第3回:帰国子女、未来の農業「アクアポニックス」にヨルダンの砂漠で出会う|脱線帰国子女、農を求む

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とってもかわいいテントたち

砂漠の真ん中で野菜と魚が同時に育っているなんて、本当に驚きでした。しかも、毎日のメンテは魚のエサやりと簡単な状態チェックのみ。土を耕す必要もないのです。

YADOKARI読者のみなさま、「脱線帰国子女、農を求む」を連載中の江里でございます。第1回目では僕の簡単な経歴を、第2回目ではタイでの農業ボランティアについて書きました。そして第3回目の内容は、ヨルダンで出会った未来の農業「アクアポニックス」について。

魚と野菜を同時に生産、規模が自由自在、循環が大幅な節水につながるなどの理由で、すでにアメリカやオーストラリアなどでは”未来の農業”として注目されていますが、日本での知名度はまだまだ。

もしかしたら20年後には従来の農業と入れ替わっているかもしれない、そんな未知なる可能性をひめた農法について、この記事で少しでもお伝えすることができれば嬉しいです。

巨大な岩山が並ぶ乾燥地帯

農場があったのは、ヨルダン南部の宿泊施設「BAIT ALI」の敷地内。僕がここを訪れた当時(2012年9月)は農場の完成から2ヵ月が経過していて、やっと形になってきたところでのお披露目ということでした。

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宿泊施設「BAIT ALI」のエントランス

「ヨルダン南部」と言われてもうまく想像できない人のために簡単に説明すると、周囲は見渡す限りが砂地(砂漠)。標高1000mを超える岩山が周囲を囲むように並び、そこをてくてくとラクダが時々歩いているような場所です。 ここ一帯の地域は「ワディ・ラム」と呼ばれ、映画『アラビアのロレンス』『トランスフォーマー/リベンジ』などの撮影場所としても有名です。 ということで、さっそく農場へ。こんな乾燥地帯で本当に野菜や魚が育っているのでしょうか。気持ちのいい青空の下、参加者と一緒に歩いて目指します。(10分くらいの距離でした)

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いざ、アクアポニックス農場へ!

 

魚と野菜を同時に栽培する”アクアポニックス”

歩いた先にあったのは、ビニールハウスほどの大きさの農場。ここで農場のオーナーによる説明が1時間ほど行われました。

砂漠のど真ん中にあったアクアポニックス農場.jpg
砂漠にぽつんとあった農場

中に入るとさっそく目に入ったのが、システム全体に張り巡らされたパイプの数々。手前にはレタスやイチゴなどの作物、奥には魚が泳ぐ大きなタンクが2つ並んでいました。

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農場の内部

必要な水は近くの井戸から引っ張ってきているようでしたが、システム自体は水を再利用する循環型。魚が汚したタンク内の水がパイプを通して植物に運ばれ、いくつかのエリアを経て最終的に水が浄化し、またタンクに戻されます。

真ん中を通るパイプ.jpg
システムの中心を通るパイプ

 

泳いでいた魚は、ティラピア

タンク内を泳いでいたのは、”ティラピア”と呼ばれる淡水魚。食用魚としていまは様々な国に流通しているそうですが、僕は初めて聞く名前でした。

ティラピアが泳ぐタンク.jpg
ティラピアが泳いでいたタンク

日本でも外来種として生息しており、鹿児島などの九州エリアで見られることも。適温は25℃〜30℃と温かい環境を好み、これさえ気をつければ比較的簡単に繁殖するようです。

水槽で泳ぐティラピア.jpg
タンク内で泳ぐティラピア

 

土を使わない農法”水耕栽培”

冒頭で「土を耕す必要がない」と書いたのは、この農法を利用しているから。水を利用して植物を育てることで、従来の”農地”という概念を広げています。タンクと水があれば、物理的にはどんな場所でも”農地”にできてしまうのです。

レタスが育つスペースを持ち上げる農園のオーナー.jpg
システムの説明をするオーナーのスージーさん(中心)

このユニークな農法に新しい息吹を与えるのが、アクアポニックスです。従来の水耕栽培では液体上の肥料(液肥)を別途投入する必要がありましたが、それを魚のフンで代用しています。

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たくさん育っていたレタス

野菜の栽培に使われていたのは、火山岩。細かい穴があいたこの岩がバクテリアの住処となり、魚のタンクから流れてきた水を分解し、植物が栄養として吸収できる物質(硝酸塩)に変化させます。

害虫対策で植えられていたマリーゴールドとバジル.jpg
害虫対策で植えられていたマリーゴールド(左)とバジル(右)

イチゴも栽培されており、これはパイプに切れ込みを入れたような容器で育っていました。横だけではなく、縦の立体スペースも活用している点が新しかったです。 筒状のイチゴ栽培器 農場の設置にかかった費用を聞いてみると、日本円で30万円弱とのこと。一番高かったのは、水を循環させる大型の水中ポンプと配管用パイプ。他は知り合いからもらったり、再利用したりして節約したそう。

アクアポニックスの可能性

“アクアポニックス”という単語の由来は、水産養殖(Aquaculture)と水耕栽培(Hydroponics)。ふたつの要素をうまく掛け合わせることで誕生しました。なので、ゼロから生まれた農法ではありません。

このような砂漠地帯で展開されていることから「節水できる」というメリットは十分に感じられますし、さらには”循環型”ということで教育面でも威力を発揮しそうです。 まるで、”小さな生態系”を管理しているような感覚です。

実際、アメリカではすでに様々な学校で導入されているようです。(参考資料
ヨルダンのアクアポニックス農場

水族館で働くことを夢見た過去

この農法を知って「自分がやりたいことはこれだ!」と感じたのは、僕に水族館で働くことを夢見た過去があったから。 そのために専門学校に2年間通い、最終的には働かなかったものの、好きな気持ちに変わりはありませんでした。

だから、魚を取り入れたこの農法に異常に惹かれたのです。 旅から帰国後は、自宅の窓際を使ってシステムを自作、今年4月には新しく菜園WEBマガジンを立ち上げ、ここでアクアポニックスに関する記事も書いています。

家庭用ビオトープ | おうち菜園

まだまだ日本では知られていないこの農法を、僕なりにこれから伝えていこうと思っています。なので、興味のある人はお気軽に連絡ください。

すでに実践されている人もたくさんいるはずなので、そうした方々にもどんどん会いにいこうと思っています。

そうそう、この農地を見学した後はイスラエルに2ヵ月半滞在し、農業を勉強しました。

ということで次回は、ここでの日々について書いていきます。けっこう濃い内容になりそうです。