オランダ発・非営利在宅ケア「Buutzorg(ビュートゾルフ)」に学ぶ新しい働き方

via: buurtzorg.com

新しい働き方やウェルビーイングが注目されている今、組織のあり方自体にも革新を求める動きが起こりつつあるようです。企業人としての自分を超えるソーシャルな視点や、コミュニティの一員として、小さくても何かの価値を提供できる人間になりたい。そういった想いを実現させるヒントを、オランダの非営利在宅ケア組織「Buutzorg(ビュートゾルフ)」に探っていきたいと思います。

Buutzorg(ビュートゾルフ)」は、英語で「Neighborhood Care」を意味するオランダの地域在宅ケアの組織です。2018年に日本語訳『ティール組織』が話題となったフレデリック・ラルーの著書の中で、「ティール組織」の成功例として紹介され、世界的に注目される存在となりました。

Buurtzorgを訪れた日本の大学からの代表団 via: buurtzorg.com

「ティール組織」とは、従来のピラミッド型の上下階層を持たない、一人ひとりが自律的に働くフラットな組織です。管理職や上司は存在せず、小さなチームが生き物のように意思決定していく、ネットワークのような構成。「ティール組織」では、個人のセルフマネジメントと、企業人を超えた個人のありのままの人格「ホールネス」が組織を動かす原動力と見なされます。誰から命令されるわけでもなく、個人が自律的にそれぞれの個性を自由に発揮して、お互いを補い合いながら運営していくことになります。

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Buurtzorg(ビュートゾルフ)は、2006年にオランダの地域看護師 Jos de Blok(ヨス・デ・ブロック)が設立。1チーム4人のメンバーでスタートし、現在オランダ国内で約950チームに10,000人以上の看護師・介護士が参加する規模に急成長しました。日本を含めアジア各国など、世界25カ国にグローバル展開しています。ビュートゾルフのスタッフの満足度は8.7と非常に高く、過去5年間で4回の最優秀雇用者賞を受賞しています。

アジア諸国のBuurtzorg via: buurtzorg.com

ビュートゾルフのプログラムでは、基本的に看護師が患者の必要とするすべてのケアを提供しています。介護士中心のケアモデルを変更することにより、50時間のケア時間の短縮、ケアの質の向上、スタッフの仕事に対する満足度の向上や、従来のヘルスケアシステムから約40%の費用節減に成功しています。

ビュートゾルフのどのような点が、「ティール組織」の成功例と見なされているのでしょうか。ビュートゾルフは、地域の40〜50名の利用者を対象に1チーム12人で構成され、マネージャーはいません。15人の地域コーチが必要に応じてチームをサポートし、バックオフィスには約45人のスタッフがいるのみです。チームメンバーに上下階層はなく、それぞれが自律的にチームを運営管理しています。

新しいチームは、近隣にオフィスを見つけ、地域社会に自己紹介して信頼を勝ち取りつつ、口コミと紹介を通じて総合診療医やセラピスト、その他の専門家と知り合うことに時間を費やします。メンバーの採用も、クライアントや地域の実情に合わせてチームが自主的に行います。まるで、スタートアップを始めるのに近いイメージで、ビュートゾルフに起業家精神が根づいている理由がうなずけます。違いはCEOなどの管理職がいないこと。

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ビュートゾルフでは、「玉ねぎモデル」と呼ばれるケアモデルを採用しています。中心にはケア対象者として「自律するクライアント」が置かれ、その外に家族・友人・隣人という周囲の「インフォーマル・ネットワーク」、次にビュートゾルフチーム、そして医療専門家の「フォーマル・ネットワーク」が位置しています。

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まさにコミュニティの構造そのものを反映したモデルで、クライアントを中心として、内から外へエンパワーメントするというベクトルです。要介護者をケアを受ける受動的な立場ではなく、「自律するクライアント」と定義して、その自律へのエネルギーをビュートゾルフチームの原動力にしていることが注目です。

また、ビュートゾルフのセルフマネジメントと効率化のために欠かせないのが、ICTの活用です。ビュートゾルフでは、「Buurtzorg Web」というiPadベースのソフトウェアプラットフォームを最大限に利用。これは、チームのコミュニケーションや情報共有から、ヘルプサポート機能、勤怠管理やパフォーマンスといったHR機能、クライアントの看護診断記録までを統合した、ある意味スーパーアプリです。新しい「Buurtzorg Web」はAppleがコラボレーションして開発するとのこと。クローズドで知られるAppleが、自社以外の組織のためにアプリを開発するというのは珍しいことです。

日本の多世代シェアと高齢者介護の新しい取り組み

日本でも、コミュニティベースの高齢者介護という新しいケアの形が登場してきています。

関東各地に展開するサービス付き高齢者向け住宅「銀木犀(ぎんもくせい)」は、入居者の自律を尊重した管理をしない高齢者向けシェアハウスです。誰でも出入り自由な施設には駄菓子屋が併設されており、入居者や近所の住民が店番をしています。「銀木犀」には、地域のママたちや近所の子供たちが集まり、入居している高齢者と遊んでいます。人との自由なふれあいは、高齢者の認知症の進行の抑制や予防につながりそうです。

神戸市長田区の六間道商店街にある「はっぴーの家ろっけん」は、コミュニティベースの多世代型介護付きシェアハウス。遠くのシンセキより近くのタニン」が合言葉のシェアハウスは、子供たちや外国人、アーティストなど様々な年代の人々が、週に200人以上集まる場所になっています。

「はっぴーの家ろっけん」を運営する株式会社Happy代表の首藤義敬さんは、阪神・淡路大震災で壊滅的な打撃を受けた新長田の出身。ハコモノ中心の再開発でゴーストタウン化が進んだふるさとの街を、コミュニティの力で蘇られそうと介護付きシェアハウスを始めました。施設のオープンに先立って首藤さんは、まずはコミュニティに飛び込んで話を聞くというスタイルで、商店街のコミュニティスペースを借りて何度もワークショップを開催。「ここにどんな場所があったらいい?」という問いかけを通じて、地域住民を巻き込んでいきます。こうして、地域のオープンな遊び場として機能する「はっぴーの家ろっけん」が誕生し、採用難の介護人材も口コミを通じて募集費ゼロで集まりました。コミュニティとダイバーシティという新しい形の介護付きシェアハウスは、メディアや福祉業界から大きな注目を集めています。

現在は、コロナの状況もありながらも、未来の暮らしに大切なものは何かを教えてくれる活動のように思います。

ビュートゾルフのコミュニティベースの在宅ケアが成功した背景には、チームとクライアント、コミュニティのマインドセットがあります。それは「ティール組織」に必要な、個人のありのままの人格「ホールネス」同士のフラットな人間関係です。上下関係のない個人対個人のオープンな関係性こそ、ビュートゾルフに学ぶべき最大の価値のように思います。

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