【特集コラム】国も自分たちで創り上げる挑戦者たち|オランダとタイニーハウス
「未来住まい方会議」をご覧のみなさま、こんにちは。オランダ在住ライターの倉田直子と申します。
あまり知られていないかもしれませんが、オランダはタイニーハウスやモバイルハウスに関してとても積極的に取り組んでいる国の一つ。1980年代にはすでにタイニーハウスやモバイルハウスのムーブメントが始まっていたほどです。
この連載ではオランダのタイニーハウスやモバイルハウス事情についてお話をしていきます。今回はまず「オランダってこういう国なんだよ」というオランダについての予備知識からご紹介しますね。オランダの風土、人の気質を知っていただいてからのほうが、タイニーハウスに対する取り組みを深く楽しんでいただけると思います。
風車から始まる自然エネルギー
今も昔も、オランダ人の生活に欠かせない風車。オランダの風車は、干拓の歴史と強く結びついています。
もともとオランダの大地は、海水面から1mから2m程度しか出ていない湿地帯でした。11〜13世紀頃の人々が、湿地帯の周囲に堤防を築き、排水し、農耕が可能な土地につくり変えていったのです。その排水に活用されたのが風車です。風力を使って堤防内から水をくみ上げていったのです(ちなみに干拓事業自体は形を変えて現在も続いています)。
この干拓と堤防を維持するためには全国民の協力が不可欠。その結果、オランダでは階級を越えて話し合いを重視する気質が生まれたと言われています。労使協調やワークシェアリングといったオランダ独特の政治・経済システムも、この国づくりの経緯とつながっているのです。
これはオランダの海岸で撮影したものです。ここもおそらく埋め立てられた砂浜なのでしょう。ひたすら平らで、海が出現したのちにまた砂浜が現れるという干潟の様相を呈しています。
干拓に利用された風車は、製粉や羊毛圧縮など工業分野でも活用されるようになり、最盛期には全土で1万基以上あったのだとか。現在は1000基ほどに減少してしまったそうですが、風の力を利用してきたオランダ人は、現在でも別の形でその恩恵にあずかっています。
そう、風力発電です。現在オランダでは陸上・海上合わせて約2000基の風力発電用風車が稼働しています。政府の支援策やグリーン料金の普及により、2003年以降急速にその存在感を増し、現在では全発電電力量の約5%程を占めていると言われています。2014年のデータによると、風力発電での総発電量は2805メガワット(MW)ですが、オランダ政府はさらに高い目標を掲げ、2020年までに風力発電量を6000MWまで増やそうとしています。
自転車天国オランダ
そして、再生可能エネルギーのもう一翼を担う太陽光発電。最近では、アムステルダム郊外の街で「自転車専用路にソーラーパネルを埋め込む」という実験が話題を呼びました。[protected]
2014年秋に自転車専用路の区間70m分に埋め込まれた発電機は、調査開始から6か月で毎時3000キロワット(kwh)発電することに成功したのだとか。これは一人暮らしの家庭の1年分の電気がまかなえるくらいの電気量なのだそうです。
しかし、この「自転車専用道路にソーラーパネルを埋めてみよう」という発想そのものが、オランダが自転車と深いかかわりがあるからではないかと私は思っています。
オランダ人の自転車普及率は100%で、1人2台所有も珍しくないほど。そのため、オランダ国内の自電車専用道普及率はとても高いです。車道を色分けしたレーンと合わせると、舗装された道には自動車のためのスペースが整備されていることが非常に多いです。
街中には、赤ちゃんを乗せられるようなベビーカー一体型自転車や、子供が快適に過ごせる箱型自転車等もあふれています。
オランダ人の自転車愛は、ロイヤルファミリーも例外ではありません。ウィルヘルム・アレクサンダー国王の長女カタリナ・アマリア王女が2015年に中学校に入学した際、自転車で通学していることが話題になりました。
王女が乗るなら、もちろんお父さんである国王だって自転車に乗ります。このようにオランダでは庶民から王室まで、自転車を通してライフスタイルを共有しているんです。
「まずは、やってみる」チャレンジする国民性
このように、国土を干拓によって広げたり、自転車道路にソーラーパネルを敷きつめたりと、オランダ人はとてもチャレンジ精神にあふれていると感じます。
実はそれ以外にも、最近ではアムステルダムの運河にかかる橋を3Dプリンターで作ってしまったり、ロッテルダムでは「水上に森を作ろう」という計画を実行したりと、「まずは、やってみる」という姿勢が一貫しているのです。突拍子もなく見える計画も、成功するか失敗するかなんて試してみないと分からないということなんでしょう。
そして最近では、オランダ第4の都市ユトレヒトで「ベーシックインカム」(basic income)という制度を実験的に導入したことで、他国からの注目を集めました。
ベーシックインカムとは、政府が国民に対して「最低限の生活を送るのに必要とされている額の現金」を定期的に支給するという制度のこと。生活保護や失業保険といった形態での生活費支給は日本を含む多くの国で実施されていますが、ベーシックインカムはそういった個別対策的な保証ではなく、国民全体に最低限度の生活を営める収入を補償することを目的としています。
ベーシックインカムの対象者は、現段階で生活保護のような福祉サービス受給者に限られています。対象者300人をいくつかのグループに分け、あるグループには基本所得の900ユーロから1300ユーロを無条件で支給し、その他のグループには、さまざまな規則や条件で分けて支給されるそうです。
ベーシックインカムの問題点として指摘されるのが「国民の労働意欲が下がる、働かなくなる」「経済が停滞する」という予測。けれど、ここでもオランダの実験担当者は「やってみなければ分からない」という精神でこの実験導入に臨んでいます。「求職者も、性急に意にそぐわない仕事に就かなくてよくなる」「育児休暇を長く取得できる」というプラスの効果も予測されるため、どうなるかは実験してみるまで分からないというのです。
2015年のデータによると、ユトレヒトの賃貸物件の1か月平均賃料は1㎡あたり15.06ユーロ、物件平均1349ユーロだと言われているので、ベーシックインカムによって家賃の心配がなくなる人は増えそうですね。
オランダ全土で導入されるかどうかに至るまでには慎重な検討が必要だとは思いますが、持ち前のチャレンジ精神で現状を打開してほしいですね。
次回は、こんなチャレンジ精神旺盛で超実践的な国オランダのタイニーハウスに対する取り組みの歴史についてお話ししたいと思います。[/protected]
Via:
aljazeera.com
solaroad.nl
mic.com
holland.com
qz.com
theguardian.com
forbes.com