【動画&レポート】桃源郷の快感。李子柒（リー・ズーチー）の暮らし「美」映像が世界を魅了する
四川省の山奥の農村から、中国伝統文化の暮らし映像を発信するビデオブロガー・李子柒（リー・ズーチー）のYouTubeが世界的に大人気となっています。視聴者の脳に快感をもたらす映像美と音、田舎の牧歌的な生活風景は、日常のストレスを忘れさせてくれます。四季を通じて撮影された映像は、まるで映画を観ているかのよう。さあ、ズーチーの桃源郷を一緒に訪れてみましょう。
寒い冬の日に、生姜を使った料理でポカポカになろうという動画。収穫の音、水の音、石臼の音、包丁や油の音、ヤギの鳴き声などがASMR的な快感をもたらします。猫も登場。
YouTubeチャンネル登録者数996万人（2020年4月現在）を誇るズーチーの動画は、一般的なVloggerの、日々の暮らしの断片を切り取ったビデオとは随分違います。中国の農村の伝統的な暮らしの文化に焦点を当て、調理動画では、使う作物の種まきから収穫までを追っています。移ろいゆく季節と森や山の景色の変化が挿入され、自給自足のスローライフが展開していきます。「米は木になっている」と思っていた都会の学生に衝撃を受けた彼女は、食べ物がどこからやって来るのかを動画のテーマにしたいと決心したとのこと。
視聴回数1800万回超えの人気ビデオ。時代劇を思わせるオープニングからDIY調理が展開されます。非常に美しい映像と、小気味の良いリズミカルな編集が素晴らしい作品です。ズーチーのカンフー的な手技と家畜の動物たちの鳴き声がユーモラス。
1990年に生まれたズーチーは、幼くして両親が離婚し、父親が死んだあとは祖父母に育てられました。14歳で都会に働きに出て、ウェイトレスやクラブDJ、レジデントシンガーとしてお金を稼いでいました。2012年に祖母が病気になり、介護をするために故郷に戻り、ECモールに地元の農産物を販売するショップを開設。プロモーションのためにショートビデオの撮影を始めます。
ECモールの売り上げは全然上がらず、ショップを閉鎖したズーチーは、2015年に中国伝統文化にフォーカスした暮らし映像の制作を始めます。翌2016年に、新浪微博（Weibo）に投稿したビデオがブレークし、李子柒は一気に有名人となりました。
2017年にYouTubeにアップされたズーチー初期の人気ビデオ。この頃は三脚を使って一眼レフで撮影し、セッティングや編集をすべて彼女一人で行っていました。
2017年に中国国内で、「ズーチーはプロフェッショナルチームがフィーチャーした単なる演者じゃないのか」、「彼女は実際の地方の農村生活の現実を無視している」といったバッシングにさらされます。これらのコメントで祖母が傷ついたことから、ズーチーは2017年5月に活動の一時休止を発表。
視聴回数3800万回超えの、ズーチーのDIYビデオの代表作。竹製縁台を信じられない手際の良さでつくっていきます。小さい頃から、亡くなった祖父の調理や工芸を手伝ってきたという彼女。この竹の縁台も、昔おじいさんが愛用していた竹製ベンチのイメージを再現したもの。おじいさんは竹を使った手作り製品を市場に売りに出ていたそうで、彼女はそのDIY技術をいつの間にか身につけていたようです。
活動停止中のズーチーは、一人で動画撮影を行うことの限界と、さらなるクオリティ向上のために、アシスタントとビデオカメラマンをスカウティング。3人体制の制作チームに移行しました。
大豆の種まきから枝豆の収穫、蒸しから醸造を経て自家製醤油をつくります。醤油レシピ料理の調理の音が耳に快感。わさびも採れるのがすごい。ぶっかけ飯がとっても美味しそうで、きゅうりの漬物をかじる音がなんとも言えません。猫も登場。
墨、筆、紙、硯という書道の一式を、すべてDIYで手作りするという中国伝統文化映像。筆づくりでは、なぜか自宅のヤギでなく、遊牧民のヤギから毛をくすねています。毛並みが良かったからでしょうか。最後にズーチーが、剥いだ樹皮を漉いた画仙紙に山水画を描きます。ちなみに、李子柒の「柒」という漢字は「うるし」という意味です。
ズーチーがインフルエンサー（KOL：キー・オピニオン・リーダー）として、マルチチャンネルネットワーク（MCN）のサポートを受けていることは事実です。ただし映像制作のディレクターと編集作業を彼女自身が行っているのは確実なようです。機材の貸し出しや一部の編集、BGM、プロフェッショナルなコーチングを、MCN側がサポートしている可能性はあるかもしれません。
2019年の春節用のお菓子や干し肉をつくるビデオで、視聴回数は5000万回超え。猫耳の石窯がチャーミングです。ちょっかいを出す子犬がかわいい。
ズーチーが赤いマントを羽織って乗馬で登場する衝撃的なオープニング。馬に乗って山岳民族のもとを訪れ、馬乳を手に入れます。馬乳を発酵させ、馬乳酒（クミス）のドブロクを造り、さらにそれを蒸留して蒸留酒に仕上げます。子羊をローストしてみんなで乾杯。アシスタントやカメラマンも参加して、ズーチーの映像には珍しい、笑い声が響く宴会が催されます。感動的に楽しさが伝わるビデオです。
ズーチーは、農村の生活をリアルに描いているのではなく、「わたしの理想の生活をイメージしています」とのこと。食料やモノがどこからどうやって来るのかを知り、「一からつくる」ことにこだわる。誰にも頼らず一人で生きてきた女性の強靭さとしなやかさ、そしてクリエイティブに対する飽くなき探究心が、彼女の映像を魅力的で普遍的なものにしているように思います。
