【特集コラム】第2回:シェア工房や建材のリサイクルセンターから読み取る、ポートランドのDIY

Portland DIY 01
ポートランドとDIY文化を通して「豊かな暮らしとは?」というテーマにフォーカスした今回の特集コラム。前回は、ポートランドがどんな所なのか?についてお話ししました。第2回目の今回は、ポートランドのDIY事情について迫ってみたいと思います。

まず、ポートランドに存在するDIY活動を支援する施設「ADX」が、どういったDIYの取り組み方をしているのか見てみましょう。そして、家に関する物をリサイクルする施設「The Rebuilding Center」 でのリサイクルの仕組にフォーカスしたいと思います。更に、ポートランドから焦点を移し、アメリカのホームセンターや日本とアメリカの家に対しての違いから見える、アメリカ人のDIYについてお話します。

ポートランドのDIYに特化した施設ADX

DIYに特化した施設ADXは、ポートランドのダウンタウンに程近い、ウィラメット川東側に位置します。ADXは、DIYを通して「Tools (道具)、Knowledge (知識)、 Experience (経験)」をシェアしながら、共同で何かを作り上げるということを学ぶ場所です。

DIY02-15ADXの正面
Via: taylorvignali.com

およそ1,300㎡の施設は4つのセクションに分かれていて、それぞれ「Wood Shop」「Metal Shop」「The Bridge」「The Cube」と呼ばれています。
Wood Shopには木工に、そしてMetal Shopには金属加工に必要な電動工具が揃えられています。The Bridgeにはレーザーカッター、3D設計ができるソフトウェア、3Dプリンターなどのハイテク機器が用意されています。2015年に開設されたThe Cubeでは、ジュエリー製作、家具の製作、スクリーンプリンティング (Tシャツなどにデザインしたロゴなどをプリントする手法)など、アート系の作業ができるようになっています。

DIY02-18Via: rochestermakerspace.org

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作りたい物はあるんだけれど、どこから始めたらいいのかわからないという人には、ADXに所属している専門の職員が、初心者にもわかりやすいように手取り足取り教えてくれるそう。これならDIYに挑戦したいという未経験者でも、気軽に始められるのではないでしょうか。

さらにADXでは、先に述べた4つのセクション別にクラスも設けています。木工や金属加工など、それぞれ興味のあるクラスにいつでも自由に参加可能です(ADX会員への割引あり)。また、子供向けのクラスも用意されているので、小さい頃からこういったDIY 作業に直接触れることのできる機会があるのはいいですね。

DIY02-16Via: adxportland.com

今では多くの人達が利用しているADXは、2011年に一人の女性のアイディアから始まりました。創設者のKelley Royさんは、もともと東海岸バージニア州の出身です。大学卒業後に訪れたポートランドに魅了され、それ以来20年以上ポートランドに住んでいるそう。「大自然に囲まれたポートランドに来た途端、恋に落ちたように気に入っちゃったの」そう語るKelleyさんは、豊かな自然に囲まれながらもどこへでも徒歩で行けるポートランドという街が、人と人との距離を身近に感じることができ、「故郷に帰ったような気分にさせてくれる」居心地の良い場所だと話しています。

そんな緑の多いポートランドは、多くのアーティストが集まる場所でもあります。そこでKelleyさんは、「DIYの道具、場所、それにDIYの知識をシェアできる空間を提供できないか」という想いから、ADXを設立するに至りました。

DIY02-19Via: rochestermakerspace.org

今ではADXはアーティストだけではなく、デザイナー、趣味としてのDIYを楽しむ人々、起業家など、たくさんの人達に利用されています。また、設立以来、何百ものポートランドのビジネスやプロジェクトなどをサポートし続け、ポートランドにおけるDIYの確たる位置付けに貢献してきました。ADXはこれからも、DIYを通して人と人が多くのものをシェアできる空間として成長を続けていくのでしょう。

建材のリサイクルと、人との結びつきを大切にするThe Rebuilding Center

ADXのようにDIYに特化した施設があるように、家に関する物のリサイクルを目的とした施設「The Rebuilding Center」もポートランドに存在します。このThe Rebuilding Centerは、これまでにもアメリカ国内だけではなく、日本のメディアにも度々取り上げられてきました。さて、このリサイクル施設はどうしてこんなにも人々の注目を集めるのでしょうか。

DIY02-10特集コラム「アップサイクル」でも紹介されたThe Rebuilding Center
Via: yadokari.net

ボランティアベースのThe Rebuilding Centerは、ポートランドのコミュニティーを保存するための施設Our United Villages (OUV)の一環として、1998年に設立されました。OUVは、ポートランドをたくさんの人々が集まることのできるコミュニティーにすること、そして、コミュニティー作りから学ぶ、人と人とのつながりを目的とした施設です。OUVは、この20年近くの間に多くのコミュニティー作りに関わり、その功績から数々の賞を受賞しています。

DIY02-11よく見ると、建物の窓は全部、リサイクルされた物を取り付けてあります
Via: younghouselove.com

The Rebuilding Centerは、OUVに隣接された約5,000㎡もの大きさのリサイクル施設です。施設内には、廃品回収や寄付によって集まった、家に関するリサイクル品が所狭しと並べられています。扱っているのは、シンク、ドア、窓、木材など、家に必要な資材なら何でも扱っています。「手頃な値段で家を修理できるように」というのが、The Rebuilding Centerの基本哲学なのです。

DIY02-13照明のセクション
Via: renters.apartments.com

DIY02-14こちらにはドアが集められています
Via: renters.apartments.com

また、The Rebuilding Centerでは、DeConstruction Servicesというサービスも行っています。DeConstruction Servicesは、使用していない建物を解体するサービスで、一つ一つ手作業で建物を解体していきます。この解体で出た85%の資材を回収し、The Rebuilding Centerで再利用することができるそうです。建物の9割近くの資材が再利用可能というのは驚きですね。

そして、2014年の冬には、The Rebuilding Centerに新しいプログラムを設けました。それはReFind Educationというもので、このプログラムでは、木工、金属加工、家の修繕修理やコミュニティー作りに関することが学べるクラスを提供しています。

DIY02-12クラスで仕上げた物を披露する参加者達
Via: rebuildingcenter.org

The Rebuilding Centerは、単に、家に関するリサイクル品を提供するだけではなく、古い家から出る資材を無駄にすることなく最大限に活用し、更に個人単位からコミュニティー単位への人と人との結びつきを大切にした施設と言えるのではないでしょうか。

日本とアメリカの「家」に対しての認識の違い

それでは、ポートランドから日本とアメリカの家の違いに話を移し、そこから見えるDIYへのつながりをお話しましょう。日本では、The Rebuilding Centerのように、家の資材をリサイクルするという発想はあまり馴染みないかもしれません。それは、日本とアメリカの家に違いがあるからです。

誰にとっても「家を買う」というのは一生の買い物です。それは日本でもアメリカでも同じです。ただアメリカでは、日本のように新築の家を建てている光景をあまり見かけません。経済的に上向きな都市では新興住宅地が拡大していますが、一般的にアメリカでは、日本のように土地を購入してそこに新しい家を建てるよりも、中古住宅を購入する人のほうが圧倒的に多いからです。トルネードやハリケーンなどの自然災害があっても日本と違って大きな地震が少ないというのが、中古でも建てた家が長く保つ理由の一つなのかもしれません。

DIY02-02多くのアメリカ人にとって、家の改装や修理をすることは楽しみの一つでもあります
Via: ajc.com

さて、中古住宅を購入すると困るのが家の修繕や修理です。大きな修理なら専門の業者に依頼するのが一般的ですが、大抵のアメリカ人は、小さな修繕修理なら自分達でやることがほとんどです。家の改装もそうです。タイル貼りから壁のペンキ塗り、水周りの修理や床の張り替えなど、自分達でやったほうが好きにできるし、何より安く済むからです。

アメリカの大型ホームセンター「Lowe’s」と「The Home Depot」

そんなアメリカ人がよく行くホームセンターは、「Lowe’s」と「The Home Depot」。どちらもアメリカ国内どこにでもある大型ホームセンターで、どの店舗も日本で有名なコストコのような倉庫ばりの大きさです。
Lowe’sとThe Home Depotは、どちらに行っても品揃えがほぼ同じ。ガーデニング関連の商品から電化製品、バスルームに関する品物やペンキ類、プレカットされた木材や目的別に必要な電動工具など、DIYに関した物ならなんでも揃えてあります。

DIY02-04青が基調のLowe’s
Via: charlotteobserver.com

DIY02-05The Home Depotはオレンジがテーマカラーです
Via: wikipedia.org

それに両店共、勤務している店員が知識豊富なので、販売している商品についてはもちろんのこと、水回りの配管の取り付け方やフェンスの種類から設置の仕方など、DIYのことなら何でも教えてくれるので助かります。
商品を間違って購入してしまったり多く買いすぎてしまったりした場合は、レシートさえあれば返品交換可能(両店共に90日以内まで)なので、うっかり間違った商品を買ってしまった!というときには気軽に返品交換ができるので助かります。

DIY02-06Via: fox8.com

DIY02-07Via: zimbio.com

アメリカにDIY天国のようなLowe’sやThe Home Depotがあるように、日本では関東であれば、大型ホームセンター「スーパービバホーム 豊洲店」や「ジョイフル本田」などが有名です。このような日本の大型ホームセンターはDIY関連の商品だけではなく、レストラン、ペットショップ、それに文房具から日用品まで揃うので、ちょっとしたショッピングモールのような感じですね。そこが、DIY関連のみの商品を扱うアメリカのホームセンターとの違う点なのではないでしょうか。

DIY02-09Via: zimbio.com

そういった点から、ポートランドでDIYが盛んなのは、アメリカ人にDIY文化が根付いているからだと言えると思います。最近はどこも車社会なので、人と人とのつながりが気薄になりがちです。逆にポートランドは、徒歩で様々な施設に行くことができるという利点から、他の都市に住んでいる人よりも、自分達の住むコミュニティーに視線を向けることができるのでしょう。
やはり、ADXとThe Rebuilding Centerを例に取れば、人とのつながりを通して学ぶコミュニティー作りに焦点を置いています。このように、たくさんの人達が集まり、一緒に何かを作り上げるという共同作業から学ぶことも多いのではないでしょうか。

アメリカとポートランドのDIYについて、いかがだったでしょうか。次回の第3回目は、ポートランドのクラフト文化とその活動に迫ってみたいと思います。

Via:
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