家入一真さん vol.3 共犯の関係性と、マネージメントしないマネージメント

「『お金』と『コミュニティ』の新たな価値を捉え、「小さな経済圏」をつくる。僕らが目指す◯◯の民主化。」と題した公開インタビューの内容をお届けする特集記事。第3回目からは、YADOKARI代表のさわだいっせい、ウエスギセイタの2名がモデレーターとなり、家入さんが思うコミュニティについて。マネージメントしないマネージメント、お金を介さない価値交換などについて思うことを語ってもらった。

vol.1 『クラウドファンディングは小さき物語の集積。“声を上げられる”ことが大事
vol.2 誰もに居場所をつくりたい」、そのための“人生定額プラン”構想
vol.3 共犯の関係性と、マネージメントしないマネージメント
vol.4 いい人って実はしんどい。いい人でなくても生きていける世の中に

家入一真(いえいり かずま)
1978年生まれ、福岡県出身。株式会社paperboy&co.(現GMOペパボ)を福岡で創業し、「ロリポップ」「カラーミーショップ」「ブクログ」「minne」などを創る。2008年にJASDAQ市場へ上場。退任後、クラウドファンディング「CAMPFIRE」を運営する株式会社CAMPFIREを創業、代表取締役に就任。他にも「BASE」「PAY.JP」を運営するBASE株式会社、数十社のスタートアップ投資‧育成を行う株式会社partyfactory、スタートアップの再生を行う株式会社XIMERAなどの創業、現代の駆け込み寺シェアハウス「リバ邸」の全国展開なども。インターネットが趣味であり居場所で、Twitterのフォロワーは15万人を超える。

共感では弱い。クラウドファンディングでは「共犯者をつくる」

──家入さんの活動テーマのひとつに居場所つくりがあり、「CAMPFIRE」ではその居場所をコミュニティとしてこれからより活性化していきたいと聞きました。家入さんから見て、クラウドファンディングのコミュニティはどんなふうに映ってるのでしょうか。

家入:クラウドファンディングの中のコミュニティでは「共犯者をつくる」っていう言い方がすごくしっくりくるんです。

コミュニティ形成に必要な者として、「共感」だけではちょっと弱くて、「お金を出した以上、お前も共犯者だからな」みたいな、ちょっと強制的な仲間感というか。

僕の中には、“クラウドファンディングの3分の1ルール”っていうのが明確にあります。例えば100万円お金が必要な場合、「リアルな友人・知人・親・親戚」からと「SNSでつながっている人」からとでそれぞれ3分の1ずつ集めます。そして、最後の3分の1は全くの見ず知らずの方々がプラットフォームを通じて支援してくれる。

クラウドファンディングはやるだけでお金が集まる魔法のツールではないですし、成立させるには、いかに熱量と巻き込んでいく力を持つかと、初動が重要です。

──そこに「共犯関係」が必要なのですね。

家入:一方で、「リバ邸」については、入居者を「こぼれ落ちたやつら」ってよく言ってますけど、救いたいとかじゃないんですよね。「こういうの僕らやるけど、一緒にやる?」「やるー」みたいな、それぐらいなんですよね。

最初からマネージメントしないといろいろなことができる

──ジャーナリストの佐々木俊尚さんは「ゆるいつながり」がすごく大事と言っています。家入さんが代表を務める「Liverty」運営の「リバ邸」は、誰でもいつでも訪れ、住み、つくることができるシェアハウスですよね。それも「ゆるいつながり」を持つことが目的でしょうか。

家入:そうですね。強いつながりっていうのは、例えば親兄弟に「こういう方向にいこうと思うんだけど」と相談したところで「いやお前には向いてないよ、無理だって」と往々にして引き戻されちゃう。一方で、違うコミュニティに属してる人や、たまたま出会った関係などのゆるいつながりの人は「それならこういう人がいますよ、こういう人紹介しましょうか」なんて違う道に導いてくれたりとかが、起こるってことですよね。

この前、リバ邸忘年会をやったらめっちゃ人が集まったんですけど、リバ邸プノンペン管理人って人が来てましたね。「え?プノンペンにあんの?」みたいな、僕も全然知らないんすよ(笑)。

リバ邸に関しては、「マネージメントしないマネージメント」って呼んでるんですけど。マネージメントしようとするからカタいものになってしまったりするし、マネージメントできないものが発生したときにあたふたしてしまったりする。それならもう最初からマネージメントしないっていうマネージメント方法を取っていれば、知らないうちにいろいろできちゃうんですよね。

もちろん弊害もあると思いますよ「でも、それもそれかな」みたいな。ゆるいですね(笑)。

──学校や職場、家庭以外の第三の場所、いわゆるサードプレイスに関心を持っている方って多いと思うんですが、肩書や地位、年齢などに関係なく共感し合えるコミュニティの中に幸せのポイントがありそうが気がします。

家入:僕、京都の鴨川がすごく好きで。あそこにふらーっと行って大学生とか何人か呼んだりして、朝まで飲むみたいなのやってたんですけど、ああいう年齢も肩書きも取っ払われる「何者でもない人間」になれる場所って実はすごく貴重で、周りを見渡してもあんまりない。普段背負っていることから解放された瞬間にできる、新しいつながり方みたいのってあるって思いますよね。

お金を介さないつながり、0円にしてみて得られるもの

──僕らが運営している「YADOKARIサポーターズ」っていうFacebook上のコミュニティには全国から3,000人ぐらいが登録してくださっています。この中で「この中にいる建築家さん、一緒にやりませんか」って手を挙げてもらってクラウドソーシングが生まれている。お金を介さないコミュニケーションが発生してきてて、最近はいかにマネタイズとか言わずに物事がうまくやれるかをいろいろ模索してるんですけど。

家入:ビジネスっていう観点で言うと、僕も最初にマネタイズを考えるようなことはほとんどしないですね。ただ、キャッシュポイントっていうか、マネタイズできるポイントみたいなのは、ある程度ぼやっと「ここら辺かなー」みたいなのがあって。最初からガチガチに考えちゃうと一歩も進まなくなっちゃうし、そもそも事業計画通りに物事が行くなら世界中の会社はうまくいってるわけで。

「0円にしてみたら生まれるものって結構あるんじゃないかな」(家入さん)

──とはいえ、「CAMPFIRE」ではお金もかなり入れて大きく動き始めたっていう印象を持ったんですけど、それはどういう流れだったのでしょうか。

家入:クラウドファンディングについては、日本中の人たちがもっと気軽に使えるものになるべきだと僕は思っています。どうしてかっていうと、これからは、自分のお金がどういったところに回って、それによってどう社会が良くなるかをひとりひとりが考える時代になっていくと思うからです。

そう考えると、クラウドファンディングのプラットフォームが小さく納まってしまうと小さいままで終わってしまい、社会はなかなか良くなりませんよね。「CAMPFIRE経済圏」、そんな言い方がいいかわかんないですけど、そういったなめらかなお金の流れをもっと最大化しないといけないと思っています。

──僕らの場合、マネタイズとお金を介さない価値交換との過渡期に来ていると感じています。そのバランスを取るのに必死だったりしますね。

家入:あとは、従来お金を取っていたものを無料にしてみたらどうなるか、っていう視点はすごい好きですね。「カルマキッチン」っていう無料のレストランの実験がありますが、要は恩送りみたいなもので、「あなたの今回の飲食代がなぜ0円かっていうと前の人があなたの分を払っていったからだ」「もし良かったらあなたも次の人の分を払わないか」と。この発想はすごく好きですね。

僕がやった完全無料のプログラミングスクールも、学費を取るとその時点でお客様の関係になってしまうのが嫌というのが始まり。教育が最近おかしいのは消費者意識みたいなのが肥大化しちゃってるからじゃないか、と思ってて。無料でも結果的には、受講終了後に別のプロジェクトにジョインしてくれたやつもいるし起業したやつもいるし。0円にしてみた結果、生まれるものって結構あるんじゃないかな。

家入さんを囲んで。「お金を介在させない人とのつながりに、新しい未来が期待できるのではないか」( YADOKARI)

──本来は物々交換が価値の交換だった。ところがお金が介在したところから「お客さんは神様だ」的な発想が生まれて、バランスがちょっとおかしくなっているような気がします。僕たち的には、お金を介在させない仕組みや別の価値と交換できるようなものをつくれると、よりつながりを感じられると思っています。

僕らが運営する別荘地専門の不動産メディア「休日不動産」で以前、「僕らに空き家をただでください」という内容を掲載したことがあったんですよ。そしたら「ただであげるよ」っていうのがブワーッと、ほんと何十件と来たんですよね。普通に不動産屋を通して転売してもそんなに儲からない、それなら若い人の面白そうなアイディアに賭けるみたいな感じで。

家入:超すごいっすねー。

──せっかくただでもらったんで、ただでどんどん貸し出して使ってもらうっていう仕組みがつくれないかなと思っていて。自分の価値やノウハウを提供してもらって、その代わりに「ここに一泊してもいいですよ」とか。その流れをウェブも含めてどんどん可視化していくことで、お金を介さない付き合い方が社会で加速するんじゃないかなと思ってるとこですね。

家入:へー、いいなー。ちょっとうらやましいなと思いますね。


共犯関係の強いつながり、マネージメントしないゆるいつながり、普段背負ってるものから解放された新しいつながり。家入さんは、こうしたさまざまなつながりをグラデーションで捉えている。それぞれの状況やゴールに向け、グラデーションに合わせた接着の強度を使い分けていくのが、これからのコミュニティ形成に必要な視点だろう。

さらにこれらのコミュニティの中で生まれた価値をどう交換するのか。価値交換とマネタイズのバランスについてはYADOKARIも悩み、今その過渡期にあるが、家入さんの言う「従来お金を取っていたものを無料にしてみたらどうなるか」と言った、逆さの視点から考えることにもヒントはありそうだ。

物々交換? 次のチャレンジ? 感情のバトンタッチ? 別な誰かに? やっぱりお金? 視野・視点・視座を変えながら、一度頭をサラにして、「誰に何をどのタイミングでどのように……」と考えるだけでもいくつかアイディアが生まれ何かできそうな気がしてくる。

第4回は、家入さんが思う評価経済について話を伺う。いい人でなくても生きていける世の中になるには?

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