【アフターレポート】\二拠点居住と山梨 Vol.3/ やまなし暮らしとリモートワーク 〜実践者たちに学ぶ二拠点居住での働き方〜

どこで、誰と、どんな風に生きたいか。

リモートワークが浸透した今、働く場所にとらわれずに住む場所を選び、住む場所にとらわれずに働く場所を選ぶことができるようになってきました。だからこそ、自分はどんな生き方をしたいのか、改めて考える機会も増えてきたのではないでしょうか。

「二拠点居住と山梨」は、複数の拠点を持って生活する「多拠点居住」や地方への移住に興味がある方向けのイベントシリーズ。山梨県を拠点の1つとする多拠点生活や移住生活を実践しているゲストをお招きし、都心からのアクセスが良く、自然豊かな山梨県での暮らしについてお話を伺います。

12月15日(水)には、第3回目となるオンラインイベント「二拠点居住と山梨 Vol.3 やまなし暮らしとリモートワーク~実践者たちに学ぶ二拠点居住での働き方~」が開催されました。

ゲストには、やまなしでの多拠点生活や移住生活を実践し、県内でコワーキングスペースの運営に携わる奈良美緒さん(コワーキングコミュニティteraco.)、北田萌さん(ドットワーク富士吉田)が登場しました。

家は?仕事場は?

イベントの冒頭では、やまなし暮らし支援センターの移住相談員である長島さんより、山梨県での暮らし、移住について説明がありました。

長島さん「住居を探す手段としてはwebを使う方が一番多いですが、地元の不動産や空き家バンクを利用する方もいらっしゃいます。街から離れるほどマンションやアパートなどの集合住宅が少なくなるので、場所によっては家探しに時間がかかってしまうこともあるかもしれません。

家賃相場は都心に比べて下がりますが、二拠点居住で両方の住宅が賃貸だと家賃が2倍かかってしまうので、シェアハウスを利用して家賃を下げるのも1つの方法だと思います。

また、県内にはコワーキングスペースやシェアオフィスが続々とオープンしていて、専用のサイトもありますので、ぜひご自身のワークスタイルに合う施設を探してみてください。」

二拠点生活、移住の華やかな面だけではなく、時間がかかるところや悩んでしまうポイント、そしてその対処法を事前に知ることで、より具体的に新たな暮らしへのプロセスをイメージすることができますね。

有楽町にあるやまなし暮らし支援センターでは、山梨県への移住や二拠点生活を検討している方向けの相談窓口が設置されています。具体的には何も決まっていないという方の漠然とした相談や質問も大歓迎。新たな暮らしへのファーストステップとして、ぜひ、やまなし暮らし支援センターの相談窓口に足を運んでみてください(相談は無料、要事前予約)。

家族三人二拠点生活!

1人目のゲストは、山梨県都留市にあるコワーキングコミュニティ「teraco.」を運営している奈良美緒さん。もうすぐ2歳になる息子さん、旦那さんと共に、山梨と東京の二拠点生活を送っています。「二拠点居住と山梨」シリーズで唯一、子ども連れで多拠点生活を実践しているゲストです。また、山梨の中古住宅と東京の旦那さんの家、両方でシェアハウスを運営し、オープンに子育てを行っているのも、奈良さんの二拠点生活の特徴です。

都留市で生まれ育ち、県外の大学へ進学。卒業後は都内のコンサル系企業で5年弱働いていたという奈良さんは、どのような経緯で山梨と東京の二拠点居住を行うことになったのでしょうか。

奈良さん「若い頃は田舎が嫌で上京したのですが、都会の暮らしに疲れてしまい、今後のことを腰を据えて考えたいと思うようになりました。2016年に一時的な療養のつもりで実家にUターンしたのですが、色んな方との出会いを通して、自分は地元が好きなんだなということに気が付きました。

2017年1月に入籍し、東京にある彼の持ち家で暮らすという選択肢もあったのですが、私はちょうどそのころ都留での暮らしがおもしろくなってきたころだったので、都留と東京の二拠点居住という形にして、地域おこし協力隊の活動を始めました。その活動の一環として携わったのが、コワーキングコミュニティteraco.の立ち上げです。」

二拠点生活を豊かにする居・職・住

2018年7月にオープンしたコワーキングコミュニティ「teraco.」は、定期開催している1ヵ月間の滞在型プログラム「ワークキャリア(旧:田舎フリーランス養成講座(以下、いなフリ)」の会場としてスペースを借りたのが始まり。講座を開設していない期間に、講座の卒業生や地域の方、徒歩圏内にある都留文科大学の学生が利用し交流する拠点にできたらという思いから、コワーキング”コミュニティ”として立ち上がりました。

奈良さんは、子どもを育てながら多拠点生活、田舎暮らしを送るうえで、居・職・住という3つの要素を重要視していると言います。1つ目の要素である「居」は、安心して頼れる居場所=コミュニティがあること、2つ目の要素である「職」は、自分にフィットした働き方ができること、3つ目の「住」は、快適な住空間があること。これらを実現するために、二拠点生活をデザインしているそうです。

奈良さん「teraco.は常に人が行き来して、多様な属性の人たちが日常的に交流しています。ここに来れば誰かに会えるし、顔なじみと言葉を交わすことでリフレッシュもできる。交流から仕事が生まれることもあるので、コミュニティがあるというのはすごく良いことだなと思っています。

息子の1歳の誕生日会をteraco.でやらせていただいたのですが、知り合いが集まって賑やかに祝ってくれました。シェアハウスの住民や都留に移住した知り合いが集まって賑やかに過ごしているので、親だけで子育てをするのではなく小さいうちから色々な大人に触れ合って子どもに楽しんでもらう。私のエゴかもしれませんが、そういう子育てをしたいという夢があったので、それが形になっていてすごくありがたいなと思っています。」

親である自分自身がご機嫌に

teraco.で共に働く仲間や、シェアハウスで共に暮らす住民と共に子育てを行い、自分の理想の暮らしを実現している奈良さん。理想の暮らしを形にする背景で、どのようなことを意識しているのでしょうか。

奈良さん「親として何かを教えるというよりも、親である自分自身がご機嫌でいようと意識しています。そのためにも、一緒に暮らすパートナーがどういう居職住を望んでいるのか、対話を大切にしていますね。その理想を実現するために、色々な事業やライフスタイルを発想して、形にしています。

ただ、いきなり移住や多拠点生活を始めるのは大変だというのは私も分かっているつもりなので、まずはteraco.に気軽に遊びにきていただけたら大歓迎です。リモートワークや田舎での暮らし、二拠点生活を一緒に楽しんでいけたらと思っています」

自分がご機嫌でいられる環境をつくることで、一緒に生きる人も幸せになる。シンプルで見落としがちですが、人生の選択をするうえでとても大切な価値基準ですね。

仕事も生活も趣味も学業も

2人目のゲストは、山梨県富士吉田市にあるコワーキングスペース「ドットワーク富士吉田」で運営責任者を務める北田萌さん。2021年の春、転職と同時に旦那さんと共に東京から富士吉田市へ移住し、やまなし暮らしをスタートしました。

同じく2021年の春にアメリカとフランスの大学院に同時入学し、仕事と学業を両立しながら、新たな土地での生活を満喫するパワフルな北田さん。どのような経緯でやまなし暮らしをスタートさせることになったのでしょうか。

北田さん「夫婦で美味しいものを食べることとキャンプに行くことが趣味なので、色々な所を巡りたいねと、この2年間ずっと話をしていました。前の会社に2年勤めてさらにステップアップしたいと思ったことと、大学院に入りたいと思ったことで、このタイミングで移住を決断しました。

富士吉田を選んだ理由は2つあって、1つは大学院の研究です。フィールドワークをするにあたって、富士吉田市は私が求めていた条件にぴったり合いました。

もう1つは、山梨近辺は素敵なキャンプ場がまわりきれないくらいあるので、これは行くしかない!と。キャンプの聖地山梨へワクワクしながら移住し、週末に色々な場所でキャンプをしてバンに泊まって、という週末バンライフを送っています。」

「地方でリモートワーク」を形に

会社員として働きながら、アメリカ・フランス2つの大学院で学業にも励んでいる北田さん。どのようにして、仕事と学業を両立させているのでしょうか。

北田さん「会社がフルフレックスタイム制で、朝の5時から夜10時までいつ働いても良いんです。海外の大学院だと授業を受けるのに時差があるのですが、この制度を駆使しながら勉強しています。

「働き方、パーソナライズ」といって、ITの技術を使ってリモートワークを実現可能にすることで、色々な人が色々な働き方をできるようにしよう、というのが会社の理念なので、実際に地方でリモートワークできるのかどうかを検証する実験場として、ドットワーク富士吉田を運営しています。」

ドットワーク富士吉田では、移住や二拠点居住のきっかけとなるコミュニティを育成するため、移住体験や交流会が開催されています。毎月開催されている異業種交流会「ドットワークBAR」では、地元の方とリモートワーカーの繋がりが生まれているそうです。

北田さん「ドットワークBARには、リモートワーカー、移住者の方、地元の方、全国定額制の住み放題サービスを利用し富士吉田に滞在している方など、多様な方が毎回2,30人ほど集まっています。

リモートワーカーと地元の人が繋がることで副業やビジネスが生まれたり、移住したいけど住む場所や仕事が見つからないという参加者の方に知り合いや仕事を紹介したりと、移住・二拠点生活に関する様々な障害を取っ払うための会として機能しています。」

ドットワーク富士吉田をきっかけに、現在は6名の方が二拠点居住を実践しているとのこと。なかにはご家族を連れて富士吉田に移住し、二拠点生活を送っている方もいるそうです。

さらに北田さんの勤めているキャップクラウド株式会社では、「いろんな人が気軽に足を運び、仕事も滞在もできる」という環境を整えるため、有人コワーキングスペース「ドットワーク富士吉田」に加えて、24時間年中無休の無人コワーキングスペース「.work ANNEX」、移住を意識している方向けの短期滞在施設「.work RESIDENCE」を運営しています。

いきなり新しい生活に飛び込むのも新鮮で刺激的ですが、生活を試せる場所や働き方に応じて選べる仕事場、人と繋がれる場所があると思うと、移住や二拠点生活のハードルがグッと低くなるような気がしますね。

富士山の雄大な景色と生きる

東京から山梨に移住して9ヵ月。北田さんは山梨での暮らしをどのように感じているのでしょうか。

北田さん「移住してきて、景色や自然ってすごく大事だなと思っています。富士山の雄大な景色を見て、富士山大きいな、私って小さいなと家に帰ることが何回かあって。自分の心に余裕がない時に自分より大きい存在を見ると、自然を介して自分を客観視できる瞬間がけっこうあります。東京に住んでいる時はビルに迫られているような感覚があったので、余裕のない生活を送っていたんだなと思います。

あとは、日本一堅いうどんと言われている吉田うどんなるものがこの地にありまして、

最初食べた時はこめかみがめちゃくちゃ痛くてなんなのこのうどん!と思ったのですが、気付けば普通のうどんでは物足りなくなっていて、今はドハマりしています。こんな風に地元のものがすごく好きになって、楽しく生活しています。」

仕事も生活も趣味も学業も、大きく環境を変えながらもすべてを充実させている移住の先輩のお話はとても刺激的で、悩んでいるときに背中を押されたような気持ちになりますね。

もっと聞きたい!移住・多拠点生活のリアル

続いては、テーマに沿ったフリーディスカッションと、参加者からの質疑応答。参加者への事前アンケートをもとに作成されたテーマパネルと、イベントの参加者からリアルタイムで届く質問に答える形で進行されました。その模様をハイライトでお伝えします。

〇移住してギャップを感じたことは?

北田さん「移住して知った良いことは、モモとシャインマスカットは買わなくていいということです。地元の方にモモとシャインマスカットは買わなくて良いんだと言われて衝撃を受けたのですが、本当に色んな方からもらえるんですよ。

あとは、光熱費めちゃくちゃ安いなとか、硬いうどんうま!という良いギャップしかないですね。西裏エリアの機織りとかも、現地に来るまでは知らなかった文化です。実際に住まないと知り得なかった情報が多く、住めば住むほど色々なことが知れるので、それに私は毎日ワクワクしています。すごく楽しいです」

奈良さん「私は地元へのUターンなので生活に対する期待値がそんなに高くなかったからか、良いギャップはすごくたくさんありました。

街を離れていた10年弱のブランクが大きくて、その期間に街も変化しますよね。都留の場合は、大学生がたくさんいたり、移住者が増えてコミュニティができていたり、すごくおもしろい街になっているんだなというのを、戻って来たときに感じました。」

〇コワーキングで働く良さや、それぞれの施設の様子は?

奈良さん「teracoがコワーキングスペースではなくコワーキングコミュニティと名乗っているのは、偶発的な出会いがあったり、ここに来れば誰かに会えたりという、繋がる場としての役割が大きいことに由来しています。

うちはslackで会員のワークスペースを作っているのですが、県外にいる人も含めてそこに日報を出して、お互いコメントし合っています。会社や業種が違っても、自分がこれやっているときにあの人はこれを頑張っているんだなと思うと頑張れるじゃないですか。リモートワークでなかなか雑談する余地がないなか、利害関係や上下関係のない緩やかな繋がりでコミュニティを醸成し、みんな楽しそうに働いているので、すごくおもしろいなと思って見ています。」

北田さん「うちは常に色々な人がいるので、いつ来たとしてもバラエティーに富んだ人と喋れる環境です。最近は、コロナの影響でバイトやインターンなどのリアルな場で社会人の話を聞くことができなくなった学生の方が、こういう場所だと色々な社会人の方と会えるかなと思ってきましたと、リモート授業を受けた後に、交流会に参加したりしています。

ドットワーク富士吉田はサブディスプレイやキーボードなど備品も無料貸し出ししていて、オフィスの環境をそのまま再現できるので、オフィスに行かず、カフェより集中して作業に集中できる空間があると思います。

コワーキングスペースだと、同じ空間にいるのが同じ会社の人たちじゃないからこそ、必要以上に話しかけられなくて作業がはかどると言われたこともあります。話したい時はカフェスペース行けば話せるので、ほどよい距離感でオンオフを切り替えながら仕事ができるのがコワーキングスペースの良さかなと思います。」

〇お子さんがいる多拠点生活はどんな感じ?

奈良さん「基本的には山梨で生活していて、月に1,2回、家族と一緒に東京を行き来しています。主に車移動で、機嫌が悪いと子どもがチャイルドシートに乗ってくれなかったりするので、お昼寝の時間に合わせ移動するなど、試行錯誤しながらやっています。

これからどうなるか分かりませんが、今は子どもも山梨・東京どちらの暮らしも楽しんでいるように私には見えています。子どもが将来的に、東京か山梨か、はたまた全然違う場所に行きたいと言うか、どういう暮らしを望むかは分からないけど、どういう状況になっても応えられる環境ではあると思うので、一緒に対話しながら暮らしを作っていきたいですね。」

Q二拠点生活や移住をするうえで、パートナー間の価値観の相互理解はどんな感じ?

北田さん「夫は心配性で、職や住む場所、子どもが生まれた時のことなどを色々心配していたのですが、移住によるメリットのほうが多いよねと私が説き伏せました。夫婦は続けたいし、大学院の研究としてフィールドワークも兼ねているし、やりたいこともあるからこの場所に住みたい、最終的には1人でも行きたいという意志表明をしました。

私のやりたいことを応援してくれるならついてきてほしい、そうしたらもっと二人で色んなことを乗り越えてもっと良い夫婦になれると思う、と私の思いを赤裸々にぶつけましたね。ケンカや口論もしたのですが、最終的には思いが通じて、納得して着いてきてくれました。」

奈良さん「夫は会社員で育休をとっています。ガツガツ働くよりも子どもとのんびり過ごしたいという夫の意向と、東京で子育てするイメージがなく自然豊かなところで過ごしたいという私の希望もあり、じゃあ都留で暮らす?という話になりました。

東京育ちの夫にも都留の環境はすごく良いみたいで、便利さや、適度に自然環境があるところが癒しになっているとも言っているので、結果的には良かったのかなという感じですね」

参加者の方からの質問はもちろん、奈良さんと北田さんがお互いの暮らしに抱いた共感や質問を投げかけており、濃密なトークセッションとなっていました。

新生活への最初の1歩

イベントの最後に、ゲストのおふたりからメッセージがありました。

奈良さん「個人的には、仕事の関係で拠点が増えて、まさかの3拠点になるかもしれない状況なので、大丈夫かなと冷や冷やしつつ、運命にあらがわず起きたことを受け入れるのみだなと思っています。

どういう基準で拠点を増やしたり移住したりを決断するのか自分自身迷っているところもあるのですが、やはり最終的には自分の心に正直にいることだなと、今日再認識させてもらいました。少しでも都留や富士吉田を検討してくださっている方は、お気軽にご連絡いただければと思うのでよろしくお願いします。」

北田さん「私の会社では、リモートワーカーが市内のどこに行っても仕事ができて地域の人と関われる環境を作るための『富士吉田まるごとサテライトオフィス構想』を計画しています。計画をお手伝いしてくれる方も募集していますし、そういう仲間と一緒にどんどん山梨全体を盛り上げていこうと思っているのでよろしくお願いします。

調べると色々な選択肢があるし、些細な疑問でも快く答えてくれる人がたくさんいるので、障壁を感じずに、お試し移住でもなんでも、気軽に遊びに来てもらえたらなと思います。移住、二拠点居住のワクワク感を増やしていけたらと思うので、みなさんお待ちしています。」

現在の暮らし方に至る経緯や、パートナーとのコミュニケーション、移住して感じたことなど、ご自身の体験を赤裸々に語ってくださった奈良さんと北田さん。おふたりのおかげで、二拠点居住や移住が決して敷居の高い特別なことではなく、日々の選択の延長として、気軽に最初の1歩を踏み出せるような気がしますね。

参加者の方がリアルタイムで書き込むことができるチャットには、

「ご機嫌でわくわくしているお二人の楽しさがガンガン伝わってきて、楽しかったです!」

「山梨の現状のわかる素晴らしいイベントありがとうございます。」

「以前,旅行で山梨を訪れましたが,興味が高まりました!」

「遊びに行きたくなりました!!」

「山梨移住への最強の後押しになりました!」

などたくさんのコメントが寄せられていました!