【特集コラム】ムーブメントの未来を映すコンテスト「Bouw Expo Tiny Housing」|オランダとタイニーハウス

(c)Naoko Kurata
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みなさま、こんにちは。「オランダとタイニーハウス」連載の4回目です。これまでオランダの国の成り立ちからタイニーハウス・ムーブメントの過去と現在について書いてきましたが、今回はオランダにおけるムーブメントが今後進む方向について予測してみたいと思います。

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過去・現在・未来、3つのコンテスト

(c)Naoko Kurata
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第2回目のコラムでも書いたように、1982年開催の「ファンタジー」(De Fantasie)と1985年の「リアリテイト」(De Realiteit、英語ではReality)という二つのタイニーハウス・デザインコンテストは、オランダのタイニーハウス・ムーブメントの歴史において大きな役割を果たしてきました。特にリアリテイトはコンテナハウスや太陽光発電のみでエネルギーを賄う住宅など、約30年後の現在にもつながるトレンドを予言したコンテストでした。

(c)Naoko Kurata
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実は2016年春に約30年の時を経て、前2回を彷彿させるコンテストが開催されたのです。コンテスト名は「Bouw Expo Tiny Housing」。日本語にすると「タイニーハウス建設博覧会」といった意味になります。前2回コンテストの受賞者がアルメレ(Almere)に実際に受賞アイデアを建設できたように、今回も受賞作は同じくアルメレに建設されるのだそうです。

1回目のテーマが「ファンタジー」、2回目のテーマが「リアリテイト」(現実)。今までファンタジーのように思われていたタイニーハウスが現実(リアリテイト)に降りてきていたオランダが、その次に選んだテーマは、なんと「Bevrijd Wonen」。英語に直すと「Liberated Living」、日本語なら「自由に住む」や「自由な家」といったニュアンスでしょうか。「Bevrijd」には「解放された」というニュアンスもあるので、なかなか一言で言い表すには難しいテーマです。コンテストを運営している実行委員会に問い合わせてみたところ、このテーマには「少ない持ち物で生活すること、物質主義からの解放、住宅ローンからの自由」という願いも込められているそうです。

Via: twitter.com

そのコンテストの結果が7月6日に発表されました。オランダの今後のタイニーハウス・ムーブメントの先行きを示すことになるであろう受賞作たちをご紹介いたします。

ムーブメントの将来を示す25の受賞作たち

(c)Naoko Kurata
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アルメレにあるイベントホール「Schouwburg Almere」で、応募作全245のデザイン模型を見ることができました(2016年8月28日まで展示予定、要予約)。

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受賞作25作のみならず、全応募作が展示されているので見ごたえがありました。

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ちなみに受賞部門は分かれていて、「Permanent」(恒久的)、「Tijdelijk」(テンポラリー、一時的)、「Pioniers」(先駆者)の3部門。受賞作には、どの部門での受賞か分かるように旗が立てられていました。

ここからは、各部門の受賞作の中から筆者が特徴的だと思った作品をご紹介します。

【Permanent部門】Wonen in Stro, Leem en Groen

Via:  bouwexpo-tinyhousing.nl
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この作品の特徴は、「わら、粘土そして緑の家」という名前が示す通り、建材が自然の素材にこだわって作られているところ。モデルだと可愛らしくも見えますが、イラストで見るとよりイメージが伝わりやすくなります。

Via:  bouwexpo-tinyhousing.nl
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外壁は粘土や漆喰(しっくい、kalkputz)で固定し、屋上からネットを下しそこにツタ(hedera klimop)を絡ませるアイデアのようです。一種の壁面緑化、グリーンのカーテンですね。漆喰は耐久年数も長いですし、自然素材を中心に家を建てれば、シックハウス症候群などとも無縁で生活できますね。住人の健康も家の状態も共に「Permanent」(恒久的)でいられる家だと思います。

【Tijdelijk部門】Our Housewikkelen voor de toekomst

Via:  bouwexpo-tinyhousing.nl
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wikkelen voor de toekomst」(将来のための梱包)という家が段ボール素材を使っていることに目が行きがちですが、この2つに共通しているのは「家のサイズが可変的」であること。パーツの組み合わせをアレンジすることによって、家の大きさを変えていくことができるのです。「wikkelen voor de toekomst」は画像だけでもそれが見てとれますが、「Our House」はこちらのリンク先のコンセプトPDFの画像がわかりやすいと思います。

Tijdelijkが意味する「一時的」という言葉は、ともすればネガティブな意味にも捉えられがち。けれども家族は、子供が増えたり自立していったり、年とともに変化が起こるもの。その変化にも対応できる、流動性を提案するデザインだなと感じました。自由自在の変化、言い換えれば「固定化からの自由」を得られる家だと思います。

【Pioniers部門】ARC

Via:  bouwexpo-tinyhousing.nl
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こちらの部門は、受賞した3作すべてオフグリッドを意識したコンセプトで、エネルギー・インフラからの自由、解放という意志を強く感じました。中でもこのARCは、運搬が簡便でセルフビルドしやすい構造であることに好感を覚えました。この三角の特徴的なデザインは、古いオランダ土着の家のスタイルにインスピレーションを得ているそうです。特集コラム1回目でお伝えしていたように、オランダ人には干拓で自分たちの国を作り上げていった歴史があります。そんな繋がりもあり、非常にオランダらしいタイニーハウスだと言えるのではないでしょうか。

Via:  bouwexpo-tinyhousing.nl
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余談ですが、オランダのタイニーハウス・ムーブメントの先駆者であるマリョレインさんに「受賞作で気になる作品はありますか」と尋ねてみたところ、「私は専門家ではないので批評はできないけど」と前置きをしつつ、上の画像「BUITENSTE BINNEN」を挙げてくれました。デザイン的に一番お気に入りだそうです。確かにスタイリッシュなデザインで、暖房効率が良さそうな温室ハウスですね(緯度の高いオランダでは、冷房はそれほど重要ではありません)。

このコンテストを通じて、オランダにおけるタイニーハウス・ムーブメントの今後の傾向を予測すると「耐久性が高い素材」(低耐久からの解放)、「健康でいられる住環境」、「フレキシブルに家の形や大きさを調整できる」(固定化からの自由)、「オフグリッド」(インフラからの解放)というようなポイントが重要になってくるのではないでしょうか。そして、ARCのように先人たちの知恵に回帰していくような傾向も生まれるかもしれません。

受賞作の建設予定

Via:  bouwexpo-tinyhousing.nl
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2016年夏にアルメレで建設がスタートするこの「Bevrijd Wonen」たち。建築中も完成後も、2017年夏までは見学者が自由に訪れることができます。

受賞作の模型もコンセプトシートも素晴らしいですが、やはり実物が見たいので、完成した頃に筆者もぜひ見学に行きたいと考えています。

Via: twitter.com

今後もタイニーハウス・ムーブメントにおいて重要になってくるであろう「Bevrijd Wonen」(自由な家)というキーワード。我々自身も固定概念から自由になり、新しいスタイルを受け入れていきたいですね。

コンテスト実行委員会が把握しているデータによると、オランダのタイニーハウス人口はどんどん増えていて、アルメレのような都市部では1/3がタイニーハウスに住んでいるのだとか。もちろん若いカップルやシングルが中心だそうですが、施設のような場所ではなく独力で暮らしていきたい老人などにもブームの幅が広がってきているそうです。今後も思いもよらない発展を見せてくれそうなオランダのタイニーハウス・ムーブメントは要注目ですね。

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