第1回:“ロングライフデザイン”をショップで学ぶ(前編)|未来をつくるマナビゴト
初めまして。蜂谷智子と申します。普段は教育系の出版社で編集やPRをしている者です。このコラム「未来をつくるマナビゴト」では、日本各地で行われているワークショップやセミナーなどを切り口に、未来の暮らしを豊かにするヒントを探ります。どうぞよろしくお願いします! マナビゴトというと、堅苦しい感じがするかもしれません。でも、机上の勉強だけでなく、人との出会いや、新しい分野への挑戦にも学びがありますよね。この大きな意味で学びを得る体験を、ここでは「マナビゴト」と呼んで追求していきたいのです。
新しいマナビゴトの波が、未来を運ぶ?
何かが始まる際には多かれ少なかれ学びの時間があるもの。ということは、現在進行形のマナビゴトを知ることは、未来の暮らしを知ることにつながるのではないでしょうか。
私はここ数年、日本各地のワークショップや勉強会の取り組みを取材してきました。今ではそこで出合ったマナビゴトが発展して、仕事が生まれたり、新たなライフスタイルとして定着したりしています。そんないくつもの例を知り、新しいマナビゴトの波を感じているのです。
一方で、実は私自身が、マナビゴトによって新しい生活を手に入れたいタイミングでもあります。昨年娘が産まれて、以前よりも暮らしのことや、この国の未来が気になるように。日本のどこに暮らしても人々がハッピーでいられる。土地や人とちょうど良い距離感でつながっていられる。そんな未来を求めて、いろんな土地を訪れ、人と出会いたくなりました。
とはいえサラリーマン生活では、新たなライフスタイルの模索は難しい……! その点でも活用したいのが新たな世界を体験できるマナビゴト。仕事をしながら無理なく参加できるのが魅力です。皆さんも注目のマナビゴトの内容や主催者の思いを知り、時には自ら参加してみることで、未来の暮らしに一歩踏み出しませんか?
「ロングライフデザイン」をショップで学ぶ
「ロングライフデザイン」という言葉をご存知ですか? 流行に左右されず、長く使い続けられる普遍的なデザインを指す言葉で、グッドデザイン賞の中にその部門があるなど、日本のデザインを語るうえでひとつのキーワードとなっています。
コラム第1回目としてご紹介するD&DEPARTMENTは、この「ロングライフデザイン」を発信するコンセプトショップ。現在直営店3店舗(東京店、大阪店、福岡店)、各地のパートナー企業によって運営される提携店6店舗のショップやレストランを軸に、出版や展覧会の企画運営も行うなど、活動に大きな広がりを見せています。そのひとつとしてマナビゴトがあり、「d SCHOOL」として各店舗で不定期に開催されているのです。
D&DEPARTMENTは、日本のメーカーの定番商品を復刻再販売する「60VISION」や、日本をデザインの視点で旅するトラベルガイド「d design travel」の出版など、「ロングライフデザイン」の視点からプロダクトや土地をとらえ直すプロジェクトを実行している希有なお店。渋谷ヒカリエ8階にスペースを構える「d47 MUSEUM」を訪れたことがある方も多いのでは?
「ロングライフデザイン」という視点でライフスタイルを見直してみたら、きっと新しい発見があるはず! そんな思いで4月19日にD&DEPARTMENT東京店で行われた「d SCHOOL 松野屋に学ぶ 暮らしの道具」のレクチャーに伺いました。
・「d SCHOOL」のプログラムは、雑貨やインテリア、食や芸術に関してなど多彩。プログラムはD&DEPARTMENTの各店舗のページに随時掲載されるのでチェックしてみてくださいね。
D&DEPARTMENT
日本全国から「用の美」を備えた日用品を集める
松野屋は東京の卸問屋さん。暮らしの道具をテーマにさまざまな荒物雑貨を扱っています。レクチャーでは松野屋の店主松野弘さんが、ご自身が荒物雑貨を扱うようになった経緯や、全国から集めている商品を買い付ける際のエピソードをひもときながら、素朴で使い勝手の良い荒物の魅力についてお話しされました。
「70年代にあった『Made in USA』というカタログ雑誌を通じてL.L.BeanやEddie Bauer、North Faceなどのブランドを知り、夢中になりました。いわゆるヘヴィーデューティですね。アメリカの、荒っぽいけれど丈夫に作られていて格好良い品。それは日本で柳宗悦の起こした民芸運動で提唱されている『用の美』に通じるものがあります。名も無き工人が作った、使ってこそ格好良い物。だから僕はヘヴィーデューティも民芸も大好きです」
民芸運動とは大正15年から続く、日本独自の運動。暮らしの中で使われてきた手仕事による日用品に「用の美」を見いだし、活用することを提唱しています。若い松野さんは、アメリカのヘヴィーデューティにある日常服ならではの格好良さを、日本の民芸運動にリンクさせ、松野屋のセレクトに反映させました。
「民芸すなわち民衆的工芸があるならば、民衆的手工業があってもいいのではないか」
そう思った松野さんは、日本全国の町工場などの生産者をめぐり、激しい使用に耐え、用の美を備えた日用品を探し集めたのです。折しも松野さんが松野屋を受け継いだ1980年代は雑貨ブーム。元々鞄問屋だった松野屋は生活雑貨の荒物問屋へと事業を展開していきます。
自然食品ならぬ自然商品。作り手の顔の見える商品を。
「当時はコンピューターなんて使いませんから、面白いものを見つけたいと思ったら、雑誌やテレビで手がかりをつけて、東京駅の隣の県事務所に行くんです*。そこで各地域の生産者のことを教えてくれるので、実際に自分でその場所に行って買い付けていました」
*現在は千代田区の都道府県会館内に各県の事務所があります。
足を使って仕入れ先を探す松野さんのスタイルは今も変わらず、松野屋の荒物雑貨は今も全国各地、顔の見える生産者から買い付けられています。
「自然食品ってあるでしょ。あれと同じように、生産者の顔が見える、安心して使える自然商品があってもいいと思うんです。工芸品のように芸術性が高くなく、かといってプラスチックの大量生産でもない、作り手の顔が見える日用品。それが松野屋の荒物雑貨です」
栃木のお婆さんが丁寧に編んだ箒で掃除をし、下町の工場の親父さんが熟練の技で作ったトタンの米びつからお米をすくう。各地から集めた手仕事の温もりのある日用品を、生活のなかで使い込んでいくこと。すっと背筋が伸びる暮らしが、そこにはあります。
松野屋さんの商品に対するこだわりや、生産者と向き合う誠実さは、今回のマナビゴトを「d SCHOOL」として企画しているD&DEPARTMENTの姿勢とも、つながっているようです。次回は「d SCHOOL」を運営するD&DEPARTMENTの、東京店店長の阿部さんにお話をうかがいます!
・松野さんが各地から買い付けた作り手の顔が見える荒物雑貨。ウェブサイトではその紹介を見ることができます。
暮らしの道具 松野屋