【公開インタビュー】佐々木典士さん vol.2 マッチポンプ的生活をやめることで見えた、自分が選んでいるという確信

「ぼくたちに、もうモノは必要ない。3.11から始まった豊かな暮らしを探す旅、ミニマリストから ◯◯ へ」と題した佐々木さんの公開インタビュー第2回。モノを減らすことで獲得した自分ルールづくりの重要性とは?

会場のBETTARA STAND 日本橋は満席だった

vol.1 『ぼくモノ』出版から約2年、中道ミニマリストの次なる“実験”
vol.2 マッチポンプ的生活をやめて見えた、自分が選んでいるという確信
vol.3 ミニマリストは一度通過すればいい。繋がりから生まれる幸福感
vol.4 依存を最小限にすることも、ミニマリズム

佐々木典士(ささき ふみお)
1979年生まれ。香川県出身。早稲田大学教育学部卒。学研『BOMB』編集部、『STUDIO VOICE』編集部、ワニブックスを経てフリーに。2014年クリエイティブディレクターの沼畑直樹とともに、ミニマリズムについて記すサイト『Minimal&ism』を開設。初の著書『ぼくたちに、もうモノは必要ない。』(ワニブックス刊)は16万部突破、13カ国語の翻訳が決定。WANI BOOKOUTにて新連載「ぼくは死ぬ前に、やりたいことをする!」がスタート。

瞑想していない時間のために、瞑想をする

──広大な敷地たった一人で住んでいる佐々木さんですが、京都での生活についてさらに具体的にお聞かせください。何時に起きてどう1日を過ごしているのでしょうか。

佐々木:だらけてはいけないと思って、結構早く起きているんです。朝6〜7時には起きて、15~20分間ヨガやって、瞑想やって、朝食食べて。意外とちゃんとしてるんですね。

新旧が混在する京都。静寂の風景は、黄泉か真か

──瞑想やヨガを取り入れようと思ったのはどういう経緯があったんですか。

佐々木:最初は、情報の渦に巻き込まれてフリーズしてしまう自分に対して、再起動させてリフレッシュするという感覚でやり始めたんです。でも、最近は瞑想をしていないときの、自分の気持ちに敏感になるためにやってるって感じです。

瞑想、本当に良いですよ。何かを待っているような時間も、たとえば銀行の窓口なんかでも瞑想すればいいやって思えるんで。

──食事についてはどんな感じですか。例えばスティーブ・ジョブズやマイケル・ジャクソン、ジョン・レノンは菜食主義者で、肉を食べないことでクリエーティビティを引き出していたとも言われています。

佐々木:魚や牛乳はいただくけど、今は肉をあんまり食べてないかもしれない。でも、お肉ってすごくやる気が出るとも思います。編集者時代、忙しい時にステーキを食べると明らかにパワーが出ましたね。野菜だけ食べていてもそういうパワーは出るのか、実験しながらバランスを探っているところですね。

今お酒を断っているのですが、僕にとってはモノと一緒で、一回離れてみたらお酒を飲まないメリット、飲むメリット、その両方に気づいたんです。一生ミニマリストだと決めていないのと同じのように、一生断酒しようとも思っていない。なんでも一度試してみる、ということは重要ですね。

マッチポンプ的生活から、値がつかない価値への気づきへ

──朝食の後は?

佐々木:日記を書いたり、頭が冴えているうちにいろいろなアイデアを書き留めたりします。それで眠くなったらいつでも寝る。昼寝の価値ってすごいんですよね、脳が気持ちよく痺れるような、本当に幸せな気持ちになるというか。この間行った3,000円のマッサージよりも、さっきの昼寝のほうが気持ち良かったと思うことがたまにあるんですよね。最近は、そういった値段がついていないことの価値にどんどん気づくようになりましたね。

『ぼくモノ』を書いていた時もそうですけど、会社に勤めていた時は本当に忙しいと1日に2回もマッサージに行ったりしてたんですよ。そしたら、いったい何のために働いているんだってことになるじゃないですか。仕事の疲れを癒すためにマッサージ行ったり酒を飲んだりするのにお金を使って。そのお金が必要だからまた働かなきゃいけない。なんだかマッチポンプみたいですよね。

今はストレスのない生活ができているので、お金もかからないですね。

モノに囲まれていたころは、ネガティブな考えばかりが浮かび、何も行動できなかった
山積みのCD。あまり興味がない音楽にも造詣が深いフリをしていたのだとか

──マッチポンプ的になっていて疲れているというのは、自分でも感じることがあります。

佐々木:忙しいと部屋が荒れてどんどん悪循環に陥っていくんですね。忙しい人こそ、ミニマリズム、オススメですよ。家の中を簡単にしてシンプルな暮らしを実践していくとお金やモノの価値から離れていき、時間の大切さが身に染みるようになったんですよね。自分をすり減らしてまで働かなくてもいいんじゃないかなとか。それは会社を辞めた一因でもあります。

──モノを減らして佐々木さんのような状態になりたいと思う反面、家族がいる場合、モノとどう折り合いをつけていったら良いか正直悩ましい。

佐々木:難しいですよね。ミニマリズムに限らず、人がこれが良いと感じ行動に移すタイミングというのは自分でも選べないし、もちろん他人からも強制できないと思うんですね。「馬を水辺に連れてくることはできるけど、水を飲ませることはできない」って言いますもんね。そんな風にその人がモノを減らしやすいように、例えばゴミ袋を用意してあげたり、便利なサービスを教えてあげたりといったお膳立てはできるのかな、とは思っています。

人がモノを減らせないことにイライラしていると、と何かのついでに怒ったりする人が多いんですよ(笑)。「昨日あれがダメだったよね。そしてモノも捨てないしね」みたいに。相手を変えたいと思った時に非難する気持ちで伝えると、相手は閉じこもってしまいますね。お互いの信頼関係がまずあって、きちんと正面から自分の気持ちを伝える。モノに限らず人のコミュニケーションに必要なことだと思います。

持たない・持つ、自分にとっての価値を感じ取る力

──佐々木さんはモノ好きを公言していますが、モノが好きだというキラキラした気持ちとモノを減らすという行動との折り合いをどのようにつけているのですか。

佐々木:先日アンティークショップに行った時に、とっても楽しくてやっぱりモノが大好きだと改めて思ったんです。ただそれを持って帰りたいかというとちょっと違う。持たないメリットと持つメリットの両方あると思うんですけど、僕は持たないメリットを知り尽くしているので、持つメリットにたいがい勝つんですよね。

ドラゴンボールのスカウターみたいにモノを数字としてのお金に換算する人って多いと思います、「ピッピッピッ、このモノの価値は5,000円だ!」みたいにね。モノをお金に換算してしまうと、モノは手放しにくくなる。モノを持たないメリットって当然目に見えないからわかりにくいんですが、カウンターを捨てて自分にとって価値があるものを感じ取る力が大事ですよね。

モノは悪者ではもちろんないし、あってももちろん良いんですけど、個別に所有するんじゃなく、誰かと共有したほうが楽しい時もある。あとは、持っていてくれている人に感謝を忘れない。美術館や博物館にもよく行きますが、「保存してくれて、管理してくれてありがとう」っていつも思ってます。

消費者からクリエイターへ

佐々木:最近はDIYもやるので、そういった工具にも興味津々です(笑)。マキタというメーカーの工具は世界でも有名らしいですね。

──佐々木さんが最近DIYに気持ちが向かっているのには、何か背景があるのですか。

佐々木:自分でやれることを増やしたいという気持ちもありますし、買うより自分で作ったほうがへんてこでも楽しいっていうのはありますよね。なので、DIYの他に農業にも興味があります。消費者からクリエイターへという、これからの社会でも起こってくる動きだと思います。

体を使う、人とともにつくる。こうしたDIYや農業の共通点はきっと新たな未来を紡ぎ出す

──モノを作るとそれがまたモノになる。その作ったモノはどうするのですか。

佐々木:必要ないものは作りませんし、先日参加したゲストハウスの床貼りもそうですけど、作ることが目的ではなくて、何かを作り上げる過程を人と共有することが面白いって感じですね。

自分が作り上げたオリジナルルールは心地いい

──モノを減らす暮らしを経て、佐々木さんがどんどんアクティブになっている印象を受けました。

佐々木:汚い部屋に住んでいた頃は、出かける時に洗ってない食器や片づけられていないモノがあると、そのモノから語りかけられていたように感じていました。「出かける前にちょっと片づけていってくれないかな」と。そういうモノが全部なくなるとフットワークが軽くなるのはもちろん、人をすぐに家に招いたりできるようになりました。普段持っている荷物も軽くできるようになったので、一駅二駅歩こうとか階段使おうとか思えるようにもなりましたね。

あと、自分がどう見られているかも気にしなくなった。「お前の顔を気にしているのはお前だけだよ」という言葉がありますが、僕のこのメガネも替えたときに気づいてくれたのは一人だけ(笑)。だから、思い切って自分のやりたいことをやるのが良いんじゃないかなと思いますね。

僕はバスタオルを持っていなくて、お風呂から上がったら1枚の手拭いで体を拭いてそのまま手洗いして絞って干すんですよ。何時間かしたら乾いているので、それをまたお風呂入る時に使う。これを、みすぼらしいと思うひともいるでしょう。でもこれは自分が作り上げたオリジナルな方法で自分にぴったりだと思っているんですよ。これは自分で選んだ、という確信を持てるものが増えると、人の目が段々気にならなくなると思うんですよね。

──自分の心地良さに意識を向け、メソッド化するっていう感じですか。

佐々木:そうですね。僕、同じスウェット3枚あって、部屋着にも外着にも使っているんですね。だから、外出して家に帰ってきたらまったく同じスウェットに着替えるんですよ。馬鹿みたいですよね(笑)。でも、世間の常識から離れても自分で作り上げたルールだから心地いいんです。

──自分で決めることは大切ですよね。ミニマリストの生活を見るとすごく憧れるんですが、自分で取り入れようとすると苦しくなって逆に時間がとられてしまう。

佐々木:僕、結構質問されるんです、「佐々木さん、ミニマリストが持つべき手帳ってどんなのですか」とかって。でも答えはその人によって違います。ミニマリストってみんなが白シャツ着てMac持ってたらぼくも嫌だったでしょうし(笑)、所有物がすごい少ないという意味でもない。車持ってたらミニマリストじゃないとかの条件でもない。例えばすごくたくさんモノを持っていてもこれこそが自分に必要な量だと心の底から言えたら、僕はその人は、ミニマリストだと思います。僕みたいに家にいる時間が長くなったらお茶を飲むものを増やそうかなとか、同じ人でも最小限は移り変わっていくし、そのときどきで必要なものを考えていくことに終わりはないんだと思いますね。

アイデンティティを積み上げるとは逆の、ゼロにする快感

会場参加者:出版社に勤めていたにもかかわらず、本を全部処分されたと聞きました。その時はどういった心境からでしたか。

佐々木:本棚の本まるごと引き取ってもらいました。モノで自分のアイデンティティみたいなものを積み上げる楽しさもあるし、なくすことでアイデンティティをリセットする快感もあるんですよね。でも改めて本棚を作ることにも興味はあります。一度リセットしたからこそ、人に見せるためではい、これこそが自分だと言える本棚が作れるんじゃないかと思っています。

会場参加者:モノが多いところからミニマリストになるまでどれくらいかかりましたか。リバウンドはありませんか。

佐々木:だいたい1年くらいですね。簡単なものから始めて、上手くなっていってだんだん手放せるものが大きくなっていったという感じです。増やす気持ちがないのに増えちゃったというのがリバウンドだとしたら、今は明確な意思で増やしているので、リバウンドではないと思いますね。

──ミニマリストになるまでのお話を聞いていて、とても余計なお世話かもしれないんですけど、もし佐々木さんがご結婚されるとなった時に……。

佐々木:それ、よく聞かれるんですよね。みんな、親戚のおばちゃんみたいに心配してくる(笑)。

──結婚しないんですかということではなくて、誰かと生活を共にする時、ミニマリストが譲るポイント、譲らないポイントがあるのかなと気になって。

佐々木:モノを手放していると、冷たい人柄のように思われがちなんですけど、そんなでもないですよ。モノが少ないことが目的でなく、人間関係こそが大事だと僕は思っています。仮に相手がどうしてもソファが必要だと感じ、それがなければ二人の関係が壊れてしまうようであれば、そのソファはあったほうが良いと思うんです。

「結婚は諦めたんでしょ」とか「ミニマリスト同士じゃなきゃダメなんでしょ」ってよく言われるんですが、全然そんなことはないんですよ。

他によく言われるのは「モノがいっぱいあるところに行くと、死ぬんですよね」とか(笑)。それを自分が管理しなきゃいけないと思ったら嫌なんですけど、モノがたくさんあるところはむしろ楽しくて大好きですね。

──家に持って帰るか帰らないかの明確な基準はあるのですか。

佐々木:「見ている間は僕の物」っていうスナフキンの言葉がありますけど、所有しなくても見ている間に、僕は楽しんでいるなと思うんですね。ただ、それを家に持って帰って24時間楽しまなくてもいいかなとは思います。今は、高級車を乗り回している人を見ても、「高い維持費用をかけて持っていてくれて、無料でぼくにかっこいいデザインを見せてくれてありがとう」と思ったりしてます。


大量のモノでいっぱいだった佐々木さんの部屋は、本棚を丸ごと売った逸話も含め、一度、ゼロに近くなった。自らのアイデンティティだと思っていたはずのものは、人の目を気にして積み上げた、単なる塊だったのかもしれない。

「ゼロにする快感」は「空っぽの価値」と言い換えてもいいだろう。空っぽから、さて、何を選び、持ち帰り、どう使おうか。ここからは、情報の渦や常識の波と一旦距離を置き、自分と向き合えばいい。自分が決めたオリジナルの方法は、自分を癒す最良のマッサージなのだ。

第3回は、佐々木さんの考える、人との繋がりや家族観について話を伺った。コミュニケーションから生まれる幸福感の実態とは?

佐々木さんとYADOKARIメンバー。(左から)YADOKARI共同代表・ウエスギセイタ、佐々木さん、YADOKARI共同代表・さわだいっせい、YADOKARI編集部 副編集長・蜂谷智子、編集長・大井あゆみ