人かも知りません。この世界は、大地の広がり以外に、ひとつひとつの人生の広がりもあるのです。どこの国のどの街でもいい、その知らない誰かに出会ってみたい。そしてどんな人生を送っているのか見てみたい。それがぼくの旅の動機でした。

そんな訳で、世界中のアーティストインレジデンスにせっせと企画書を送りまくって、返事がきた5カ所に、運任せに行くことにしたのです。

アーティストインレジデンスとは、アート活動をする人のための宿泊施設です。その多くは、ギャラリーやアート団体が運営しているのですが、実際に滞在してみると、倉庫を改造したスペースや、ペンションに作業場所がついたものや、ホームステイ、単なるアパートまで、値段も形態も内容も様々でした。

旅先でYADOKARIのホームページを見ているうちに、異文化の生活に密着し、人と人の出会いを楽しむような長期滞在の提案をしたら役に立てるかも、と考え、さっそく応募した結果、この話ができる流れになりました。

タイトルの「生きる芸術」とは、生きることに関する技術のことです。そのすべてがアートです。その技術を共有していけば、選択肢豊かな未来をつくっていける、そういうコンセプトでお話していこうと考えています。どうぞよろしくお願い致します。

観光地ではない街に暮らしてみる旅

みなさんは、airbnb.comをご存知でしょうか? B&Bとはブレックファーストとベッドの略です。このサイトは、とてもよくできていて、世界中にスペースを持て余している人が登録している賃貸情報サイトです。行きたい場所を入れれば、ズラッと価格と部屋の様子がみつかります。

アーティストインレジデンスだからと、英語で企画書をつくりメールして返事を待ち、ようやく審査が通ったと思った場所は、実はairbnbで一般に募集していました。ですので、誰でも利用できる場所だったのです。

ここは、バルセロナの中心から電車で15分のNAVASという駅で、そこから徒歩で5分、観光では絶対に来ることはない住宅街でした。それでも、地中海のビーチまで徒歩40分。しかも、ここには、ヌーディストビーチがあります。老人も男も女もみんな裸です。しかし、エロさがないのです。生まれたままの姿で、分け隔てなく海を楽しむ特別な空間でした。

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世界中からクリエイターが集まる倉庫地帯

そんな立地にあるバルセロナのレジデンスNAU1は、倉庫をリノベーションした工房でした。その2階に宿泊するスペースが1部屋ありました。

アイルランドから2006年に単身でバルセロナにやってきたアーティストの通称マークは、この倉庫地帯をみつけて、賃貸契約をしたそうです。ペインティング作品をつくりながら、廃材を拾ってきては、空間を改造して現在の状態にしたそうです。お金を使わずにつくりあげたスペースに、今では、洋服デザイナー、映像の美術作家、ミュージシャン、芸術家など、5人のクリエイターがシェアして使用しています。

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バルセロナと言えば、サグラダファミリアや美術館が有名ですが、中心地から外れた場所に飛び込んだおかげで、気がつけば、ユニークな職種の人たちが集まる地域に滞在していたのです。
滞在したNAU1の隣は、サーカス団の練習スタジオで、その隣はイタリア人が運営する展示スペースと宿泊施設で、これこそアーティストインレジデンスといった場所でした。ぼくがいたのは6月~8月、夏のハイシーズンでしたので、様々な国の人が夏休みを利用して滞在しにやってきました。こうした人々が集まる環境や空間をつくることも生きる技術=生きる芸術だと言えるのではないでしょうか?

アイルランドの伝統的なボート「カラック」

NAU1の最大の魅力は、通称マークが自作するアイルランドのカラックと呼ばれる伝統的なボートでした。マークは、ヌーディストビーチの傍にある海の家に自分のボートを置いていました。ぼくらが滞在して1週間ぐらいすると、ボートに乗るか? と誘ってくれました。それをきっかけに、海を自分たちのチカラで走るこのスポーツにすっかりハマってしまいました。週に3回はカラックを漕ぎました。また、ボートで沿岸を数時間漕ぎ続ける冒険をして、キャンプした日もありました。

自然を利用して遊べば、お金はまったくかかりません。また、自分を動かすこと、限界を超えていくというスポーツの魅力を再発見することもできました。

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人と出会うことで広がるネットワーク

正直、何があるのか、よくわからないまま滞在生活がスタートしたのですが、そこでの出会いこそが財産でした。つまり、お互いの人生を共有することが、未だ知らない世界の扉をいくつも開いてくれました。おかげで、これからもバルセロナに訪れることになると思いますし、この経験を通じてハッキリ分かったことがあります。

有名な魂のない場所を目的地にするのではなく、無名な魂との出会いを求めて、旅をすれば、その出会いはリアルなネットワークになることです。Facebookやtwitterやメールを通じてコミュニケーションするように、現実に、人と人が出会うことは、今でも重要です。ぜひ、みなさんも未来の友達を探してみてください。いまと違う環境に飛び込めば、きっと日本中に世界中に待っているはずです。

次は、電気・ガス・水道なしだったザンビアでの生活の話をしてみたいと思っています。ご意見・質問・感想などありましたら気軽にコンタクトしてください。