【特集コラム】第3回:ポートランドのアートと、手作り雑誌「Zine」文化
ポートランドとDIY文化を通して「豊かな暮らしとは?」というテーマにフォーカスした今回の特集コラム。前回は、ポートランドでのDIYやリサイクル活動と、アメリカ人のDIYへの取り組みについてお話しました。第3回目の今回は、おなじDIYでもアートのDIY、ポートランドのアート文化にフォーカスしていきたいと思います。
皆さんご存知のように、アートと言っても色々種類があり、芸術的価値のあるアート作品を手がけるアーティストから、手芸関係を中心に制作するクラフターまで、多岐に渡ります。その他にも、作家や詩人など、自分で執筆して出版するクリエーターもたくさん存在します。
上記のようなアーティストの活動は、大都市ではさほど珍しくないかもしれません。大都市であれば、アーティスト関連のイベントも盛んですし、アーティストのコミュニティーも活発だからです。それがアメリカでは、そのような大都市から多くのアーティスト達がポートランドに移住していきました。
ポートランドにアート文化が根付いたのは何故なのか、そして、彼らにとってポートランドは、どのような存在なのか見てみましょう。
Via: craftywonderland.com
ポートランドとアーティストの関係
これまでに、ニューヨークやロサンゼルスなどの大都市在住のアーティストやクラフター達が、こぞってポートランドへ移住しました。それはやはり、大都市は競争率も物価も高いので、生活とアート活動の両立が難しくなったためです。そういった点で比較的物価の安いポートランドは、大都市から移住したアーティスト達にとって活動がしやすい街だと言えるでしょう。
Via: craftywonderland.com
さらに、以前にもご紹介したように、ポートランドは人と人との距離が近い街です。ポートランド市内、徒歩でどこへでも行ける距離のお陰もあって、1年を通してアート展やクラフト展が開催されています。それに、アーティストやクラフターのコミュニティー活動も活発なため、彼らの関係も密になっています。
1900年前半に、アートやクラフト系の共同体が形成され始めたポートランドは、時代が移り変わると同時に、伝統的な技術と独創的な手法を組み合わせた、新しい時代の「クラフトマンシップ」ができあがってきました。そこへ近代に入ると、ハンドメイドやヴィンテージ商品を売買するウェブサイト「Etsy」の急成長もあり、ホームベースで活動していたアーティストやクラフターの活動もぐんと伸びてきました。
第2回目でご紹介したポートランドのシェア工房「ADX」でも、木工や金属加工のみの一般的なDIY用だけでなく、ジュエリーや家具の製作もできるスペースを設けるなどして、アーティスト達の支援をしています。
カリフォルニア州からポートランドへ移住したクラフター、Marika Pazさんの作品
Via: marikapaz.com
MarikaさんはEtsyにもショップを持っています
Via: marikapaz.com
ポートランドとZine文化
ポートランドのアート活動の中に「Zine」というものがあります。日本ではまだ珍しい「Zine」とは、一体何なのでしょうか。
Zineは、「Magazine (雑誌)」の最後の部分「zine」から名付けられたもので、一般的に、アマチュアの作家、詩人、写真家などのクリエーターが自費出版する小冊子のことです。
Via: buttonsandtwine.wordpress.com
初めてアメリカでZineという言葉が使われたのは1946年。最初はサイエンスフィクション系の出版にとどまっていたZineですが、時代の流れと共に、サイエンスフィクションにこだわらず、今では様々な分野のZineが出版されています。
毎年ポートランドでは、Portland Zine Symposiumという、自分で製作したZineを販売する展示会が開催されます。クリエーター達は自分のZineを販売するだけでなく、そこで共通の仲間同士でコネクションを作ったり、意見交換をしたりと、普段関われない人達との交流の場にもなります。
Via: heatherkaismith.com
Via: printeresting.org
他にも、1998年に「Independent Publishing Resource Center (通称 IPRC)」というZineを支援する非営利団体の施設がオープンし、20年近くもの間、たくさんのZineクリエーターをサポートしてきました。
IPRCが力を入れているのは、「Zineを通して多くの人と情報交換できる場所と道具を提供すること」です。小冊子だけではなく、アートワーク、小説、コミック、ウェブサイトやグラフィックデザインと、創作できるものであれば何でもOK。自分のアイディアを一冊の小冊子やコンピューター上で表現できるのは、まさにアートのDIYなのではないでしょうか。
IPRCでは、Zine関連のクラスが月に何種類も用意され、Zine初心者にもわかりやすく丁寧に教えてくれるようです。また、グラフィックデザインのクラスでは、AdobeのPhotoshop、Illustrator、InDesignなどのプログラムのクラスも用意されており、デジタルメディアに興味のある人向けです。
Via: wemakepdx.com
Via: wemakepdx.com
また、製本に必要な道具なども貸し出してくれるので、自分で小冊子を製作する道具を買う必要はありません。(道具を使用する際は、別途料金がかかります)。使えるものは、小冊子を製作する道具の他、スクリーンプリンティング、レタープレスプリント専用の道具もあるので、世界で一つしかない、オリジナルの小冊子が作れそうです。
IPRCの作業場の一部
Via: wikimedia.org
最近は、電子書籍の普及により、紙媒体の雑誌や本は需要が少なくなってきました。それでもこういったZineやアート文化は、もはやポートランドの一部になっていて、手にとって触れる喜びや作り手の思いを表現できる場を提供してくれているのです。更に時代に合わせて、より多くの人に自分の作品を見てもらう為に、Zineを含めたアート文化がマルチメディアに対応しているところも忘れてはならない部分です。
DIYで作る物の大小に関わらず、「自分で何かを作り上げる」ということは楽しいもの。その工程だけでなく、自分で素材から選んで一つの物を完成させることでは、既製品とは違った思い入れも生まれるのではないでしょうか。
今回のポートランドに存在するアートのDIYについての記事はいかがだったでしょうか。次回の第4回目は、ポートランドのクラフトビールを中心に、食のDIYについてお話したいと思います。