心地よい自然に包まれ、穏やかな暮らしが広がるまち、東京都青梅市。そんな青梅市を舞台に開催されたのが、「青梅市わがままライフコンテスト」。
せわしない日常から少し離れて、今の暮らしに「だったらいいな」を加えた自分らしい暮らしを思い描いてみる。そんな「わがまま」なアイデアを募集するコンテストです。
2回目の開催となる今年度は、実在する物件を元にアイデアを募集。まちに根付いた、オーナーさんの思い出が詰まった物件で、これまでのヒストリーや立地の特徴を活かしたアイデアが集まりました。
集まった作品数は143件。たくさんのアイデアのなかから最優秀賞に選ばれた作品とは?3月中旬に行われた審査会の様子をレポートします。
審査員&審査方法
青梅市内外、多様なフィールドでご活躍される6名の方々に審査員として協力いただき、それぞれのご経験からなる知見や視点を交えて審査を行いました。1次審査・2次審査の2段階で作品審査を行い、最後は審査員同士のディスカッションを通して入賞作品を決定しました。
【審査員一覧】(敬称略)
渡邊享子(株式会社巻組 代表取締役)
馬渕かなみ・大橋麻紀((仮称)コーミンカン!館長・共同運営)
伊東由宥子(ボランティア団体「あすくり青梅」代表)
山本幹太(株式会社HIDANE 共同代表)
清水有二(株式会社MOPTOP 代表取締役社長・大工)
田中 志緒利 (一般社団法人こーよ青梅)
対象物件「草庵」— 長年愛される、青梅の老舗うどん屋
青梅市内にある、築90年ほどの木造1階建ての長年愛されているうどん屋「草庵」さん。北東それぞれ道路に面しており、やや高台にあるため眺望は良好で、JR青梅駅から車で10分、バスで15分、徒歩25分というアクセス環境。長淵山ハイキングコースが近く、自然が近くにある住宅街に位置しています。
※審査員の皆様のプロフィール・対象物件についての詳細は、青梅市わがままライフコンテストの公式HPをご覧ください。
すべての作品と真摯に向き合った1次審査
1次審査では審査員全員がゆっくり時間をかけて、すべての応募作品に目を通し、2次審査へ進む作品を数の制限なく選出。審査ポイントをもとに良いと思う作品を選んでいきます。
ひとつひとつの作品に時間をかけて向き合い、審査の終盤には、「救いの1票!」と2次審査に残したい思い入れのある作品に票を投じる審査員の姿も。
41作品が1次審査を通過し、審査員は1次審査を終えての感想を共有しました。
「草庵さんにたくさん向き合って考えたんだろうなという作品ばかり。応募者のみなさんをとても尊敬します。」
「みなさんプレゼンテーションがとっても上手。作品の中身をしっかりと見て選ばせていただきました。」
「ハイキングなどアウトドアなアクティビティができる場所だからか、温泉・足湯のアイデアが多い。こういう場所が求められているんだなと気づかされますね。」
「審査をする立場として、個人の熱い思いと、実現可能性のバランスに、とっても悩まされました。」
多様な視点で対話が交わされた2次審査
2次審査では、最優秀賞に相応しいと思う作品を選びます。審査員それぞれの視点や、以下の審査ポイントを元に、各審査員が4つの作品を選出し、議論していきました。
①敷地・建物の特徴を活かしたアイデアであること。
②青梅の特徴や地域問題に取り組んでいること。
③既存の概念にとらわれない、自由な発想であること。
④人の交流が生まれやすい提案であること。
「草庵のご主人と奥様の思い出がしっかりと受け継がれたアイデアが素敵です。」
「こんな場所が青梅にあったら私もぜひ訪れたいですし、移住者や遊びに来てくれた人にも必ず紹介したいです。青梅への移住者を増やすためには、このような施設が必要だと思いました。」
各審査員はそれぞれの視点から選出作品へのコメントを述べ、他の審査員の選考理由を聞いたうえで、別の作品へ票を移す場面もありました。その後、多くの票を集めた4つの作品について再度議論を行い、最優秀賞を決定しました。
【最優秀賞】「創作でひらく窓辺 〜「格子」で組む産業デザイン交流の場〜」
最優秀賞に選ばれたのは、青梅市在住、原友望実さんの「創作でひらく窓辺 〜「格子」で組む産業デザイン交流の場〜」。対象物件の特徴のひとつである「格子」を生かした空間デザインや、まちに根付くさまざまな産業に着目したアイデアの総合力が評価されました。以下に、審査員のコメントの一部をご紹介します。
「格子を作ることができる人って今はもうあまりいないと思うんです。そんな状況を踏まえ、今ある建物を維持しながら新しい施設をつくるというアイデアに感銘を受けました。」
「建物を壊して何かするのではなくて利用しながら、移住者と地元の人の交流を作るという姿勢がすごく素敵だなと感じました。」
「格子をつかったプロダクトのデザインはもちろんですが、空間の使い方にも一貫性があって腑に落ちました。産業デザインを通して交流を生むというコンセプトも、ユニークで面白い。」
最優秀賞が決まった後は、その他の入賞作品の選定を行いました。改めて作品を見返しながら、各賞ごとに入賞候補作品を選出していきます。作品からあふれ出す熱い思いに「こんなことができるなんてすごい!」、「一緒に仕事をしたい!」、「個人賞を贈りたい!」と感動する審査員の姿も。
審査基準と照らし合わせながら、それぞれの専門的知見を交えてディスカッションを行い、5つの入賞作品を選出しました。
【優秀賞①】「おぎな衣あいらいふ」
優秀賞に選ばれたのは、「おぎな衣あいらいふ」。
青梅市在住で、同じ大学の研究室に所属する学生チーム『ワカシャ』の皆さんによる作品です。
「織物のまちである青梅の特色をよく活かしたアイデアだと感じました。」
「私自身は裁縫が苦手なのですが、この作品を見て、裁縫は唯一誰かと話しながらできる家事なのかもしれない、誰かと話しながらやるとすごく楽しいのではないかと想像しました。家族だけでなく、地域の人々と分かち合いながら活動できる良い拠点になりそうです。」
「『布』に焦点を当て、みんなで洗ったり染めたりといった様々な活動を行うというテーマが非常に分かりやすく、継続性がありそうで良いと思いました。」
暮らしに身近な布をテーマとし、新しい交流や家事のあり方を提案するアイデアに、多くの審査員の心が動かされた作品でした。
【優秀賞②】「森と街のオードブル」
2つ目の優秀賞に選ばれたのは、東京都杉並区在住の伊奈恭平さんと飯田嵩洋さんによる「森と街のオードブル」でした。青梅のごちそうでおもてなしをする宿泊可能なカフェという心のこもったアイデアや、青梅の食材を使ったとても美味しそうなメニューに、多くの審査員から感動の声が寄せられ、コンテスト終了後も会場では話題が絶えませんでした。
「このアイデアからは、紙一枚に書かれている以上に、多くの考えや思いが込められていることが伝わってきました。実際にこの方々がお店を開いたら、遊びに来るたくさんの人々や、野菜のおすそ分けに訪れる地域のおばあちゃんたちの姿が想像できます。思いに溢れた素敵なアイデアに、心打たれました。」
「このお店にぜひ行ってみたいです!対象物件であるうどん屋さんはなくなってしまったけれど、こんな美味しそうなお店ができたら、みんなが食べに行こうと思う気がします。メニューも非常にこだわって考えられていることに感銘を受けました。」
「青梅に移住したいと思ってくれる方を増やすためには、まず青梅を知ってもらい、青梅の人々と出会い、交流してもらう必要があると思っています。こんなお店があれば、青梅に遊びに来てくれた人や、移住を検討している人にぜひ紹介したいです。」
【コミュニティ賞】「青梅駄菓子広場 まちの子どもステーション」
最も活発な議論が行われたコミュニティ賞。最後に3つに絞られた候補作品の中から選ばれたのは、岡山県在住、中谷梨乃さんの「青梅駄菓子広場 まちの子どもステーション」です。以下に、審査員のコメントの一部をご紹介します。
「駄菓子屋が少なくなっている今、改めて駄菓子屋を作るという視点がいい。」
「駄菓子屋って、全く話したことない同じぐらいの世代の子たちとの交流の場でしたよね。駄菓子屋に加えて、託児所とか休憩の空間が誕生したら、大きなコミュニティになりそう。」
「コミュニティ賞にも、対象物件の草庵さんの雰囲気にもぴったりなアイデアだなと思いました。」
【青梅LOVE賞】「梅追プレイス 〜梅追い人が集う、暮らしと創造の交流拠点〜」
青梅LOVE賞に選ばれたのは、千葉県在住の学生さんによるチーム「チームYDL」さんによる、「梅追プレイス 〜梅追い人が集う、暮らしと創造の交流拠点〜」です。
「空き家を交流拠点として活用する上で、誰がどのように継続していくかという点が課題になりやすい中、梅仕事と結びつけるというアイデアが非常に素晴らしいですね。この活動がこの空間の中で周期的にしっかりと続いていく様子が想像できましたし、現実性の高いアイデアだと感じました。」
「きっとここでは、梅だけでなく、お餅つきやお味噌作りなども行われるのではないでしょうか。わからないことがあれば、○○さんに聞いてみようというコミュニケーションが活発に行われる様子がリアルに想像できました。」
「青梅は本当に梅が盛んな地域で、誰もが当たり前のように梅を買って漬けたりします。よく考えられていますし、この場所がきっと人々の輪や産業を生み出していくのだろうと思いました。」
このように、梅仕事という青梅の暮らしに根付く行事を通して、地域の交流が活発に行われる未来が想像できるアイデアとして、高く評価されました。
【古民家活用賞】「蒼庵」
古民家活用賞には、京都の大学に通う学生チーム「小籠空」による作品「蒼庵」が選ばれました。
「草庵のご主人と奥様の思い出が飾られており、そこに地域の人の『青』を集めるというアイデアが非常に素晴らしいと思いました。お二人のものだった空間が、地域のものになっていく様子や、重ねていく年月が想像できるアイデアです。」
「オーナーの思いや、元の草庵らしさが大切にされているアイデアですね。作品タイトルにもこだわりが感じられて面白いですし、人々が集まりそうな場所だと感じました。」
このように、草庵の歴史や、持ち主の方への深い敬意が感じられるアイデアとして、高く評価されました。
【ユニーク賞】「DJ × 茶室 SO-AN」
アイデアが最もユニークだった作品に贈られるユニーク賞には、満場一致で「DJ × 茶室 SO-AN」が選ばれました。青梅市在住、田村裕里さん、田村聡さんによる作品です。
「草庵さんからこのDJ空間はなかなか思いつかない。まさにユニークなアイデアだなと感じました。」
「応募者の『やりたい』という思いが本当にたくさん詰まってますよね。」
「現実性だけではなくて、たくさんの妄想をしてくれたアイデア。わがままライフコンテストらしいアイデアだなと感じました」
「ユニークさだけではなくて騒音対策への視点もあり、実現化への意識も高い点も好印象です。」
アイデアのユニークさはもちろんのこと、周辺地域への配慮など、細部までしっかりと考えられた完成度の高い作品である点が評価されました。
審査を終えて
多様な場所・領域で活躍する審査員の皆さんが集まり審査を行った青梅市わがままライフコンテスト2024。審査員の皆さんから、総評をいただきました。
馬渕さん: 「私たちも普段、古民家を活用した場所を運営しているので、皆さんのユニークなアイデアや熱い思いに、すごく刺激をもらえました。」
渡邊さん: 「こんなにも魅力的な方々がいらっしゃり、これほど多くの素晴らしいアイデアが集まる青梅は本当に素晴らしいと思いました。実現可能性だけでなく、想像や発想を大切にした面白いアイデアが集まることは、このコンテストの良いところのひとつ。このような流れは、ぜひ来年以降も続けていただきたいと思いました。」
田中さん: 「当初は、青梅に実際にある物件を使って自由にアイデアを考えることは難しいのではないかと考えていました。しかし、青梅をより良くしたい、こんな場所があったら良いなという熱い思いがこれほど多く集まったことに驚いています。7つに絞ることは心苦しくもありましたが、最終的に選ばれた作品を見て、本当にこの場所にあれば良いなと思えるアイデアがすべて選ばれたと感じています。」
大橋さん: 「作品のアイデアや審査員の皆さんの評価の基準も、自分にはない視点が多く勉強になりました。応募してくださった方々の中には、実際にお会いしてみたいと思う方が多く、皆様が一堂に会する機会があれば、素晴らしい時間になるだろうと思いました。」
山本さん: 「青梅のことをこれほど真剣に考えてくれる方々がいらっしゃること、またこれほど多くの方々が関わってくださっていることに、大きな価値を感じました。そのような素晴らしい方々の思いを感じられるこのコンテストは、本当に素敵な取り組みだと思います。」
清水さん: 「今年は対象物件がありテーマが絞られていたため、ユニークなアイデアは少ないのではないかと考えていましたが、作品を見て驚きました。人々の思いの強さを測り知ることができ、感動しました。素晴らしい賞が決まったと思っています。来年もコンテストが開催されることを願っています。」
伊東さん: 「コンテストに参加するにあたって、参加者の方々は本当にたくさんのことを考え、想像して挑んでいただいたのだと思いますが、それを紙1枚に凝縮しなきゃいけないということは、本当に大変なプロセスだったと思います。
もし、ご本人からのプレゼンテーションを聞けたとしたら、より作品の背景や思い、エネルギーのようなものを感じることができ、また違った選択をするのかも?と考えていました。自分にはない審査員の皆さんの多様な視点やご意見をもとに作品を選ぶことができて、すごくよかったと感じます。」
最後にコンテストを総括して、青梅市地域経済部シティプロモーション課の白鳥美樹子さんよりコメントをいただきました。
白鳥さん: 「対象物件の草庵さんの思いを、応募者の皆様が細部に至るまで汲み取り、建物の長所を最大限に生かしたアイデアが多数見受けられ、青梅市民としてとてもありがたいです。また、審査員の皆様が各作品に込められた思いを丁寧に理解し、自身の言葉で感想を述べられたことで、各作品の魅力を深く知ることができたと感じています。温かい気持ちになり、このコンテストを開催して良かったと心から思いました。
もっと青梅の魅力をみなさんに知っていただき、にぎやかなまちになるよう、引き続きプロモーションを行っていけたらと思います。」
青梅に足を運び、魅力を肌で感じるきっかけに
事前エントリー数は300件を超え、多くの方に青梅を身近に感じていただくきっかけとなった青梅市わがままライフコンテスト2024。応募いただいた方からは、
「実際に初めて青梅に足を運び、風を感じて、地元の方々と関わる上で、画面越しでは知ることのないこのまちの魅力を知ることができました。」
「このコンテストをきっかけに、東京に青梅というまちがあることを知り、ただコンテストの対象地としてではなく、思い入れのある大切なまちに変わりました」
「青梅や草庵さんにこの企画を通して恩返しをし、たくさんの人に青梅の魅力を知ってもらえるきっかけになるよう頑張りました。」
「青梅市がもっと面白くなるようにわがままを詰め込みました。」
といった熱いお声が寄せられました。
青梅市の魅力や、応募者の皆さんのまちへの愛情がたっぷり詰まった数々のアイデア。そして、対象物件としてご協力いただいた草庵さん、さらに多彩な専門性と感性を持つ素晴らしい審査員の皆さんのご協力のもと「梅市わがままライフコンテスト2024」の審査会は幕を閉じました。
このコンテストをきっかけに、青梅というまちがどのように変化していくのか。魅力あふれる青梅のこれからに、どうぞご期待ください。そして、ご応募いただいた皆さん、本当にありがとうございました!
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