【インタビュー】大事なことは始めること、「やきいも屋・デザイナー」のチョウハシトオルさんに聞く小商い|ちいさくはじめる小商い
みなさんは「小商い」という言葉をご存知でしょうか?
小商いとは、”「儲ける」ことよりも、自分のやりたいこと/責任のとれること/楽しみながらやれることを、自分の手の届く距離で行う仕事のやり方”のことです。
近年、若い世代を中心に、この小商いをする人が増えてきました。
小商いの形は様々で、メインの仕事にする人もいれば、パラレルキャリア的に他の仕事をしながら行う場合もあります。
この連載では、新しい働き方としての「小商い」を実践する様々な人達にお話を聞き、「働く」という側面から豊かさについて考えていきたいと思います。
「つぼ焼きいも屋」のチョウハシトオルさん
今回お話を伺うのはチョウハシトオルさん。
平塚市出身のチョウハシさんは、デザイナーと焼き芋屋「やきいも日和」のオーナーという二つの顔をお持ちの方です。
チョウハシさんがされている焼き芋屋さん「やきいも日和」では、一般的な石焼き芋とは異なり、壷の中に芋をぶら下げて芋を焼くのが特徴です。
直径60センチ高さ75センチもある大きな壷に練炭を入れ、1時間ほどかけて遠赤外線でじっくりと調理します。
できあがった焼き芋は、皮は香ばしく、中身はしっとりと焼き上がるのが特徴です。
YADOKARI小屋部でも、虎ノ門で展示されたgreenz.jpの鈴木菜央さんの小屋や、大磯の海の小屋、最近では二子玉川のアートビエンナーレで展示された小屋の現場監督兼、設計者としてご協力いただいているチョウハシさん。
デザイナーでもある彼はなぜ「焼き芋屋さん」をはじめたのでしょうか?小商いを始めるための準備はどうすればよいかや、その楽しさ、メリットはどのようなものなのかを伺いました。
つぼ焼き芋屋をすることで、地域との繋がりを作りたかった
── まず最初に伺いたいことですが、チョウハシさんがつぼ焼き芋を始めたきっかけは、どのようなものだったのでしょうか?
「以前は東京のデザイン事務所で働いていたんですが、このまま東京で働き続けていく事に疑問を感じ、地元に帰って仕事をしたいと考えるようになったんです。独立を機に、地元の大磯に活動の場を移したのですが、まずは地元に僕の事を知ってもらおうと思いはじめたのが『焼き芋屋さん』だったんです。
つぼ焼き芋のことは父から昔の『焼き芋屋さん』のお話を聞き、興味を持っていたので、まずは焼き芋用の壷を一台購入し、地元の朝市などで販売を始めました。」
── 最初から焼き芋屋さんをやりたい、というわけではなかったのですね。その目的は実現できましたか?
「そうですね、リピーターさんが来てくれたり、口コミで焼き芋を買いにきてくれる人もいて、大磯で面白いことをやってる人がいる、と話題になっているようです。その評判から、雑誌の取材が来たり、最近ではデザイン以外の仕事だけでなく、焼き芋のワークショップなどの仕事もいただいています。」
── 焼き芋屋さんをすることで、良い循環が生まれているんですね。
「そうですね、デザインの仕事と同様に、僕は焼き芋屋の仕事も作品のひとつとして考えています。片手間ではやりたくないですし、好きでやっていることだから、お客さんにできるだけ美味しいものを出したい。そのせいで自然と商品の質も上がり、ファンも増えていると感じます。楽しんでやっていることが良い循環を生んでいますね。」
取材の最中にいただいたチョウハシさんのつぼ焼き芋は、しっとりとして甘い仕上がり。 「寒くなるほどに芋が熟成がすすみ、さらに甘く、食感はねっとりとしてくるんですよ。」と説明してくれました。 こんな話を聞くと次もまた食べてみたいと思ってしまいます。
お店も、のぼりも、パッケージも自分で作ってみる
── お芋もおいしいですが、お店ののぼりなども素敵ですね。これはどのようにご準備されたのですか?
「実は、お店で使う物はほとんどが手作りなんです。お店の看板代わりの登り旗は、ロゴを布にトレースしアクリル絵の具で書きました。パッケージも最初のころは、消しゴムはんこでロゴを作って手押しで作っていたんですよ。」
── なんでも作ってしまうんですね!商いに使うツールのこだわりポイントはどこですか?
「既製の物で見つかればいいのですが、無い場合は使いやすいように工夫して手作りすることでしょうか。
小商いの秘訣は、自分で何でもやってみることです。そうすると初期費用を抑えられますし、町を歩いていてもいろいろな事に興味が湧いて楽しいですよ。買い物するときは、お店のパッケージが気になるし、ユニフォームや接客なんかも気になる。
商品やサービスの魅力も重要だけど、使っている道具でその店の特色は出しやすいと思います。そこに店主さんの個性も出るしね。」
大事なことは、まず始めてみること
小商いをしてみたい、でも様々な理由で尻ごみしてしまう人も多いのではないでしょうか? 小商いをはじめるには、また続けていくにはどうしたらよいのか伺ってみました。
「最初は遊び半分で始めたので、続くとか続かないとか、そういうことはあまり考えていませんでした。その割に、いきなり15万円もする焼き芋用の壷を買っちゃったり、勢いがありましたね(笑)。
まずやってみることが重要だと思います、そして、始めやすくするために、なるべく初期投資をあまりかけないことも大事です。小商いを楽しむより投資の回収が目標になってしまいますからね。」
── チョウハシさんのお店は始めてからもう7年ですよね。小商いを続ける秘訣はありますか?
「決して、儲かると言えるほどの売上はありませんが、一度来てくれたお客さんがまた来てくれたり、人から紹介されて新しいお客さんが来てくれたりとすると、すごく嬉しいんです。それがモチベーションになってやり続けることができたし、もっと美味しい焼き芋を提供したいと思うようになるんです。」
小商いは「働くこと」の原点
── チョウハシさんにお聞きしたいのですが、小商いの醍醐味とは何でしょう?
「仕事の原点を体験できることでしょうか。
仕事は誰かの代理業ですよね?たとえば焼き芋なら焼くのが面倒だからお金で買う人が多いと思います。だから小商いをしてると、仕事の一番シンプルな形を体験できるんですよね。
今の仕事ってほとんどが複雑化していて、お客さんとダイレクトに繋がることって難しい。僕の場合は、焼き芋を焼いて売る、シンプルなものです。芋を焼いて、売って、お客さんがそれを買って食べて、おいしいと言ってくれる。それはすごく分かりやすいし、楽しいことです。」
── 楽しそうですね。最後に、チョウハシさんは「小商い」についてどうお考えですか?
「僕は楽しいから焼き芋屋さんを続けています。焼き芋屋の仕事も、デザインの仕事と同じように本気でやっていますが、思いきり稼ごうとも、事業拡大することもあまり考えていません。
小さく商いをするとリスクが少ないので、理想を突き詰められると思うんですよね。もし1000万の借入をして焼き芋屋をやったとすると、店舗を借り、スタッフを雇い、より多くの売上げ立てないとないといけなくなります。
そうするとやりたくないこともやらないといけないし、借入を返済するために営業しないといけなくなってしまうと思うんですよね。
僕はおいしい焼き芋を追求したい、それが楽しいんです。
一方で、小商いに求めることは人それぞれなので、大きくやりたい人はそうすればよいと思います。人それぞれの規模感があると思うんです。」
もともとがデザイナーという職業をされているチョウハシさんの小商いは、ほとんどの仕事道具を手作りするなど、自身の技術を活用し、DIY精神にあふれたものでした。
「まず始めてみる」そうすることで「知識や経験がつく」、それは小さく仕事を始められる小商いならではの強みかもしれません。
< やきいも日和 >
住所:神奈川県中郡大磯町大磯1668 OISO1668 軒先(3階建てのピンク色のビル)
営業日:例年11月下旬〜4月末の月・木曜日、土日はイベントなどに出店(詳しくはホームページにて)
HP:やきいも日和
◎建物の間の細い路地で営業していますので「黄色いのぼり」を目印にご来店ください。
◎建物向かいに駐車場3台あり。
今回お話を伺ったチョウハシさんのお店。大磯の本店では焼きたてが手に入り、特に11月からは芋の熟成もすすんで、甘みが強くねっとりとした食感の美味しい焼き芋が食べられます。ぜひ一度ご賞味ください。
大磯が遠いという方には、「やきいも日和」のホームページでも商品をお取り寄せすることができます。
冷凍で届けられるので、冷蔵庫で解凍して、冷たいまま「冷やし焼き芋」として食べても美味しいですよ。
ひとつひとつ手作りで焼いているため、数が限られます。ご注文はお早めにどうぞ。
次回は鎌倉で自転車屋台に乗り手作りのケーキを販売するPOMPON CAKESの立道さんにお話を伺います。それでは、お楽しみに!
YADOKARI小商い部 部員募集中
「みんなでちっちゃくはじめる小商い」をテーマに活動しているYADOKARI小商い部では、
楽しみながら趣味を仕事にしたい!
自分で責任を持てる商いがしたい!
小さく始めてみたい仕事がある!
小商いをする人をお手伝いしたい!など
小商いに関わりたい人を部員として募集中です。
小商いをするだけでなく、商品の制作や販売のお手伝い、お店やパッケージのデザインをしてくださる方も部員として募集しています。
2月上旬には都内のマーケットに出店予定の小商い部で、わいわい楽しく小商いをしてみませんか?
小商い部の活動イベントはYADOKARIサポーターズグループで随時更新中です。
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文=YADOKARI小商い部部長・スズキガク